どこかの樹海にて 14
「っふぅ~~ 」
何だかんだ言っても、タゴサク特製の『うさぎと野草のキノコスープ』は美味しかった。 この周辺にある食材だけで、薄味ながらもあれだけのモノを作れるのだから、素直に感心してしまう。
野草から苦味やエグ味が出そうなものだがそれが無く、うさぎ肉も脂が抜けてパサパサする筈が、よく煮込まれていたのかスープをしっかり吸ってトロトロだ。 最初は何か解らなかった真っ黒なキノコも、恐らく旨味の様な出汁が出ているのだろう。 噛むほどに程よい弾力があるお肉と、野草とキノコの生み出すさっぱりとした塩出汁がお口一杯に拡がってゆく。
一言で言えば、バランスが丁度良く纏まってウマイッ!
"この世界"に来ての初めての真面な食事に、何度おかわりをした事か……
そして、それだけ食べても半分も減らない鍋の中。。。。
─ 何日くらい保存が効くんだろう?
頑張れば、明日中には食べ切れるだろう。 それまで胃がもつかは、解らないが。
それとは別に気になるのは… 味見したの? と云う事だ。 どう考えてもあの骨身に、味覚が残っているとは思えない。 生前に持った経験と勘なのだろうか?
本人(?)は『有り合わせで作りました』と謙遜していたが、勘だけであの大量の具材に必要な分量が計れるとは思えないのだが……
塩一つとっても、さじ加減が不明と思える程の量なんだぞ。
"大量に作れば美味しくなる法則"があってたとしても、味見無しでこのバランスを取るのはオレには無理だ。
「 …ごちそうさま。うっぷ… 」
言い知れぬ敗北感と満足感の間の果てに、やたらと高級そうなスプーンを遂に置いた。ギブアップです。
キャパオーバーの胃袋を静める為にも、少し休もうか。
─────
タゴサクと助手役(?)の新人スケルトンが後片付けしている光景を、ぼ~っとイスに座って眺める。
お日様は、真上から少し傾いた所にある。 …なので、麗らかな午後って感じだろうか。 ポカポカ暖かい♪
喧しく騒ぐ他の従魔達の姿は無く、本当に平和だ。
「ああ、こんな時間が続けばいいのに~」
『カタタッ?』
「いやいや、独り言」
炊事場では、お手伝いさんと化したスケルトンがせっせと水瓶を運んでいた。
タゴサクは大き目のタライにその水を流すと、さっき使った食器なんかを雑に放り込んで洗いだす。 目を凝らせば、非常に既視感のあるモノでゴシゴシと擦っている。
「それ何?」
『カタタッ?』
「そうそれ」
『カタッカタッ』
タゴサクが握っていたモノを、こちらに向ける。
一瞬タワシに見えたが違う。 固そうな茶色い繊維質を丸めた、謎の物体であった。
『カタッカタカタッ』
「コッチじゃ、そんなので洗うんだね~」
その正体は木の皮… つまり樹皮だそうだ。
檜とかの一部の樹木は、その樹皮が屋根材にも使われていると云うし、こんな使い方をしていても別に不思議じゃないか。バラバラに散ったりしていないのを見ると、そういう種類の樹皮なんだろう。
この辺りに生えてる木なのかな?
ジャブジャブ洗ってるタゴサクの横を、お手伝いさん状態のスケルトンは水瓶を持って、まだ井戸と炊事場をせっせと往復している。
─カチャカチャ─
洗い終わった食器を拭いたりもせず、そのまま手近な台に積み始めた。。。
衛生面は、大丈夫なのだろうか?
『カタッ』 ─バシャァ─
井戸から戻ったスケルトンが、洗い物の水を向こう側へと撒いてタライの水を切っている。 そのままタライと水瓶を両手に、また井戸へと向かった。
一方のタゴサクは、手ぶらでコッチにやって来る。 オレの目の前に鎮座している寸胴を"よいしょっ"と持ち上げると、さっきお手伝いさんが水を棄てた辺りへと持って行き──
「ちょっと待った!!」
『カタッ?』
「えっ?何? それ捨てるつもり?」
『カタタッ』
「いやいやいや、まだ全然残ってるでしょ?」
『カタッカタッ』
「じゃあ、夕飯はどうするんだよ?」
『カタカタッ』
「そんなペースで作ってたら、塩とかすぐ無くなっちゃうだろ。 どっかから買ってこれる訳じゃないんだからな」
『カタッカタカタッ!』
「煮込み料理なんだから、そんなすぐ味落ちたりしねーよっ! なんでそんなトコロに拘ってるんだよ!!」
『美味しさのピークは過ぎた』とか、どこかのシェフが言いそうなセリフを吐くタゴサクを説得して、何とかお鍋は死守した。
『匂いに釣られて魔物がー!』 …とも言っていたが、その時はその時だ。 そもそも、食べきれない程作らなきゃ良かったんだよ。
──────
何故か不貞腐れたタゴサクは、そのままどこかへと行ってしまった。 思春期の中学生かっ!?
一方では相変わらず、井戸と炊事場を行ったり来たりするお手伝いさん。 そんなに水を運んでどうするの?
今ものんびりとお白湯を飲んではいるが、余りにも周りに誰も居ない事に、だんだん心細くなってきた。 タゴサクが不吉な言葉を残して行ったしな。
姿が見えない他の従魔達は、一体どこで何をしているんだろうか?
「他のヤツは、どこ行ったの?」
『カタッ?』
~・~・~・~
1・4号は、館を回った所に有る"曰く付きの広場"に居た。
『カタカタッ!』
1号は鉈と鞘の両方で、何やら転がってる骨をつついたりひっくり返したりして遊んでいた。
4号も、腰を屈めて短杖を翳しながら、周囲を慎重に見回している。 …何か調べている様子だ。
「何をしているんだ?」
『カタタッ』『カタカタッ!』
「探し物?」
この館前広場は元々骨が散乱していた場所だが、倒したアンデッドの骨を纏めてココに廃棄していた為、小山になった所も出来ている。
実は、この集めた骨から新たにアンデッドが生まれるのか、実験的な部分も含めて検証するつもりだった。 …すっかり忘れてだけど。
そんな場所で、何を探すと言うのだろう?
『カタッカタッ』
足元に置いた穴だらけの篭から取り出したのは、気色悪い感じのムカデに似た虫。 死んでいるのか… 動かなくて良かった。
「 …で、コレは何?」
『カタカタッ』『カタカタカタカッ』
「んん??」
固有名詞は解らないが、この虫みたいなのも魔物の一種なんだそうだ。 かなりグロテスクな見た目だが、コレ自体はそれほど強い魔物では無いらしい。 アンデッドでは無いがアンデッドがいる場所を好んで生息し、漂う『死』と云う負の力を呪いに変える習性を持ち、その呪いを纏う特殊なスキルを持っている。
─ 自分が呪われたりしないのだろうか?
生き物ではあるが、これよってアンデッドにバレずに済み、また、他の魔物にはこの呪いそのもので身を守ると。
ファンタジーなりの面白い進化もあったものだ。 これも生存戦略の一つと考えると、不思議と感心してしまう。 …かなり見た目が悪いけど。
墓地やココの様に多くの死者が眠る土地に沸いてくるので、人々の間ではこの見た目も相まって不吉の象徴として見つけ次第焼かれてしまうそうだ。 まぁ、ゴキブリ扱いなんだな。
「つまり、コイツの魔石を取ってるのか?」
『カタカタッ』
「ん? じゃあ、集めてどうしようって云うんだ?」
このままでは単なる嫌われ者で終わる所を、4号はコイツの利用方法を思い付いたらしい。
コイツが纏っている呪いは、魔物避けになる。 それでいてアンデッドにはスルーされるので、効率的にスケルトン狩りが出来るのではないか? …と言うのだ。
「4号…… お前、ちゃんと考えてるんだな… 」
ただの乱射魔だと思っていたが、計画性の有る乱射魔だった様だ。 余計に恐ろしくなるよ。
「でも死んでたら、その呪いって無くなるんじゃ?」
『カタッカタッ?』
「 …コレに、触れって言うのか?」
『カタタッ!』
「1号、見せびらかさなくてもいいよ」
ん~。この見た目だから、触りたくない。正直、見るのも嫌だ。
1・4号はアンデッドだから、コイツの呪いがまだ有るかどうか触れても確認が出来ない。 そこにオレが来てしまった訳か。
「 …って、何でオレが触って確かめなきゃいけない流れになってるんだよっ!? ヤだよっ!」
『カタカタッ!』
「1号!1号っ! 持って来るなっ!」
『カタッ!』 ─ポイッ─
やると思った! …だが解っていたのに、1号が投げて寄越した虫の死骸を、思わず手で払ってしまった。
「ぁ痛たっ!?」
軽い感じで払っただけなのに、触れた先から痛みが襲う! この感覚は以前体験した事があるぞ。不注意で"獄卒の鉈"に触ってしまった時と同じだっ!
「1号っ! キッサマぁー!!」『カタカタカタッ!』
『カタカタッ… 』(訳:まだ呪いの効果有りと… )
1号と4号のキャラが立って来ました♪
それぞれの性格のお陰で、オチが付けやすくて助かりますねぇ~
(* ̄▽ ̄)




