どこかの樹海にて 11
「1号! ストーップ!!」
『カタッ? カタカタッ!』
「いやいやいや。持って来なくていいから、まず周りを見ろっ!」
何が嬉しいんだか、ウキウキで転がってる死にかけ(?)のスケルトンを両手で掲げる1号。 鉈はどうした?
そうこうしている合間にも、そこらじゅうからガサガサゴソゴソ音が聞こえ始めた!
「ほほぅ… こ、これは中々… 」
ヨサク・タゴサクのコンビが手にした松明を振りかざして威嚇する中、闇に隠れて蠢く者達の姿が徐々に露わになってゆく。 草を掻き分け、ゆっくりと這い寄る亡者達の姿を──
「っお、おぅ。」
ある者はその骨身を大地に削りながら、またある者は片足が失われたのか庇う姿勢で片手を着いている。 草むらが揺れる度にその数は増えてゆき、今や辺りには彼らの声無き声で溢れんばかりだ!
「………。」
完全に姿を現した亡者達は、誰一人として立ち上がる様子が見えない。既に逃げ道を塞がれた獲物を嘲笑うかの如く、その間合いをゆっくりゆっくりと詰めて来るのだ。 迫りくる亡者達の行進は、このままでは確実にその憎むべき命を捉える事だろう。
何もしなければ、血も通わぬ彼らのその伸ばした手が届くのも時間の問題だっ!
多分、後10分くらいは掛かるだろうか? …こんな調子だと。
「なぁ…? 何でコイツら、みんなボロボロなんだ?」
『カタタッ?』
スケルトンなんかすっかり見慣れてしまった身としては、とても残念な事にこの雰囲気を堪能出来なかった。 突然の恐怖なら悲鳴を上げる事にも吝かでは無いのだが、こうものんびりと匍匐前進を続けられるとどうも……
無事なヤツが一人も居ないし、ゴーストやあのすばしっこい犬(?)型スケルトンも見当たらない。
一応、それらしく煽る実況を脳内に流してみたが無理だった。
「じゃあ、まずはそこにいるヤツから従魔にしていこうか」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
やはりダメージを受けて弱っていると、[従魔術・改]が効き易いのは間違いなさそうだ。 多くても三回目、殆どのスケルトンには一回の発動で済んだ。
まぁ、逆にそれだけボロボロだったとも言える。
この周囲に集まったアンデッド達は、何者かの手によって倒されたか行動不能に陥っており、僅かに残った死にかけ(?)のスケルトンが9体。後は物言わぬ本物の骸になっていた。
倒されても死骸を残さないゴーストは兎も角、他の無事なアンデッドが見当たらないのは、既に移動した後なのだろう。
「 …で、誰にやられたの?」
『カタカタッ』
「んん? 狼の群れ?」
満足に動けないスケルトンを順番に運んできては従魔にしていくその"作業"は5分程で終わり、その後は数字組は魔石を拾い集め、残りとオレは聞き取り調査に移行した。
新たな従魔となったスケルトン達の話を総合すると─ "自分(達)のテリトリーに生き物の気配がして、見に行ったら狼が襲って来たので倒そうとしたけど無理だった" ─と云う事らしい。
─ 何かスケルトン達、上手く話が通じにくいなぁ。
従魔になりたてだからかも知れないけど、1号達と比べるとイメージと云うかニュアンスが希薄で読み辛い。 身振り手振りも出来ない状態だから、余計にそう感じるのかも。
狼達はその後、次々に集まって来るアンデッド軍団を蹴散らしながら向こう側へ行ってしまったらしい。
素早い上に連携して襲ってくる狼に対し、ここに倒れていた連中はあっと言う間にやられてしまい、その数すらも解らなかったそうだ。
"多分、10匹も居なかったと思う" ─と云う漠然とした予想を伝えられただけだった。
「さてさて… これからどうしよう?」
『カタタッ』(訳:追い掛けましょう)
『カタッカタタッ?』(訳:新入り達を治さないんですか?)
『カタッカタッ』(訳:魔石が足りないよ)
『カタッ』(訳:そっか~)
『カタカタッカタカタッ?』(訳:後をつけて、倒れてるヤツらを拾ってみては?)
「よしっ タゴサクの意見を採用! 楽に従魔も魔石も回収出来そうだからな」
『カタカタッ?』(訳:狼に襲われますよ?)
「距離を取ったら大丈夫。 …かな?」
『カタタッ!』(訳:倒せばいい!)
「はいそこっ! 物騒な事言わない。 絶対に突っ込んだりするなよっ! 戦って勝てる相手じゃ無いんだからなっ。」
『カタカタタッ?』(訳:新入り達はどうします?)
「動けないんだし、ここに固まって待機だな。帰りには魔石も増えてるだろうし、その時に治せばいいだろ」
─────────
まだ動ける一番傷の浅そうなスケルトンに気休め程度に荒縄と棍棒を手渡して、狼達が向かった方向へ進む。
暫くは点々と転がっている骨を辿るだけで特に何も無く、追跡は比較的順調だった。
時折、取り残されたであろう数体のスケルトンを見つけたが、これもやはり大破していた。面倒だったので、そのまま放置。
魔力が勿体ないし、後回しだ。
近くに転がってる残骸から魔石だけを回収し、先へと進む。
「だんだん、骨も見当たらなくなってきたなぁ~」
『カタッ』
「何か聞こえたり、生者の気配とやらは感じたりしてないか?」
『カタッ?』
『カタタッ』
「 …もうちょっと、行ってみるか」
新入り達を残した場所から進む事、約数十分。 目印となる骨も無くなり、いよいよ追跡は困難なものと思われた。
ただそんな中、先頭を行く1・2号コンビはずんずん進んで迷う素振りを見せない。 従魔達には草が踏まれていたり血の痕が見えるらしいが、松明だけの明かりだけじゃ、正直オレには見分けが付かない。
「ん? 血の痕だって? …どこに?」
『カタッカタッ』
2号が指し示すが、全然見えない。
「んん~?」
屈んで草を掻き分けて、漸く血が付いた葉っぱ見えた……
いやいやいや。真っ昼間に探しても、見付けらんないよコレ。
ボーボーに茂った草むらの中に埋もれて、どっからも見えたりしないよ? いくら暗闇で見えるって言っても、無理だよ。
「そうか… 臭いで解ったのか」
『カタカタッカタッ』(訳:犬じゃあるまいし、解りませんよ)
「??? じゃあ、何で見付けれたんだ? ココに有るって知ってなきゃ、とても見えるもんでもないぞ?」
『カタタッカタカタッ』(訳:だって、そっちに死にかけの気配があったから)
「だから何で、先にそれを言わないっ!?!?」
叫んだ後になって、慌てて自分の口を両手で塞ぐ。
近くに狼が居るのだとすれば、すぐにここを離れないと。
再び屈んだ姿勢になって、小声で2号に尋ねる。
「その死にかけなんだが… 狼か?」
『カタタッ』(訳:分かりません)
「 …周りに他の魔物の気配とかは?」
『カタッ?』(訳:どう?)
『カタカタッ』(訳:自分は感じないですね)
これ以上の追跡は危険だ。 すぐに帰ろう。
ここ迄に見たアンデッドの数は、精々100体前後。 予想ではもっと多くのアンデッド達が居る筈だが、恐らくまだ狼の群れを追っているのだろう。
共倒れになってくれれば万々歳だが、そんな都合良くいく訳がない。 漁夫の利狙いだったが、欲を掻き過ぎて両方相手にする事態はゴメンだ。 さっさと引き揚げるのが正解だろう。
「よしっ 帰るぞ」
『カタカタッ』(訳:1号先輩が居ません)
「なに…?」
全員が向こうの草むらに視線を向ける。
絶対に正体不明の死にかけの所に行ったに違いない。
オレの視界では真っ暗で見えないが、解るぞ。 そのうち両手に掲げてスキップ踏みながらやって来る姿が、ありありと思い浮かぶぞ!
1号は何故だか知らんが、見せびらかす事に己の全てを賭けてしまう真性のアホだ。 無闇に突っ込んだりしない様にと言い聞かせたばかりだと云うのに、もう忘れてしまったんだろうか?
忘れたんだろうな。 それとも初めから聞いていなかったのか。。。
オレの視界も心境も暗闇に閉ざされつつある中、ガサガサ音が近づいて来た。
もはや呆れを通り越して、諦めの境地だ。
唯一の救いは心の準備が出来ていて、もう驚くに値しない事だろうか?
「何を拾ってきたのか知らんが、すぐに捨て── 」
『ガガゥーッ!』
─ 1号じゃ無いっ!? ─
今頃になって、従魔達がカタカタ言ってるのが不便になって来ました。
……なので、ちょっとだけ変更してみようかと。
まぁ、カギカッコに変えてみただけなんですけどねー




