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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
生贄の詐欺師と白竜の運命
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白き古都 2

 早朝、ヴァチカンに在るクラウンの自室には暗殺隊の隊服を着たレイが訪れていた。 時刻は6時だというのに、クラウンもレイも目が冴えているようだった。

 クラウンはレイから渡されたUSBをパコソンに繋ぎ、画面に広がった書類を見て眉間に皺を寄せた。

 昨日、レイが食事会を欠席したのはスパイ活動のせいだった。 クラウンはため息を小さく吐き出して、レイへ視線を向ける。

「レイ、たしかにスパイをしろとは言ったが、流石にここまではしなくていい……。 祭星の誘ってくれた食事会を楽しみにしていたんだろう」

「そうだけど、そうだけどな……」

 レイは素の自分をクラウンに曝け出すようになっていた。 男のような喋り方で、クラウンに言う。

「よく……考えたんだけどさ、オレ、多分祭星のことが好きなんだ。 そう思ってすぐに、アンチュリエのやろうとしていることを全部調べ直したんだ」

 レイがクラウンに渡したUSBを見る。

「そこに、書いてある通りなんだ」

「……想像以上だ。 ここまでの組織とは思わなかった」

 調べ上げられた資料。 そこに書かれてあるのは今までアンチュリエが行ってきた非人道的な実験と、その代償。

クラウンは一つ一つにサッと目を通す。 その中でも絶句したのは、アンチュリエにアナスタシアの実験資料が知れ渡っている事だった。

「これがもし本当なら」

 レイは絞り出すような声で、クラウンへ告げる。

「アンチュリエの総帥、カリオストロは……。 幹部たちによって造られた存在。 見かけだけの総帥で、ただの傀儡ということになっちまう」

 彼女の調べた資料にはこう書いてあった。

 カリオストロは元々孤児の五歳の少女を攫い、その少女に無理矢理魔力を埋め込んだ。

そうして出来上がった少女を組織の総帥に仕立て上げ、五人の幹部たちは彼女を操っているという。

そのことを知らされているのは誰もいない。 つまり知っているのは幹部のみ。

 カリオストロと仲の良いレイですら知らなかった事実。 むしろ、仲がいいからこそ教えなかったと言うことも考えられた。

怒りさえ感じる。

 レイが拳を痛いほどに握りしめたのを、クラウンは見ていた。 そして今にもアンチュリエへ殴り込みに行きそうなレイに声をかける。

「お前は黒闇宗という組織を知っているか?」

「コクアンシュウ? 確か……アンチュリエと敵対してる組織だったかな……」

「他に知っていることは?」

 レイが手帳を取り出す。 びっしりと様々な組織のことが書かれている手帳だ。 パラパラとページをめくり、あるページでとまる。

「アンチュリエの数年前の大規模作戦で、黒闇宗に乗り込んでいるみたいだ。 失敗に終わったけど……」

「乗り込んだ? なぜそんなことを」

「多分、これがダメだったからヴァチカンの祭星に目をつけたんだ」

 その情報を聞いて、クラウンはハッとして思わず立ち上がる。 資料を睨んで、目眩を感じる頭を片手で抑えた。

「アナスタシアの、制御装置か……!」

「多分それだ。 昔、ヴァチカンにいた一彦がアナスタシアから奪った人工生命体……。 エトワールと対をなす存在で、エトワールの魔力を制御することができる存在。 それが今は、黒闇宗にあるらしいんだ」

「ああぁもう……!」

 クラウンが椅子に倒れこむようにして座った。 難しそうな顔をしていた。

「こりゃますます黒闇宗に行かなければならない理由が見つかった……」

「なぁ、制御装置ってのはなんなんだ?」

「その名の通りだ。 アナスタシアはもしもエトワール、祭星が暴走をし、言うことを聞かなくなってしまったときのために彼女を制御し、思うように動かせることのできる存在を作った。

 彼女の魔力を共有することができ、一方的に感情、考えを読み取り、エトワールと全く同じ力を持つことのできる存在……。 敵になったら厄介だが、これが黒闇宗にあって尚且つ向こうからコンタクトを取ってきたんだったら、確実に味方にすることができる」

 クラウンは向こう一週間のシフトを見て考え事をする。 リオンとその部隊員達のシフトは埋まっていたが、そこを全て消してしまう。

レイはそれを見て、クラウンへ言う。

「黒闇宗に行くのか」

「ああ。 いずれ祭星は天界や魔界からの接触を受けるだろう。 その際に、蓮以外に彼女を支える者が必要だ。

 レイ、君はどうする。 黒闇宗に行くかい?」

「……。 ジョシュアは?」

「行くよ。観光したいんだって」

「……ははっ」

 乾いた笑みをこぼすレイ。 そして優雅に髪をはらうと、自信満々に微笑む。

「わたくしがいませんと、ジョシュアの世話をできる方なんて早々いないでしょう?」

 クラウンは深く頷きながらも微笑んだ。

「君、そっちの方が似合っているよ」

「こっちは令嬢スタイルなの。 どちらのわたくしも、本物ですのよ」

「やれやれ……。 世話など言わず、ジョシュアがきになると言えばいいものを。 京都を観光できるんだぞ、ジョシュアと一緒に」

「な……」

 顔を真っ赤にしたレイが、わなわなと震える。

からかってみたのだが、この反応は祭星と蓮よりも面白い。

「そんなわけありませんわっ! あんな下品な男に誰がくびったけになるものですか!」

「それはなっているんだな?」

「わ、わたくしは……! 婚約者が、彼だったら良かったのにと思うだけですわ」

 レイの婚約者はジョシュアの兄。 幼い頃からの許婚だが、彼女はあまり乗り気ではないようだった。

クラウンも昔は親同士の許嫁がいたのだが、その女性は自分に呆れて出て行ってしまった。 その事を思い出した。

「レイ、これは私の体験談なんだが……」

 デスクに飾ってある妻の写真を見て、苦笑する。

「人生どう転ぶかわからないぞ」

「と、いいますと?」

「なに、私も昔は許婚がいた。 だが彼女は私の生活習慣や部屋の惨状を見て出て行ったよ。 結婚をする前にね」

「部屋が汚かったですの?」

「そりゃあもう」

 顔に似つかない。 何もかもを完璧にしているように見えるのに。 だが、最近になって一緒に過ごすようになった祭星が「お父さんは家じゃ何もしないよ」と、言っていた気がする。

「めんどくさいんだ。 やりたいことがまだたくさんあるのに、食事に掃除に風呂に睡眠……人間はやることが多すぎる! 私はもっと研究資料を読み漁ったり任務に集中していたいんだ。 任務中に空腹を感じるあの瞬間がたまらなく憎いよ。

 今の妻、ブランシェットは世話好きでね、身の回りのことはなんでもやってくれる。 言わなくてもせっせと掃除して料理をして……。 まあ、何もそこだけを好きになったわけではないけれどね」

 職場のデスクトップに妻の写真を飾っているくらいなのだから、相当な愛妻家だろう。

聞けばブランシェットは魔物に狙われやすい魔力を持っていて、クラウンがそばにいる事でその魔力を隠しているらしい。

「……許婚がいるのは辛いな。 良い人間を装わなければいけないし、幼い頃から自分の将来を否定されているような気になってしまう。 だからこそ君は、自由に生きるジョシュアに憧れて、惚れ込んだんだろう?」

 レイが無言で頷いた。 クラウンは幼い娘を見るような優しい瞳になる。

「応援しているよ、たとえ叶わない願いだとしても……」

「ありがとう、ございます」

 レイはクラウンの言葉を、少し泣きそうな顔で受け取っていた。


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