どこかの樹海にて 15
「まったく、酷い目にあった。。。」
結論から云うと、オレがあの虫を触る必要はまったく無かった。
4号曰く、この虫の纏う呪いは、死んだ後でも暫く(一週間~10日くらい?)は消えないんだそうだ。 だが冗談で言ったつもりが、オチを説明する前に1号の暴走に繋がったと。。。。
─ 確信犯としか思えないよ
オレが向けた疑惑の眼差しに、まったく動揺する素振りすら見せない4号。 くそっ、そのポーカーならぬスカルフェイスが恨めしい。
兎も角、この虫の死骸がアンデッド以外の生き物全般に対して効果が有るのは身をもって理解した。 倉庫の周りに、コレを罠替わりに設置すれば、簡単な魔物避けくらいにはなるだろう。
「まぁ、いい。 …ところで、2号や3号達はどこ行ったか、知らないか? 姿が見えないんだが」
『カタタッ?』
『カタタッカタッ』
2・3号とヨサクはもう一人の新人を連れて、館の探索を続けているらしい。…と、虫の死骸塗れの1号が教えてくれた。
中途半端に調査を止めていたからな…… まだ何か有益な物が残ってればいいのだが、多分ガラクタばっかりの様な気がする。
廃墟が放棄されてからの時間は相当に長く、これ迄に見付けた物はほぼ劣化して使えない物が多かった。 また、こうなる直接の原因となったであろう過去の戦いで、武器や防具と云ったモノは全て使用され消耗していた筈だ。 それら以外で手付かずに物など、そんなにないだろう。
あくまでも、もしかしたら? …と言う保険くらいに考えていた方が、気持ちが楽だな。
ただ、3号やヨサクの熱意からして、ちょっと期待してしまう自分もいる。 あいつらが狙っているモノが、何かにもよるんだが……
「まぁそれなら別にいいや。なら4号、ちょっと手を貸してくれ」
『カタッ?』
~・~・~・~
倉庫の壁に纏まって転がっている"新入り達"。
従魔にした当初は真面に動けない程に大破していたヤツらだが、そのまま放置してる訳にもいかない。 なんだかんだ言っても、貴重な戦力として働いてもらわねば。
「いつまでも動けないまんまじゃ、流石にな…。 でも、魔石が無いからオレ達の魔力を使うしか無いんだけどねー」
『…カタッ』
4号を伴って見てみると、地面を蠢く骨達の視線が一斉に此方に向く。 どうやら今までコロコロしていた7体は、暇潰しなのか石を積んだり周りの雑草を抜いたりして、割りと活発に行動していた様だった。
四肢が欠けて這いずるしか無い身体で、アチコチ動き回った跡がそこらじゅうに残り、彼らの行動半径が思っていたよりもかなり広かった事を物語っている。 集めた小石は一ヶ所に集められ、抜かれた草も同様に倉庫の外壁に纏められ… 幾つか抜けている箇所も見られるが、何よりもその行動力に呆れた。
─ 一晩中這いずり回ってたのか? 全然気が付かなかったよ。
ある意味、ホラーな光景であった筈だが、余りにも地味過ぎて完全にスルーしてしまっていたな。 なんか凄く勿体ない気分だ。色々な部分で。
「 …んで、何でこんなに働き者なんだよ」
さらにその内の何人かは、放置していた熊の死体を解体しようと試みた様で、現在、そのぶ厚い毛皮を剥ごうと尖った石や削った棒等を傷口に突っ込んだりしている真っ最中だった。
その熱意とは裏腹に、残念ながら端から見ても上手くいってはいないみたいだけど。
『カ『カッ『カタカタッ』』ッ』
「ええ~い。いっぺんにカタカタ言うな!」
『カタタッ?』『『………。』』
「取り敢えず、今日は一体を集中して治すぞー。オレらの魔力だけでどれくらいイケるか、見てみないとだな」
『カタッ?』
「え~っと… どいつにしようかな?」
各々の身体の調子は… ま、当然ながら良くは無い訳だが、誰を治そうかと足元の彼らを眺めていると、カタカタとお互いに相談を始める新入り達。
離れていたヤツもコロコロと転がり、相談の輪に加わった。 なんか充分に適応している気がする。 元々がこういうモンスターだと言われても納得してしまいそうだ。
「オマエでいいのか?」
…で、7体の中で誰を治すかは、さほど揉める事無くあっさりと決定した様だ。 彼らの中で動きに一番不自由な者が他薦で選ばれ、本人は嬉しさ半分、申し訳無さ半分と云った様子でコロコロと進み出てきた。
そんな光景を見るに、どこかの従魔達に少しでも見習って欲しいと切実に思う。 いや、マジで。
───
オレと4号でちょこちょこ交代と調整をしながら魔力を宝珠に流す事、数分。立派な骨格標本が完成♪
『カタカタカタッ』
本人も嬉しそうに、自分の手足をしきりに動かして感触を確かめている。
『カ『『カタッ』タッ』ッ』
コロコロしている他6体も、喜びを全身で現している様だ。
…ただ骨が転がり回っているだけにも見えるけど。
『カタッ』
仕事は終わったとばかりに、4号は再び館前の広場へと向かって去って行く。
結局、あんまり魔力出さなかったよな、アイツ… まぁ いざ戦闘になったら、威力の有る魔法は確かに必要にはなるんだけどねぇ。 だがお陰でオレの残り魔力は、従魔術が発動出来て2~3回って感じだ。 この検証の結果、オレの魔力だけでは大破したスケルトン一体を賄うには微妙な量だと分かったわけだ。
「もっとこう… 消費を抑えて治せないもんかな?」
『カタッカタタッ?』
「ぁぁ、もう魔力が無いからな。少しは余裕を残しておかないと、何があるかわかんないし」
『カタッ… 』
「まぁ、一体づつ治してやるから。それまで出来る事をしてくれ」
『カタッ!』
「いやいや、熊の解体は道具が揃ってからにしような?」
溢れ出るその熱意は、温存しておいてくれ。
2号達が戻ったら、早急に何かしら融通してもらわなくては。。。
しかし本当に働き者だなぁ。 …替わりの仕事って何が有るだろうか?
~・~・~・~
集めた草で縄作りを皆でやりつつ、彼らのこれまでを聞いている。 結局、五体満足でもないと出来る事など限られてくる。
まぁ、そもそも現状で思い付くものが無かった訳なんだが……
暇潰しを兼ねた作業の中、世間話をしていると、中々に経験豊富なヤツが居た。
「へぇ~。物騒なこの森の探索を専門でやってたのか~」
『カタカタッ』『カタッカタッ』
「ん? 他にも何人かここに居るのか?」
『カタッ…。』
「そうか」
片腕と肋骨の大部分を失っている彼は、顎も半分無くなっていてとてもカタカタ言いにくそうだ。
実際、他の5体と比べても意志疎通に若干の齟齬がある感じ。 そんな彼の通訳(?)と云うか、捕捉説明しているヤツも生前は元同僚だったらしい。 ただ、だんだんとこのやり取りが面倒になってきたので、結局、オレの残りの魔力は空になってしまった。
『カタッカタッ!カタッ!!』
頭限定での完治にも関わらず、途端に元気になる"元探索者"。
いや、そんなに頭回してカタカタしなくてもいいから。 なんか取れそう。。。
──ちなみにこの"探索者"なる呼び方は、オレの勝手な命名である。 …だって言葉で会話してる訳じゃ無いから、固有名詞がわかんないんだって。
"冒険者"ってのも頭を過ったんだけど、ニュアンス的にどうも違うっぽいので、違う呼び方を考えてみた。
むしろ冒険者ってのは、個人や少数でやってる傭兵や何でも屋に近いスタイルだったと頭痛が痛いで叩きこまれた気がする。
……だんだん、この記憶が曖昧になってきてるのが不安なんだが。
兎に角、対魔物を専門とすると云うより、森を切り開き人の生活圏を拡げる一環として戦ってたと言うのが"探索者"とオレが勝手に呼んでいる人達の実態の様だ。
周辺の地理を調査し、魔物の分布や種類を把握し、時には罠や正面切っての戦闘で魔物の駆除を行う。そうして危険を取り除いた上で、開拓を進めて行く。
過去のこの集落はその前線基地であり、その手の人達が多く済んでいたと云う。正しく、戦う開拓者なんだろう。
だがそんな彼らの今は、と言えば…
いや、違うか。3号の時と同じで、今の彼らは過去の生きていた人間とは違う別の存在だと考えてたか。
それとも他の考え方をしているヤツも居るのだろうか?
「なぁ…。 ちょっと聞くけど、人間として生きてきた時の事はどう思ってるんだ?」
『カタッ?』『?』『『カタタッ?』ッ?』
全員が首を傾ける。 質問の意味が解らなかったのだろうか?
「いや、元々の生きていた頃は過去の事として感じている? …とかなんだが」
『??』『カタッ?』『『??』』
どうやら、彼らも生前と言う認識ではなさそうだ。
『カタッカタカタッ』『カタッ!』
「元にはなってるが、新たに生まれた…?」
『カタッカタッ!』
う~ん。。。いまいちピンと来ないな。
『カタッ』『カタタッ?』『カタカタカタッ』
「ふむ」
つまり、親とかご先祖様とかそんな感じに思ってる感じかな? 元には成ってはいるが、全くの別の存在。
魂とか、どうなってるんだ? 考えれば考える程、哲学的な問になってくるなぁ。。。
『カタカタッカタッ!』
「まぁ、オマエ達はオマエ達って事だな。何となく、分かったよ」
どうも彼らのアイデンティティーに触れる事柄の様で、これ以上深く掘り下げても良くは無さそうだった。 オレも訳が分からなくなってきたし。
『カタッ?カタカタッカタタッ』
「ん? オレのスキルの事か?」
もう一人の"元探索者"。 彼がオレの[従魔術・改]に興味を持った様だ。 まぁ、話題を変えたいだけかも知れないが……
「元の従魔術を少し弄ってな… 発動対象とかがちょっと元とは違うんだよ」
『カタカタカタッ!?』
「話せば長くなるんだが… 長くはないか? まぁ、色々あったんだよ。 不便なところもあるし」
主に、直に触らなければいけないトコとか。
思い起こせば、意味不明な境遇に突然追いやられて、そのまま今に至る訳だが。 説明しようにも、何がどうなっていたのか理解出来ん。
あぁ、何か腹立ってきた。 後で1号に、八つ当たりしよう。
『カタッ?』
「いや、思い出し怒りが湧いてきただけだから」
『カタッ!?』
「まぁ… 今さらな話だけど、聞いてくれ」
骨達を囲んでの、身の上話が始まった。
更新遅れてすいません。。。




