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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
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砂の魔物 4

 だがすぐに、一体の魔物が斬り伏せられた。 狂気を孕んだ殺気を感じ取った魔物達は、怯えたようにその殺気に振り向く。

もう一体の魔物が、紫の一閃で細切れになる。 さらにその横にいた大型の魔物は、重たい蹴りを喰らって血を流しながら遠く飛ばされた。

「人が目の前でやられてんのに……、見てるだけかよお前らは」

 低い怒号。 刀を携え、硬い靴音を響かせながら蓮が祭星へ歩み寄った。 殺気を感じ取ってか、魔物は怯えた悲鳴をあげて散って行った。 蓮は追うこともせず、祭星を抱き起す。

「おい、しっかりしろ、おい!! 祭星、目を開けろ!」

 白髪だった少女は真っ赤に染まり、服はボロボロに切り裂かれていた。 肩を揺さぶられ、祭星は片目を開ける。

「れ、ん…………。 い、た……いたい、よ……」

 右目は恐らく潰れているのだろう。 蓮はギリッと奥歯を噛み締めて、向けようのない怒りを抑える。

その後ろから、息を切らして藍沢が駆け寄ってくる。

「杯さん!」

「来るな。 とてもじゃないがお前みたいな奴が見れる状態じゃ」

「嫌です! 杯さんは、私の友達だから……!」

「友達、だぁ……?」

 蓮は声を荒げる。

「三年間こいつを一人にしてきたお前のどこが友達だ!」

 藍沢は自分に向けられた敵意を感じながら、祭星の血塗れの手を握る。

「れ、ん……。 わたしの、カバンの中に……」

 か細い声を聞き取った蓮は、彼女の鞄の中から小瓶を取り出した。 それは恐らく、エリクサーと呼ばれる魔法の薬だ。 錬金術師によって作られたもの。

飲むと瞬時に魔力が回復し、傷が癒える。 相当高値なものだ。 蓮は瓶の栓を抜いて、祭星に飲ませる。

 血は消えないが、祭星はゆっくりと右目を開いた。

「もう癒えたのか……?」

「うん、さすがお高いだけあって効き目がすごいね。 いつも鞄に入れててよかった……」

 微笑んでいるが、その笑みはどことなく元気がない。 身体も少し震えているようだった。 祭星は藍沢を見ると、手を握り返す。

「怖い目に合わせてごめんなさい、藍沢さん」

「……! 怖かったのは杯さんの方でしょ! こんなに、ボロボロになって……! ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「大丈夫だよ、謝らないで……。 っと、やっと来たみたい」

 公園に衛生部隊の魔法使い達が現れた。 彼らは祭星と蓮に駆け寄り、敬礼をする。

「こちらは引き継ぎますので、戦線へ!」

「……了解しました」

 事務的に蓮が答えて、祭星を支えて立ち上がる。 そして藍沢に言葉を投げ捨てた。

「……友達なら、この戦いが終わった後にまた会いに来てやってくれ。 さっきは悪かった」

「……! うん、もちろん。

 ……君は、杯さんが危険な時に駆けつけて勇気付けて、助けて、ヒーローみたいだね」

「よせ。 俺がヒーローだったら」

 蓮は自嘲めいた笑みを藍沢へ向ける。

「こいつは今、血塗れで俺の横にいないはずだ」

「……そっか」

 藍沢は衛生部隊に連れられて安全な場所へと避難して行く。 蓮は同じように連れて行かれる男三人を呼び止めた。

「お前達がどんな神経してんのかとかそんなのどうでもいいんだ」

 酷く冷たい声色、赤い瞳が三人を軽蔑するかのように見下していた。

「女が怪我してまで自分守ってくれてんのをみて、それをバケモノと呼んで、死にかけの女をただ見てるだけか?」

 衛生部隊も、静かに蓮の言葉を聞いていた。 祭星が蓮を止めようとして、その瞬間に蓮の聞いたこともないような怒号が響く。


「甘ったれてんじゃねェぞこのクズがッ!!」


 祭星はビクッと身を退いた。

「お前らに虐められた祭星が、死にかけて、しかもそれをただ目の前で見てるだけか。

 良い機会だから脅しも兼ねて教えといてやるよ。 俺ら魔法使いは人間なんて簡単に殺せる。 でもそれをしないのは、魔法使いは弱い者に興味がないからだ。

 ただ俺は今すぐにでもお前達を殺したくて殺したくて仕方がないんだ」

 殺気に満ちた彼の瞳を見て、男達は震え上がった。 それを見かねてか、祭星が蓮の手をギュッと握りしめる。

蓮は祭星の手を握り返すことはしなかった。

「……俺がお前らを殺さないのは祭星が悲しむからだ。 虐められていい思い出なんて何もないくせに、ただ同じ学校に通ってたからっていう理由で、クズに慈悲を掛けてくれる祭星を守ることが、悲しませない事が俺の生きる意味だ。

 ただ二度と俺と祭星の前に現れるな。 ……次会ったら、殺す」

 蓮が祭星の手を振り払って、踵を返して歩き出した。 衛生部隊はそれを合図に男達を連れて行く。 女性の衛生部隊員が祭星の側に駆け寄り、顔についた血を濡れたタオルで拭ってくれた。

祭星は短く礼を言うと、蓮の後を追う。

「蓮、その……ごめんなさい」

「……傷は痛むか?」

 足を止め、そう答えた蓮の声は酷く優しい声だった。 祭星はブンブンと首を振って、彼の隣に並ぶ。

「レイとジョシュアに合流しよう」

「うん」

 前を進む蓮。 また一つ、蓮はポツリと言葉をこぼした。 消え入りそうだったその言葉を、祭星はしっかりと聞き取った。

「もう、あんな無茶はしないでくれ」

 祭星はその言葉を聞いて、涙がこみ上げてくるのを抑える。 そして深く頷いたのだった。

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