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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
生贄の詐欺師と白竜の運命
45/64

白き古都 3

 午後二時。

 白亜の塔、ヴァチカンを見上げて、祭星は白い息を吐いた。 今日は昨日より冷えが増している気がする。 白いヴァチカンの建物も相まって、風景だけ見ても寒い。

雪は降っていない。 地面に残った積雪を踏みしめて、祭星はヴァチカンの扉をくぐった。

 暖房の効いたエントランス。 中は賑やかで、寒さも吹き飛んだ。 部下に指示を出す者や、資料を持って急ぎ足で駆けてゆく者。 なんら変わりない、いつもの風景。

 と、思っていたのだが、それは間違いだったらしい。

エントランスを抜けてロビーへ。 そのロビーに設置された巨大なディスプレイに映し出されていたのは、この世のものとは思えない光景だった。

 真っ白に凍った日本を代表する観光地、京都。

神社は白く色どられ、猛吹雪の中、木々が揺れる。 リポーターの膝下まで積もった雪は、まだ柔らかい。

「どういうこと……?」

 祭星は唖然として、ディスプレイに釘付けになった。 ほかの隊員達も同様だ。 ロビーに併設してある事務所では、電話がひっきりなしに鳴っている。

 電話対応に追われる事務員達の中の一人が、騒がしいロビーにも届く悲痛な声で叫ぶ。

「同様の現象は世界各国で起こっています! 日本だけに全部隊を回して解決に向かうことはできません!」

 その声を聞いて、ロビーにいる何人かが口々に言う。

「また日本か……。 あの国は絶対何かあったらこっちに魔法使いを回せって言ってくるんだよな」

 祭星が再びディスプレイに視線を戻すと、次に映し出されたのはロンドン。 そしてその次はアメリカ、イギリス……。 果ては砂漠の国エジプトまで。 全てが雪と氷に覆われた世界へ変貌している。

「祭星!」

「蓮!」

 小走りで駆け寄って来たのは恋人の蓮。 握りしめているのは真新しい資料だろうか。

「これどういう状況なの?」

「そのことで、リオンさんから任務が下った。 日本の京都に行く前に、ヴァチカン周辺の調査任務だ。

 俺たちが受け持ったのは……、ああ、ちょうどクラウンさんの屋敷のある地区だ」

「もしかしてこれって、全世界で……?」

「雪と氷で覆われているのはいまディスプレイに写っている場所だけだ。 他の場所は相当な冷え込みと聞いている。 ヴァチカンでも臨時の世界会議が行われてるそうだが……。 なんせ急な現象だ。 情報も少ない今、会議をしても原因はわからないだろう」

 蓮は祭星に防寒用マントを手渡す。 祭星はそれを着込むと、鍵を取り出し、扉をつなげる。

「でも、私今日は家から来たんだよ? その時は特別寒いなんて……!」

「段々と寒さが増してるらしい。 行けばわかる」

 屋敷の庭にたどり着いた。 芝生を踏んだ途端、氷が砕けるような音が足元から響いた。 凍っていたのだ。

肌を刺す寒さに驚く。 植物には霜が降り、煉瓦造の通路さえ凍りついている。

「うそ……!」

 祭星は急いで駆け出す。

ここには沢山の隣人や魔物がいたはずだった。 この庭にいる魔物は全てクラウンが傷ついた魔物を癒し、飼育している魔物だった。 ちょっとしたイタズラをすることはあっても、人間を傷つけることは絶対にしない、家族のように大切な存在。

 どこにもいない。 祭星は混乱する気持ちを抑え、白狼の名前を叫ぶ。

「フェンリル! フェンリルどこ?! お願い出てきて!!」

 泣き叫ぶような声を聞き取った白狼は、庭の隅から飛び出てきた。 そして小さく吠え、祭星に居場所を伝える。

祭星はフェンリルに駆け寄ると、頭を撫でる。

「よかった、無事だったんだ……! ねえ、他のみんなは? 魔物たちはどこに……!」

 フェンリルは後ろを見る。 そこには火属性の隣人や魔物たちを取り囲むようにして暖をとる大勢の魔物と隣人がいた。 それをみて、祭星はホッと息を吐き出した。 だが安心してはいられない。 すぐに彼らに声をかける。

「ここは寒いから、屋敷の中に入って!」

 それからフェンリルと共に祭星は隣人と魔物を屋敷へ誘導した。 エントランスに集めている最中、息を切らした蓮が駆け込んできた。

「蓮、どうし……」

「っ、はぁ……、はぁ……! 森の入り口で倒れてたんだ、凍傷だ。 一階を借りていいか? すぐに治療する!」

 蓮が抱えていたのは中型魔物。 ガタガタと震えていて、顔色が悪い。

「私も手伝うよ!」

「いい、お前はここでみんなを見ててくれ」

 蓮は駆け足で二階へ向かった。 祭星は凍えながらも温度計を見た。 マイナス二十度。 日本では経験したことのない寒さだ。 屋敷の周りにいた隣人を中に入れて、火属性の隣人や魔物達に暖をとるのを手伝ってもらっている。

このような異常気象、魔物にとっても隣人にとっても、この気温は低すぎる。 困っているようであれば助けなければ。

「大丈夫? みんな寒くない?」

 白い息をはきながら、祭星がエントランスを見渡す。 言葉を話せずとも理解はできる魔物や隣人は、彼女の言葉に頷いた。

「よかった……。 目先のことしかできないけれど、とりあえず屋敷の近くにいた子達はこれで一安心だね」

 火を灯し続ける魔物達に、祭星は自分の手首を少し切って、手を差し出す。

「ごめんね、ずっと力使ってたら魔力が尽きちゃうのに。 ありがとう。 少ししか渡せないけれど……」

 犬の形をした火属性の魔物、ケルベロスはちびりちびりと血を舐めて、嬉しそうに「わん!」と吠えた。

傷口にそっと手を触れたのは風の隣人、エアリアル。 ふっと暖かく心地の良い風が手首をくすぐり、瞬く間に傷口がなくなった。

「ありがとう。 私はもう一度外に出て、異変がないか確認してみるから、みんなはここにいて。 大人しくできるかな?」

 魔物と隣人達は不安そうな声を上げながらも頷いた。 その時、二階から蓮が降りてくる。

「蓮」

「魔物と隣人達は無事みたいだな。 こっちも、重症の魔物はみんな無事だ。 二階の客室で休ませてある。 それで、外に出る前に一度確認したいことがあるんだ。

 誰でもいい、この異常気象について知ってる子はいないか?」

 蓮がそういうと、熊のような魔物が小さく吠えた。 そして何かを伝えるように唸る。

蓮はその鳴き声を聞いて、相槌をうつ。 どうやら話が分かっているらしい。 祭星は驚いたような顔で蓮を見た。

「……ハデス、だと?」

 絞り出したような声で、蓮が驚愕した。

「この異常気象は……ハデスの逆鱗か」

 顔を見合わせる二人。 ハデスといえば上級魔物だ。 それも強力な。 古の魔物。 今まで人前に出てこなかったはずだ。

「……ありがとう。 お前達は絶対ここにいるんだ。 俺達に何があろうとも、この寒さが消えるまでずっとここにいるんだ。 わかったな?」

 念を押し、蓮が防寒用のマントを羽織って外へ出た。 祭星もそれに続く。

 外はやはり極寒だ。 噴水の水は凍りつき、植物は元気をなくしている。

「これだけ寒いのに雪は降ってないんだね……」

「降られたら困る。 不幸中の幸いだったと思おう」

 蓮が小型のPCを取り出し、本部へ連絡を取ろうとした時だった。

「白石蓮さん、ですよね?」

 鈴を転がしたような声が聞こえた。 後ろを振り向くと、そこには長い髪を結った小さな少女が立っていた。 その後ろには、両腕を後ろで固定された男性が寄り添うように立っている。

男の肩章をみた祭星は思わず声を上げてしまった。 その肩章は七冠者と呼ばれるもののみがつけることのできる証だったからだ。

「憤怒のファルシュ・アドラステアさん……、ですよね?」

「よく知っているな」

 抑揚のない声で男は言った。 ファルシュの前に立っていた少女は礼儀正しくお辞儀をする。

「はじめまして。 私はリイナといいます。 ファルシュさんとはよく行動を共にしています。それで、えっと。 こうなってしまった原因とか、わかりましたか?」

 それを聞いて蓮が眉間にしわを寄せた。 あからさまに嫌悪感を抱いている顔だ。

「なあ、タイミングが良すぎやしないかリイナ二等兵さん。 俺たちはさっき屋敷から出てきたんだ。 それなのになぜ俺たちに原因を訪ねに来るんだ?」

 それに。 と蓮が言葉を続ける。

「この地区に配属されたのは俺と祭星だけだった。 なんであんたたちはここにいる? 俺らをつけてきたとしか、思えないんだが?」

「……鋭いな」

 ファルシュが感心したように言った。 そして自分より背の低いリイナに目線を落とし、声を投げかける。

「隠しても仕方がない、話せ」

「わかりました」

 リイナはそういうと、解析魔法を発動させる。 彼女の周りに半透明のディスプレイが浮かび上がり、その画面の一つに見たことのない魔法陣のようなものが描かれている。

 祭星はそれをみてピンときたようだった。 日頃から魔法学に興味があったからこそ、この魔法陣を知っていたのだろう。

「先ほど、ヴァチカンのホームページに、杯祭星さん宛に届いた秘匿メールです。 暗号化されていたので私に解析が回ってきました。 そちらを解析したところ、この魔法陣が描かれていたのです。 祭星さん、この魔法陣に見覚えがあったりしますか?」

「これは魔法陣なんかじゃない……! 紋章だ!

 リイナさん、すぐにお父さ……、じゃなくてクラウンさんに連絡してください! あとリオンさんにも回したほうがいいです。 これは、アンチュリエっていう組織の紋章です!」

「ええ、それはわかっています」

 リイナが鋭い視線を祭星へ向けた。

「なぜアンチュリエの紋章が貴方向けに届くのでしょうか? 私はそれが知りたいのです」

「……つまり?」

「アンチュリエはヴァチカンの敵対組織です。 貴方がアンチュリエの一員だったとしたら……。 それは王に対する不敬です」

 リイナの言葉に、蓮が我慢できずに一歩身を乗り出して声を荒げようとするのを、祭星は制した。

「私は知らない。 ……私、あんまりこういうことは言いたくないんだけど」

 蒼いブローチが胸元で煌めいた。

「二等兵の貴女が、群青のクレアシオンである私に疑いを向けるの?」

 彼女の感情を示すように、腰に下げたエスペランサが赤く輝きを放つ。 こんな見た目でも彼女はこの世界で唯一アルトストーリアを扱うことのできる魔法使いだ。 可愛い顔をしていても、気迫と魔力だけで他人を御せる。


「はいはい。 仲違いはその辺にしておけ」


 凛とした声が空から降って来る。 祭星とリイナの間に降り立ったのは、青と白を基調にした3mほどの機体。 そしてそれの肩に座った技術開発塔の次席。

「文緒さん!?」

「よ、久しぶりだな。 届けにきたぜ、アンタ専用のZEXTだ」

 ヒョイと機体から降りて、文緒はリイナの側に行くと頭を小突く。

「勝手な行動すんのはやめろ! 憤怒の君も、ちゃんとこいつのお守りしとけよ! 今回は厳重注意だ。 解析したものは独断で見るな! ちゃんと上に回せ!」

「す、すみません……」

 泣き出しそうになるリイナ。 だがその様子を、ゼクトの巨体で見ることができない祭星は、仕方なくゼクトを見上げる。

青が眩しい機体。 しっかり聖歌隊のマントを羽織っているので驚きだ。

『久方ぶりだな小娘。 それと小僧』

「こんにちはゼクトさん。 もしかして正規稼働……?」

『ああ。 今日から己も聖歌隊で世話になる。 マスターは小僧、貴様だ』

 そういえばそういう事を初めて出会った時に言っていた。 と蓮は思い出した。 鼻先を赤くしながら、蓮は同じようにゼクトを見上げ、そして彼の後ろにいて見えないリイナへ声を投げかける。

「で、疑うだけ疑っただけか」

「蓮、もう大丈夫だよ。 それに、今はその話をしている場合じゃない」

 祭星は蓮を止めて、リイナへ向き合う。

「この状況を引き起こした要因は、魔物と隣人が言うにハデスのせいらしいです」

「ハデス、ですか……。 やっぱり二体いたんですね」

 リイナはそういうと、再びディスプレイを広げて二つの画面を映し出す。

そこには日本の映像と、イタリアの映像が流れていた。 どちらも氷雪化が進み、氷漬けになる寸前だった。

 蓮はピンと来たようでイラつきを隠せない声で言う。

「最初から分かってたんだろ、どの魔物が引き起こしていて、それが何体いるのか……。 それが分かってた上で俺たちをここに向かわせたってことか。 そこの憤怒の大罪を持つ男の権力を使って」

「アンチュリエのアジト、そして黒闇宗の拠点がこの氷雪化の中心地だったんです。 このタイミングで祭星さんにアンチュリエの紋章が入ったメールが届いたのならば、疑ってもおかしくないとは……」

「ふざけんなよガキが!」

 蓮が遂に怒鳴り声をあげた。

「コイツは! この寒さのせいで屋敷の周りで死にかけてる隣人や魔物を全員助けたんだ! 先のヴァチカン襲撃の時はアナスタシアを命がけで討った!」

「そもそも、なぜ魔物を助けるのですか? 魔物は私たちにとって討伐すべき対象だと、ヴァチカンで教えられるはずです! 魔物主義はイルミナティの掲げる目標。 そしてアンチュリエは、イルミナティから派生した組織です!」

 蓮が更に声を荒げようとしたところで、二人の間にクラウンが割って入った。 リイナに軽い昏睡魔法をかけ、ぐらりと傾いた彼女の体を支える。

「まったく、パピーのリードを放すなと言っただろうファルシュ。 ……拘束解除、憤怒の君。 両の腕を使え」

 ガラスが割れる音がして、ファルシュの拘束具が砕ける。 クラウンはリイナをファルシュへ預けて、蓮と祭星に向き合う。

「緊急任務だ、二人とも」

「緊急任務……?」

「ああ。 今すぐ日本の京都へ行ってもらう。 黒闇宗の拠点にだ。 向こうとはもう連絡を取ってある」

 クラウンはそう言うと、強張った顔をしていた祭星の頭を撫でる。 先ほどのリイナの話で身構えていた祭星の緊張を解くのが目的だったのだろう。

「お、お父様……」

 祭星はその優しい手つきに、少し安心したようだった。 泣きそうな顔になってしまった祭星を、クラウンは抱きしめる。

「大丈夫だ。 誰もお前が裏切ったなんて思ってない。 お前は自分が思う道をまっすぐ行きなさい」

「……はい」

 涙で震える声をやっとの事で出し切った祭星。 クラウンは祭星を抱きしめたまま、スッと蓮に小さなカードを手渡した。 蓮はそれを受け取って、宛名を見ると声を殺して驚いていた。

見れば、クラウンはかなり深刻そうな顔でこちらを見ている。 蓮は頷いて、そのカードを祭星に見つからないように自分の腰に下げた革鞄の中に滑り込ませた。

クラウンがそれを確認し、祭星を手放した。 そして耳元のインカムに指令を出す。

「こちら聖騎士クラウン。 白石軍曹、並びに祭星中尉への任務を発行した。 直ちに伏見へのゲートの準備を」

 ザザッと機械混じりの雑音が響き、ヴァチカンの戦術支援部隊員と思しき声がインカムから聞こえる。

『こちらヴァチカン司令本部。 任務発行を確認しました。 残り五秒でゲートを開通いたします。 ゲート開通まで五秒……』

 二人の目の前に黒いゲートが開いた。 紫色の粒子が辺りに舞い始める。 地響きを鳴らしながら存在し続けるそのゲートは初めて見るものだ。

「これがゲートだ。 鍵を使っても行けるんだが、この気象現象のせいで魔力がうまく飛ばないんだ。 伏見へ行くのはお前たち二人と……」

 クラウンの隣に魔法陣が開く。 だがそれは少し乱暴というか、力任せに場所を捕捉されたようだった。

これにはクラウンも警戒を示し、防寒マントを翻し腰に装着していたリボルバーを構える。 特殊弾が装填されているようで、ガチャンという重たい金属音が鳴る。

「……っ、待て待て! 私ですよクラウン!」

 魔法陣から転がり飛んで来たのはアークナイトのリオン。 珍しく息を切らしていた。

「なんだ、お前か。 無理やり飛んで来たからいつもと違かったのか」

「ほんと、この天候のせいで魔力が飛ばない……。 厄介だ。 というわけで、遅くなってすまないね二人とも。 黒闇宗には私が同行するよ。 ジョシュアとレイには別の任務が下った」

「一緒じゃないんですか……?」

「彼らには暗殺部隊の任務がある。 いつも一緒に任務ができるというわけではないんだ、わかってくれ祭星」

 祭星は納得したように頷いた。 そしてゲートを睨みつける。

クラウンが三人分のインカムをリオンに渡す。

「魔力が通じないならそれを使うしかないからね。 じゃあ、無事に帰ってこい。 詳しい任務内容はリオンから聞くように」

「はい。 行ってきますクラウンさん」

 リオン、祭星の順にゲートの中へ。 蓮は続いてゲートへ足を踏みいれようとして、クラウンへ向き合う。

「これ、間違いなんかじゃないんですよね」

「ああ。 間違いだと信じたいが事実だ。 でも心配はいらない、祭星は決してアンチュリエと通じてなんかいない」

 蓮が先ほどクラウンから渡されたカードにはアンチュリエの紋章と、メッセージが書いてあったのだ。


『私たちはその力をいつでも歓迎しよう、エトワール』

 

「アンチュリエが何を考えているのかは知らん。 だが私たちへのミスリードだったとしたら? これが送られてきたのは今日だ。 世界にこの異常現象が起った日と同じなど、都合が良すぎる。

 ……気をつけろよ蓮。 必ず、そのZEXTとリオンと共に祭星を守ってくれ。

 黒闇宗は完全に白だ。 たとえお前を堕とした張本人がいたとしても、我々が手を組むべき組織はもう黒闇宗しか残っていない」

「わかってます。 過去の出来事とはもう折り合いを付けるべきだと、俺は思ってますから」

 ゲートを見据え、愛刀の白竜鬼神を握りしめる。

「必ず守ってみせます。 きっとそのために俺は闇に堕ちたんだ」

 蓮はゲートへ消えて行った。

クラウンはゲートが閉まっていく様子を見ながら、心配そうに息を吐き出す。

後ろからは小さなうめき声が聞こえて、リイナが目を覚ましたようだった。

「う、あれ……。 わ、わたしはなにを」

「……リイナ二等兵。 光と闇がどうして反発し合うかわかるか?」

「聖騎士さま……?」

 うろたえるような声を出すリイナ。 クラウンは続ける。

「決して混ざらない光と闇。 光が闇を生み出し、そして闇あるところに光が生まれる。 光を救えるのが闇ならば、逆もまた然り。

 あの子はどれだけ混ざり合っても自分の意思と光だけは消えない。 同じように蓮もまた……。 どれだけ救われようとも闇は消えない。 そして救われる度に、その闇は深くなり、彼という人間を強くしているんだろうな……」

 クラウンの言葉を静かに聞いていたリイナとファルシュ。 そして後ろに控えていた文緒が小さく問いかける。

「アイツらは、この世界を救えるだろうか?」

 その問いに、クラウンは首を振ることもなく、頷くこともなかった。

「世界は救わないさ。 ただ、互いの事は救うだろう。

 結果的にそれが……世界を救う事になるというだけさ」

 彼の声が、寒空に消えて行った。

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