どこかの樹海にて 12
──なぜ、目の前に狼が!?──
『ガガゥーッ!』 「うわっ!?」
訳も分からないまま、本能的に両手で庇う。 衝撃と共に迫る顎!
あっと云う間に視界が回り、続いて背中に衝撃! 気付くと獣の首を押し上げる形になってはいるが、左右に激しく振られて上手く押し返せない。 兎に角、両手に力を込めるので精一杯だっ!
『ヴォッ』 ─ キンッ! ─
何か金属を打ち合う音も聞こえるが、それが合図と被さっていた四肢が瞬時に離れる。
『グルルルゥ… 』
低く小さな唸りを上げる狼。 こちらを視線で圧したままゆっくり下がり始めると、不意に踵を返して一気に草むらへ消え去った……
─ 何だアレは!? 何食ったらあんなデカくなるんだよっ!
見た目は狼っぽかったが、大きさが人と変わらなかったぞ! 普通、狼ってハスキー犬くらいのサイズじゃないのか??
"この世界"じゃ、何でもかんでもデカくなるのかよっ?!
『カタッ』
顔を上げると、助け起こそうと手を差し出す3号が。
いつの間に地面に倒れていたのか、見上げている形になっている。 通りで、やけに草が顔に当たると思った。
「痛っ!?」
掴もうと伸ばした腕から滴る赤いモノに今頃気が付いて、遅れて痛みがやってきた。 いつケガをしたのかも解らなかったとは……
鼓動に合わせて痛む二の腕を庇いつつ、起き上がる。
『…ゥウオォーーーン』
さっきの狼か?
遠吠えは割りと近い気がするが、その姿は夜に紛れてオレには見えない。 従魔達も、まだ捉えきれてはいない様だ。 …ってか、ヨサクがバラバラになってる?? 2号もまた片腕取れちゃってるし、あの一瞬でか??
いったい何が起こっている??
「さっきのアレが死にかけか? 他に魔物の気配は無いって言ってなかったか?? 」
『カタッ… 』
「もういい。 仲間を呼ばれた以上、すぐにこ『 ォオ……ーン 』『 …ォ……ォーン… 』
微かな遠吠えが遠くから続けて響く。 アレの仲間が答えた様だ。
レスポンスが迅速過ぎて、貧血起こしそうだよ。
「にに、逃げるぞっ!」半ば心の叫びを吐き出し、従魔達に向き直る。 振り向いたその先には、影すら霞む程に疾走する四足獣が──
オーマイガッ!!
─バシッ!─ 『カタカタッ』
オレとの間に割り込むように、体当たりをカマす1号! 再び地面に倒されるオレ。。。
─ お前どこ行ってたんだよ?? ─
目まぐるしく変わる状況に、どこからツッコミ入れていいのかよく解らん!
『ガゥゥッ!』 骨の隙間越しに見えた狼は、1号に覆い被さっているみたいだ。 勢いを殺されはしたが、そのまま体重を掛けて1号の頭に噛みついてる! 骨だけのスケルトンと比べれば、この重量差はマズいっ!
「2号!3号っ! 押さえ込めっ!」
『『カタカタッ!』』
─ ギィィンッ ─
オレの号令で同時に飛び掛かる2・3号。 だが、金属音が立て続けに響くと同時に、何かに弾かれ3号の足が止まる。 2号だけが突進!
『カタタッ!』 狼が何をしたのか確認する間もなく、前方に居た4号が短杖を構えて〈真空刃〉を放ち始めたっ!?
「4号!やめろっ! 殺す気かーっ!?」
咄嗟に体を丸め、両手で頭を庇う。─ブゥオッ!─ 次の瞬間には、激しい風切り音が耳を劈き、周囲にあるものを切り裂き始めた!! 同時に、草やら石やら土やら色々と降って……と言うか、近いから刺さってくる勢いで飛んで来る。 もう目を開けてられない!
「死ぬー! 死んでしまうーっ!」
『カタカタッ!!』
隣でタゴサクも、ヨサクを庇って伏せてるみたいだ。
一人と二体が体を寄せ合って縮こまる事、僅か数分。 4号が止まった。 もう魔力が切れたのか?
暴力的な風の音も収まり、平和が訪れた。。。 …って、違う! 4号もヤラれたのかっ??
「どうなった?」『カタッ?』『 ……。』
松明の火はとうに消えて、辺りは真っ暗。 星や月明かりだけでは、目がまだ慣れていないんだよ。
『カタタッ』
3号がまたしても、手を差し伸ばしてきた。 ありがとう♪
傍らのタゴサクも起き上がって、小さくなったヨサクを抱え始める。
「いったいどうなった?」
『カタッ… 』
~・~・~・~
「ポーションはいい、数がそんなに無いからな」
身に纏っていたボロ布を裂いて、応急的に腕を縛ってもらう。
バイ菌で化膿するか不安だが、それよりも差し迫った今の状況の方が心配だ。
痛みはあるけど動かせない程ではないので、そんなに深くは無い……と思う。 熊の下敷きになってた時よりは、確実にマシなのは間違いない(泣)
手当ての合間に、大まかな事は聞いた。
3号が、散らばった篭の中身を入れ直しているのを横目に、件の場所を眺める。
膝まであった草むらは局地的にキレイさっぱり刈り取られて、地面の上にポツンと残されたモノがよく目立っていた。
「脚か… 」
月と星の僅かな光でも、テラテラと反射している液体。毛だらけの一本の脚。 それは、あの狼がもう走り回れない事を意味している。
風の斬撃が荒れ狂うあの中で、片腕の2号が切り飛ばしたそうだ。
それが出来たのは、頭を齧られながらも狼本体を抱えて離さなかった1号と、あの金属音の正体 ─ 鋭利な刃が連なった形状をしている伸縮自在の尻尾 ─ を鉈で弾き続けた3号のお陰らしい。
その後、1号の捕縛を逃れた狼とそれを追おうとした2号を、3号が止めたそうだ。 1号の戦闘力が失われ、その上さっきの様に不意討ちでオレが襲われる事を危惧した為だ。
此処までの話を聞いて、オレは自分の運の無さを思い知った。。。
"あのデカい狼"に心当たりがあったのだ。
─"ソードウルフ"─
そのカッコいい響きからよく覚えている。生態としては、一般的な普通の狼と限りなく近かった筈だ。最大の特徴は刃で覆われた尻尾である。確か… 体長の倍以上の長さにまで伸びるこの尻尾は、かなりの切れ味を持ち、武器の材料にもなるとか何とか。
スキルは当然の様に[嗅覚][追跡][連携]を持ち、複数での一撃離脱を得意とする強力な魔物だ。耐久性はほどほどだが[剣術]系の"派生スキル"を複数持つ個体も多く、モンスター図鑑(簡易版)では狼系の魔物で一番上位だった。
唯一の欠点は、物理攻撃に特化している為、[物理無効]持ちに対してはお手上げな事くらいだろうか? 廃墟にはゴーストが多数出没するので、それで近寄らないのだろう。 逆に、なぜ遭遇したのか不思議なくらいだ。
─ ホントに、よく生きてるなオレ……
間違いなく、戦っちゃいけない魔物だった。何でこうなったし!
運が無いとか以前に、呪われてる可能性すら考えられるぞ。
…心当たりがある以上、否定すら出来ない。。。
ちなみに、話に挙がっていなかった4号はただ魔法を撃ち捲っていた訳ではなかった。
脅威となる尻尾の挙動を少しでも見やすくする為に、視線を遮る下草を切り飛ばしていたそうだ。 その後は、狼の背中に向かってそのまま撃ち続けたと。 1号の両手首が無いのは、そのせいで。。。
やっぱり、ただ撃ち捲ってただけかも?
胴体だけになったヨサクを1号の背中に縛り着けた所で、従魔達全員を改めて確認する。 両手に鉈を持った3号、すっかり隻腕がデフォルトになりつつある2号。4号には変わりに篭を背負ってもらっている。手ぶらなのはタゴサクだけ。
「兎に角、移動しよう」
4号に反省を促すのは、後だ。 仲間の狼達がいつやってくるか知れたものではない。
『カタタッ?』
「勿論、止めは刺すさ。 あの状態なら何とかなるだろ?」
『カタッ!』『カタタッ!』
「それに、少しでも魔石の確保をしなくちゃならない。 …あれだけ強ければその魔石も、良いモノに違いないだろう」
~・~・~・~
血の跡を辿る事で、あの狼は直ぐに見つかった。
全身に傷を受けた上、切断された後ろ脚付け根からの出血が致命的だったのだろう。死体としてだった。
残念と思う反面、困惑もあった。
その亡骸の傍には、もう一匹の同じ狼の死体もあったのだ。
外傷は特に見られず、死因が何かは見た目では解らなかった。
2号曰く、毒死の可能性もある。 …との事。 オレには見えないが、血を吐いていた痕があるそうだ。
眠る様に横たわる亡骸に向かって、傷だらけのあの狼は鼻を押し付けたまま死んでいる。
最後にここに来た理由、と云うより、群れる筈の狼が単独で襲ってきた訳が何となく察せられた。
そんなオレの感傷をよそに、従魔達はまったく気にした様子も無く、手早くそれぞれの死体に刃を刺し入れては魔石を穿り出す。
『カタッ』
「 ……。」
『カタタッ?』
「 …ああ、解った。ここから離れよう」
─────────
心配された他の狼達に出会す事も無く、あの一帯から無事離れる事が出来た。 …まだ安心出来る距離では無いが。
途中に放置したスケルトン達は、忘れず縄でグルグル巻きにして回収。取り敢えず4号が背負った篭に追加で載せてみたり、1号の前側に括り着けたりしてみたものの──
『カタッ カタッ… 』
「やっぱりダメか… 」
元々は引き摺って行こうかと考えていたのだが、それだと縄が切れてしまうとタゴサクに反対され断念。 歩けるくらいにまで治す他に、手立てが思い付かなかった。
だがそれをすれば、1号達を治す魔石が足りなくなってしまう。この先に待機させている新入り達も同様だ。 それに歩かせるには[従魔術・改]の行使が絶対に必要になる。
オレの魔力も回復に回す以上、答えは一つしか無かった。
「コイツらは、やっぱりこのまま放置で」
倒して魔石を奪ってもいいが、せっかくだし折りを見てまた回収しよう。
俺YOEE! タグを追加しようか悩み中です。
余りにもタグが一杯あると… どうなんでしょうかね?




