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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
16/64

知らない部分 7

 王が用意したものはどれも豪華で食べたことのないものばかりだった。

「この大きなエビ……? はなに?」

「俺に聞くな……!」

 並んだ長テーブル。 そこにはきちんと名札まで書かれていた。 蓮と祭星は隣同士だったが、周りは全員初めて顔を合わせる招待者だ。

 全くと言って良いほど会話がなかった。 響くのはカトラリーと食器が触れ合う音と、周りの魔法使いや職員たちの楽しそうな笑い声だけ。


「あの……」


 不意に、祭星に声をかけてきた少女がいた。 右隣に座っていた茶色の髪の少女だ。

「杯 祭星さんですよね。 群青のクレアシオンの……」

「そうだけど……」

 祭星が不思議そうな顔をして頷くと、正面に座っていた男がガタッと立ち上がる。

「マジかよ!! じゃあお前があのクレアシオン?! ぜんっぜんみえねー! もうちょっと自己主張の激しいやつだと思ってたぜ!」

「ジョシュア! 失礼よ、口を慎みなさい!」

 少女が男に一括すると、咳払いをする。

「わたくしはレイ・アルバードといいます。 暗殺隊の所属で二十歳です。 これからよろしくお願いいたします」

 レイは祭星に手袋を外して手を差し伸べた。 祭星も手袋を外し、手を握って優しく微笑む。

「杯 祭星、聖歌隊の所属で十八歳です。 よろしくお願いします。 あ、こっちは私の幼馴染で白石 蓮です。 同じ聖歌隊で、歳は二十です」

「紹介に預かった通り。 白石 蓮だ。 よろしく頼む」

 全く食事に手をつけていなかった蓮は、コーヒーを一口だけ飲んでいた。

「白石……、白石 蓮……? どこかで聞いたことが……。 あぁ、思い出しましたわ」

 レイが携帯を取り出すと、液晶を操作して祭星へ画面を見せる。

「なになに? 『絶対音感を持つ青年、天才ピアニスト 白石 蓮』……??」

 ゲホッ と蓮がコーヒーで咽せる。 祭星はグルリと蓮を向いて肩を揺さぶる。

「ちょっとねえどう言うことなの? 私こんなの知らないよ」

「読んでの通りだろ! 小さい頃からピアノやってて、コンクールで優勝した時の新聞の記事だ! てかその記事イギリスの新聞だろ、アンタ、イギリス人か」

「蓮ピアノ弾けるの?!」

 わーわーと騒ぎ始める二人。 その二人を見て周りも笑い始め、話がちらほらと始まった。

「あら、あらあら。 てっきりわたくしは全部ご存知なのかと……。 お二人、仲が良さそうですからてっきりおつきあいをされているのだろうと」

「しっっ! してない! ないないあるわけない!!」

 真っ赤になって全否定をする祭星。 レイはくすくすと笑う。 祭星の正面に座っているジョシュアと呼ばれた男は、ニヤッと笑って祭星を見た。

「へー。 この男と付き合ってねぇんだったらオレにだってまだチャンスあるな。 偉大な名前と裏腹にオマエ、意外と顔も可愛いしおっとりしてっから美味そうだしなぁ」

 卑劣な笑みを浮かべるジョシュア。 祭星はますますパニックになるところだったが、蓮がフンとジョシュアに向かって威圧するような笑みを作った。

「チャンス? あるとは思えないがなぁ……?」

「んだとテメェ……」

「俺は事実を言ったまでだぞ? あっさりフラれて落ち込みたくなければ引っ込んでいたらどうだ?」

なぜか火花を散らすような関係になってしまった男二人は一旦置いておいて、祭星はレイに向き直る。

「えっと、ありがとう。 レイさん」

「え……?」

「お話、声かけてくれて嬉しかった。 私あんまり自分から声をかけに行くことができなくて、また一人になっちゃうんだろうなって思ってたから……」

 ふにゃっと笑った祭星。 レイは少し顔を赤らめて、祭星の手を握った。

「ん?」

「これからもお話ししましょう……。 どうせなら休日に、一緒にお出かけでも……」

「する! やったあ。 ヴァチカンでできた初めてのお友達だ、よろしくね、レイちゃん! 私のことは祭星って呼んで?」

 すでに親しくなった女二人を見て、蓮とジョシュアは嫌そうに目を合わせて口喧嘩を止めた。

蓮は心底嫌そうな声色で、ジョシュアへ言い捨てる。

「お前と仲良くはしないが、喧嘩をすると祭星が悲しむからな。 手加減はしといてやるよ」

 上から目線の蓮の言葉を聞いて、負けじとジョシュアも吐き捨てる。

「はっ! レイも無駄な争いごとは品がないって言って、嫌いだからな、あいつに免じて本気を出さないでやるよ。 次会った時は覚えとけよ」

 セレモニーは賑やかになり、盛り上がりを見せた。 しばらくして、聖歌隊と暗殺部隊の責任者が招待者の座るテーブルへとやってきた。

聖歌隊の責任者は赤い長髪の男性。 暗殺部隊の責任者は金髪をポニーテールにした無表情の女性だった。

「盛り上がっているところ申し訳ないが、聖歌隊と暗殺部隊に配属された四人は時間だ。 我々に付いてきてくれ」

 祭星は責任者を見て、あっと声をあげた。

「クラウンさん?」

「やあ祭星。 よろしく頼むよ。 これから合同で作戦会議があるから行こう」

 祭星、蓮。 そして暗殺部隊のレイとジョシュアが立ち上がり、クラウンと女性の後を追った。

戦術支援部隊が集うテーブルの横を通った四人に、魔法使いの囁き声が聞こえる。

「見ろよ……。 新しいバケモノ達だ」

「聖歌隊も暗殺部隊も、急に入れる部隊じゃないのになんで新参者のアイツらが」

「俺たちじゃどれだけ頑張ってもあのチビ達には勝てねぇってか」

 これがランスロットの言っていた事だろう。 聖歌隊に暗殺部隊。 どれもヴァチカンの憧れの的だ。腕を磨き、王に認められた者のみが所属できる、一般からすれば雲の上のような存在。 だからこそ、新しく入った四人に対して、妬みの声が上がるのだ。

 すると暗殺部隊の責任者が立ち止まり、凛とした声を張り上げる。

「先ほど、無礼な発言をした二人の魔法使いは名乗り出なさい」

 静まり返るホール。 だが誰も名乗りをあげる様子はない。 クラウンはやれやれといったような目で辺りを見回していた。

「そうですか……。 自ら名乗り出る勇気はないが、陰口を零す元気は有り余っていると」

 金髪の女性が隊服のマントを翻して、戦術支援部隊の責任者の元へ。

「先ほどの魔法使い二人。 貴方ならば目星はつくでしょう。 処罰をしない代わりにいい機会ですから、新人四人のうち二人と実戦訓練をしていただきましょう。 よろしいでしょうか、戦術支援部隊責任者、ユエ・セイリュウ」

「……承知した。 王もああ言った手前、無礼を働いたのは我が部隊だ。 では二時間後、中庭で待機をしておく」

 金髪の女性は頷くと、ホールを後にした。 それを追って、クラウンと四人もホールの扉をくぐった。

一階へと続く階段を下りながら、女性は口を開く。

「すみません、勝手な真似をしてしまいました」

「全くだ。 だが王が諭した直後にアレだ。 いい機会になるだろう」

 何も言わずに下を俯きがちだった四人に、金髪の女性がいう。

「気を落とさないように。 これから説明いたしますが、あなた方がこの部隊に選ばれたには理由があります」

 一階についた。 だがエントランスに行かず、女性は階段を下りてすぐの突き当たりの壁に手をかざす。

するとカチカチと音を立てて、壁が形を変えて行く。 ホログラムのように壁が消えて、下へ続く階段が現れた。

「通常、聖歌隊と暗殺部隊しか入れない地下です。 さあこちらへ」

 薄暗い階段を下って、廊下の先には書庫があった。

古い洋書から、鎖で封じられた禁書。 さらには実験装置のようなものや、杖まで。

驚くのは隣人達の数だ。 龍のように宙を舞う隣人や、うさぎのように群れているものも。

「ここはヴァチカンが所蔵する魔法具や書物が保管されている場所です。 あなた方をこちらへ招いたのは他でもなく」

 金髪の女性が瞳を閉じる。


「この世に一つしか存在しない魔道書、魔法具と契約する素質があるからです」


  四人は驚きで何も言えなかった。

「紹介が遅れましたが、私は暗殺部隊責任者のエルドリッジ・O・セドリック。 こちらの胡散臭そうな男性が聖歌隊責任者のクラウン・アドルフ・デイビッドです」

「胡散臭そうとはなんだ。 紹介された通りクラウンだ。 よろしく頼む」

 赤髪の男を、蓮は疑い深そうな瞳で見つめた。

「……」

 無言で目を逸らして、蓮は勘付いた。


──アイツ、本物じゃないな。


 警戒するに越したことはないだろう。

そんな蓮をよそに、話は続けられる。

「あなた方には話しておきますが……、いまヴァチカンは深刻な魔法使い不足です。 ここ一年で多くの魔法使いが殺されています。 それも聖歌隊や暗殺部隊の者がほとんどです」

「だからオレ達新参者をいきなり聖歌隊と暗殺部隊に入れたってことかよ」

「ええ。 それもあなた方に類い稀なる素質があるからです。

 まずレイ・アルバード。 貴女は呪術の扱いに長けている。

ジョシュア・マッカーソン。 貴方は銃火器のエキスパート。遠視を使い、一キロ離れた魔物を狙える。  杯 祭星。 代々デイビッド家にしか扱えない創造魔法を使え、光魔法を最年少で習得した。

 白石 蓮。 貴方は……」

 エルドリッジの言葉を遮って、クラウンが口を開く。

「白石 蓮。 君の能力やステータスはまだ見ていない。 だが君はあの刀を持っているね?」

 蓮が目を見開いて、一瞬で警戒した表情に変わった。 危険を感じてか、敵意を剥き出しにした蓮に、祭星が慌てて止めに入る。

「どうしてこの刀のことを知っている……!」

 低い声色で蓮はクラウンへ問い詰める。

だがクラウンはフッと笑うだけで、何も言わない。

「答えろ!!」

「じゃあ逆に聞くけど。 どうやってその刀を手に入れた」

 蓮が眉間に皺を寄せて半歩身を引いた。 言いたくない理由でもあるのだろう。

「その刀の名前は白竜鬼神。 この世に一つしかない刀で、今までどこにもなかった。 どうして君がそれを持っている?

 しかも見たところ君は魔力が薄い。 力のない者の持つ刀など、ただのなまくらだ。 我々に渡してもらうか、その刀。 君のような三流が持つより、相応しいものの手に渡るべきだ」

「テメェ……ッ!!」

 激昂した蓮が刀に手を伸ばした時、彼とクラウンの間に一匹の白い龍が姿を現した。 優雅に揺蕩う龍は巨大で、気品ある鱗を持っていた。


『我が主を愚弄するのは貴殿か、色を持たぬクレアシオンよ……』


 龍は赤い瞳をクラウンへ向けた。 その燃えるような瞳は蓮と同じ色だ。

「リューゲ! やめろ、出て……、っ」

 頭を抑えてその場に片膝をつく蓮を、祭星は慌てて支える。

『すまんな主よ。 お前はワシに姿をあらわすなと命じたが、流石に目の前で主を愚弄されちゃあワシも我慢ならん。 魔力を殆ど吸うてしまったが、老いぼれのワガママだと思って許してくれ』

 さて。

そう言って龍がクラウンへ身体を伸ばす。

『まだ何百年程度しか生きておらん手弱女が。 ワシに喧嘩を売るか? 引っ込んでいるだけの貴殿にできるのだろうか?』

「なるほど、気配も魔力も漏れることなく、よく綺麗に存在を消していたものだ……」

『それすらも見極めきれないとはヴァチカンも落ちたものだ。 さ、どうするつもりだ? この刀をなまくらだと言って主から取り上げるか?

 貴殿らも分かっているだろうが、ワシは使い主を選ぶぞ。 今はとても腹が立っている。 他の輩がこの刀を握ったとてワシはその者を食ろうてしまうだろうよ』

「リューゲ!」

 呼吸を整えないまま、蓮が立ち上がろうとして床に手をつく。 苦しさで喘ぎながら、蓮はリューゲの後ろ姿に言葉を投げる。

「戻れ、お願いだ。 確かに俺はまだお前を扱いきれてない……。 お前だって、強いやつに使われた方がいいだろう!」

『残念だがそれは聞けないな。 ワシはお前の父の形見だ。 お前を守るように命令された、最後の命令だ。 水龍の名にかけて、ワシは絶対にこの命令を完遂させるのだ』

 リューゲは蓮を守るようにとぐろを巻く。 クラウンに鋭い瞳を向けて、小さく唸る。

『貴殿の話は断らせてもらうぞ手弱女。 ワシはこいつを守らねばならんからな』

 それに対してもう一度口を開こうとしたクラウンより先に、エルドリッジが言葉を挟んだ。

「了解しました。 ではこうしましょう。

 白石 蓮、あなたの魔力量をあげるためにリューゲは常に顕現させておきなさい。 リューゲは自身で魔力を生み出せる。 自分にリューゲを住まわせるのではなく、刀にリューゲを写しなさい」

 そしてエルドリッジはクラウンに対しても鋭い言葉を投げる。

「クラウン、貴方も軽率に話を進めるのはやめてください。 以前の貴方と比べて随分と浅はかではないですか?」

 クラウンはため息を吐いて、頷いた。

リューゲはスゥと一度消えて、小さな龍に姿を変えた。 そして蓮の首に緩く巻きつくと、肩に顎を乗せる。

祭星とバッチリ目があったリューゲは、ゆっくり瞬きをしてふいと目を逸らした。

「……話が随分と逸れてしまいましたね。 話を戻しましょう。

 あなた方には契約していただきたい武器と魔道書があります。

 まずはレイ。 貴方にはパンドラを。 そしてジョシュアには魔弾を。 蓮は引き続き白竜鬼神をお願いします。 そして祭星、貴方には特にありません」

「えっ」

 キョトンとする祭星。 レイも不満そうにエルドリッジへと問いかける。

「どうして祭星には契約するものがないのですか?」

 その問いに対してエルドリッジは腕を組んで、祭星の腰に下げた魔道書をみる。 エスペランサの裁きだ。

「エスペランサ。 祭星は既に強すぎる魔道書と契約をしている。 これ以上は彼女の精神が持たないでしょう。 祭星が覚えるべき事は魔法以外で戦う術ですから」

「そう……ですか」

 祭星が控えめに微笑んで半歩身を引いた。

クラウンがその姿を見て、人知れず口元を歪ませていた。


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