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どこかの樹海にて 17

久しぶりに静かな夜を迎えて、次の日──

今までに無く、2号の様子がおかしかった。


『 ……。』


「なぁ… オレが悪かったって」


『 ……。』


ずっとこの調子だ。


特に何か抗議をする訳でも無く、ただ無言… と言うか、何のリアクションも取らないのだ。 まるでただの屍である。







────────


いつ周りの森から魔物がやって来るかも知れない危機的状況であったとしても、溜まった疲れとお腹いっぱいの状態であれば、誰もがぐっすりと眠ってしまっても仕方がないと思う。

それに、眠る事によって失われた魔力(?)ってヤツが回復していく事だってあるんじゃないだろうか?

そもそも生き物には、睡眠が絶対に必要なモノなのだと強く主張するべきだとオレは思うんだ。


『 ……。』


……そりゃ、アンデッドは睡眠が不要だからと、オレがグ~タラしてる間も色々と仕事を押し付けた事に対して、多少の不満を覚えていても致し方無い …と理解は出来る。

思えば、かなり自由にさせている従魔の中で、2号はやりたい様にやらせていなかった気がする。 律儀なトコとかもあるし、色々と溜め込んでしまったのかも知れない。

そして今回、着せ替え状態のまま放置され、それをフォローするべき筈のオレや3号達はまったく気にも止めていなかっのも悪かった。 それが普段、やんちゃをしない彼を狂気へと陥らせてしまった一因になってしまったのではないのだろうか?



『 ……。』


まぁ… 寝起きドッキリは、まだいい。

だが仮装したあの姿のまま枕元に無言で佇んでたり、館から発掘(?)した奇妙なオブジェを寝ている周りに並べるのは、正直やり過ぎなんじゃないかとオレは思うんだ。

態々(わざわざ)ひねくれた棒の先っちょに鉈を括り着けてる所なんかを見れば、いかに(こだわ)ったのかが伝わるようだ。


『 ……。』


お陰で最悪の寝起きだった。

薄く瞼を持ち上げ、まず視界に入った光景… まるで生け贄の儀式にて捧げられる供物になった様ななんとも奇妙な気分は中々味わえまい。 続いてややゆっくりと覚醒した意識は異変を遺憾なく捉え、すぐさま混乱に陥るのに十分だった。

明かり取りが少ない石造りの倉庫の中は日中でも薄暗いのに、入り口にはボロ布を垂らしたりと、その雰囲気を最大限引き出したこの演出は見事と云う他無かったよ。


『 ……。』



だがそれでも彼の狂気は止まらない。


一通りのリアクションを済ませ、落ち着いて当人と周りの状況を把握し、ネタバレが終わった段階でも、ただただ無言で佇む2号。

これが通常の寝起きドッキリなら『テッテレ~♪』の効果音が響き感想やら談笑を交えた後、解散の運びとなるのだが… 終わらない。

いつまでも立っている。 沈黙が痛い時間を迎えても、尚、無言で立っているのだ!


─ いったいどうすればいい?


これが普段であれば折檻している所だが、それは1号の仕事だ。

それにドッキリを仕掛けられはしたが、実害は僅かな打ち身とタンコブくらいしかないし、もうこれと云ってこの後の展開は期待出来ないだろう。

ただ、この手間隙掛けてベタな状況を態々作り出した執念。そして、課されるままに一通りのお約束をこなしてみても、このノーリアクションの前ではすべてが殺されてしまう恐怖に、2号の本気を見るのであった。








─────そして冒頭に戻るのである─────


そう!未だ2号は続けていたのだっ!!


邪悪なデコレーションを施された寝床を片付け、タゴサクから残り物のご飯を貰い、また微妙に増えたガラクタの分別作業を見学しているその後ろで、ノーリアクションに取り憑かれた2号は朝からずーっと着いて来るのである!


……なんと恐ろしい。


何事も無かったかのように普通を装ってみても無駄だ。

コスプレの何が気に入ったのかそのままなの姿なので、オレの背後から姿を現せば出オチ感が満載なのである。 …にも関わらず当人がまったくの無反応を決め込んでいる為、ややウケのその後の空気が悲惨なまま進んで行く。


『カタッ?』『 …?』


従魔達も2号の異変に気付いてはいた様だが、それは腫れ物に触れる様な形になってしまい、さらに悪化してしまう。 何かあったの? と聞いてくれれば相談と言う(テイ)で話を振れるのだが、全員が示し会わせているかの如く疑問はあっても深く掘り下げようとはしてこないのだ。。。


かなり露骨だったのは、タゴサクだ。

昨日の残り物のスープを嫌々再調理していたのだが、オレの背後から漂う何かを感じ取るや不自然なまでに文句を言わなくなり、視線を向ける事も無く配膳を終えると姿を消した。

後片付けを丸投げされた新人は、この異変の意味をいまいち理解していなかった為に普通だったが状況が改善される見込みは無い。




「4号が治してくれたの?」

『カタッ』(訳:はい。)

「あ~…。 あの箱は、諦めたの?」

『カタタッ』(訳:保留で)

「 ……。」

『 ……。』


顎を負傷していた筈のヨサクが、治っているので話を振ってみたが、会話が続かない。

オレの後ろをチラチラ伺ってるのを何となく察せられるのが、さらに辛い。 どうにかしろよと言外に訴えられている様にしか感じられないのだ。


─ いやいや、どうしろと?

ここまで拗らせてしまうと、突発的なイベントやアクシデントが起こって有耶無耶にするしか方法が浮かばないぞ?


『 ……。』


「ま… まぁ、ともかく。仕分け整理作業頑張ってくれ」

『『カタッ』』『 ……カタッ』

ここで手伝ってる新人は、空気を読める人材が居た様だ。 ただそれだけじゃ事態を打開するには至らないが。

『 ……。』


「ん、んん。ところで、1号と4号はドコ行った? 一昨日放置したヤツらを回収しに行きたいんだけど」

『カタッ?』『?』

『カタタッカタッ。カタタッ』『 ……。』

「じゃあ4号を先に拾ってくるか」


ここに居るメンバーでは、問題解決にならない事が分かった。 ならば、他を頼るとしよう。。。







~・~・~・~・~・~・~


館を挟んだ反対側、疎らな木立が並ぶ森との境目近くで、昨日完治させた新人(元探索者)が土を耕している姿があった。

さらに向こう、遠目にやや離れた場所で座り込んでる4号も見える。


「 ……何してるの?」

『カタッ?』

取り敢えず近かったから新人の方に来たけど、ホントに何してるの?

土を耕してるかと思っていたんだけど、近づけば浅い穴をただ掘っている様にしか見えなかった。 それも、点々と。


「落とし穴… じゃないよね?」

『カタッ。カタタッ』

「罠? こんなのに罠?」

『カタッ』

新人君は困った様子で首を傾けるように右へ左へ揺らすと、4号が居る方を鍬で示して、また土を掘り始めた。


「??」『 ……。』

目線で背後の2号に問いかけるも、答えは無かった。

どうすりゃいいのよ。。。





進んだ先で座り込んだ4号を見下ろすと、なんと土団子を捏ねていた。

近づくオレ達に目線を上げはしたが、コスプレ2号に違和感が無かったのかそのまま捏ね回す。


「えっ? 何してるの??」『 ……。』

4号までおかしくなったのだろうか?

小石や草の混ざった土をお団子状にしているだけで、楽しそう?に幾つか並べている。 だけどかなり雑にやってるもんだから、作った先からポロポロ崩れていた。 園児でも、もっとちゃんと作るぞ。 魔法的な何かがされているのかも知れないが、罠の類いには全く見えない。 目潰しになるかも怪しい。


『カタタッ』

オレの問いかけに反応したのか4号はお団子を置くと、傍らにある籠の中から気持ち悪い虫(例のアレ)を摘まみ上げて……


「げっ!?」『 …!』


両手で包むと、力一杯握り潰したっ! どんどん追加もして、捏ね始めたし! クチャクチャ音が指の骨の間から漏れ出る頃には、体液か血液なのか不明なモノが糸まで引きだす完全アウトな物体に!?

ホントに何してんだよっ!!


「えんがちょっ!」『カタッ!!』

こっちの反応はお構い無しに捏ね回した()()を片手に寄せると、今度は地面をテキトーに掬って混ぜ交ぜこねこね。

なぜ平然としているのか意味が解らない。。。


つまりココに転がってる出来損ないの土団子は、ろくでもない物で構成されている!?


「4号! マジで何やってんだよっ!!」

今までノーリアクションを貫いてた2号までドン引きしてるよ。

『カタッ?』

「いやいやいやいや、無いナイないNAI」『カタッ(訳:無理)』

4号からも()()からも距離を取りつつ、首も手も振ってお断りするオレと2号。

素手でウ○コと同じくらいに、全力で拒否するわ。


『カタカタッカタタッ。カタッ』

「生理的に無理でーすっ!!」『カタッ!(訳:同じく!)』

4号が何か言ってるけど、1号がヤラかす時と似たニオイがするので、迅速に待避行動すべし!


『カタッ?』










───────────


後の話では、()()を地表に埋め戻した場所で結界を張れば、元の結界に加えて()()の効果が重なり、より嫌がる魔物避けになると考えた等と供述しており… その実証や確証も無く、その真偽が分かれる事となった。


尚、同行を強要された新人(元探索者)が当時、共犯関係にあったか否かについては本人の自白を採用し、()()との接点及び接触は無かったものとして関係各位に通達された。

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