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どこかの樹海にて 10

『カタタッカタッ』


「 …言うな。 それに、ただ待ってるよりも、何かしてる方がいいだろ?」



両脇に薪を組んで火を焚いている倉庫入り口で、オレは束ねた草を丁寧に叩いては(ほぐ)していた。


みすぼらしい(ござ)を敷いたその近くには、 従魔達が手当たり次第に掻き集めた雑多な品々が周囲を囲む。 それとは対照的な一角も有り、刈り取ったばかりの草の束や摘まれた蔦等が均等に並べられ、辺りに漂う青臭さに鼻を曲げる。


従魔達がそれぞれに座りこみ、(ほぐ)した束をシゴいたり()ったりと黙々と働いているその様は、古き田舎の原風景。 農閑期で見られた寒村の内職みたいだ。

今のオレの格好からすれば、恐ろしい程に馴染んでしまう。


一体何故、こんな事をしているかと云うと──




~・~・~・~



「ロープが無い?」


『カタカタッ』


スケルトンの大量確保を掲げたオレに従い、従魔達は役立ちそうなモノを片っ端から漁り始めた。

主な調達先は倉庫なのだが、有ったのは歪な梯子や砕けた壺、そして粉になりかけの大量の藁。 若干の農耕具もあったが、大半は長い年月の果て、様々なものが朽ちて使い物にならなかった。

当然、その中にロープの類も含まれる。



これまで夜間にやって来たアンデッドの群れを考えると、全てを従魔にするのはとてもじゃないがオレの魔力が足りそうにない。 だけど、全部従魔にしたい。

…と言う事で、取り敢えず余ったスケルトン達はロープか何かで縛って転がして置いて、後々魔力が回復したら改めて従魔にすればいいかなと考えてた。

だがそれには丈夫な縄等が必要な訳だが、上記の理由で全然足りない事が判明したと。。。


「なら… もう作るしかないな」


『カタタッ』『カタッカタッ?』


「やるったら、やるのっ!」


ここで急遽、縄を作る事にした。

無いなら、作ればいいじゃない。 作り方は、どうせ従魔の誰かが知ってるんでしょ(適当)



─────


……実際、従魔の大半が知ってた。 常識だったんだろうか?


材料はそこらじゅうに生えている、蔦や蔓、特に繊維質が豊富な雑草だ。

石や棒で叩いて繊維を柔らかくし、余計な表皮や枝を(こそ)ぎ取る。 そうして加工したモノを束ねて二組作り、捻りながら寄り合わしていく。途中、長さが足りなくなったら端の繊維を拡げて重ね、再び捻って継ぎ足していけば立派な縄となる。

タゴサク曰く、本当なら乾燥させたり繊維をもっと細かく仕上げる必要があるそうだが、時間が無い。 それに一時的なモノなら、これでも充分だと思う。



『カタッ♪ カタッ♪ カタッ♪』


「タゴサクちょっと待って。 ペースを考えてくれ」


『カタタッ!』


「ぁあっ! そこに混ぜるなっ」


オレとヨサクは草を叩いて柔らかくしていく係。 3号がシゴいたり擦ったりして繊維以外の余計なモノを取る係で、タゴサクが縄を結う係だ。

ちなみに、1号は周囲の警戒で、2・4号は材料集めを兼任している。

ヨサクの厳しいチェックの隣で、手にした棒でリズミカルに草を叩いてはいるのだが、タゴサクの縄を結うペースが異様に早い。 何でも卒なくこなす3号は兎も角、一人で結っているタゴサクが最も手間が掛かる筈なんだがけど… 匠の技と見紛うばかりの熟練した手捌きで、どんどん縄を伸ばしていく。



──────

正直、今頃になって縄を用意どころか一から作り始めている事に、疑問を感じないでも無い。 泥縄とはよく言ったものだ。

思い付きの行動は、良い結果を生まない事は重々承知している。 しかし、こんなに武器も道具も何も無い状態では、仕方ないじゃないか(泣)


こうしている間も、お隣の森の中では激しい生存競争が繰り広げられ、縄張りを巡っては絶えず争いが続いている事だろう。 アンデッド減少と云う空白地帯の発生は、たったの2日程度で森の秩序を乱してしまった。

この地を再びアンデッドで満たさねば、森の魔物達に呑み込まれてしまう。


「だーかーらっ、こっちに混ぜんなって!」


『カタカタッ?』


「コッチは解し終えたヤツの場所なの! 見たら分かるだろ」




── こうして、日暮れから始めたこの縄作りは、何だかんだと進んでいく ──





「なぁ…?」


それぞれが作業に手慣れてきた頃には、もう誰も口を開かなくなった。 いや、骨だからカタカタ言わなくなったと云うべきか。

黙々と縄作りに精を出す従魔達を見て、当然の様に疑問が漏れる。


「なぁ…? 何でこんなに少ないんだ?」


『カタッ?』

『『……。』』


アンデッドは生き物の気配に敏感で、そこに引き寄せられる様に寄り集まる。 つまりここに居るオレに向かってやって来る筈なんだが… 今夜に限って、ポツポツとしか姿を見せていない。

時計が無いのでどのくらい経っているのか解らないけど、2~3時間は草を叩き続けてると…… 思う。


その間に現れたアンデッドは ─


・ゴースト …… 七~十体

・スケルトン(犬?型) …… 二匹

・スケルトン(人型) …… 無し


お昼頃に歩き回っていた時の方が、よっぽど遭遇してた。 まぁ、大量に押し寄せられるより遥かにマシなのだが、それにしても不自然だ。 最初の夜なんかは、軽く2~3百を越える数を一晩かけて倒していた筈だ。(オレは寝てたけど…)

余りの過疎っぷりに、材料抱えて運んでた4号が、現れたゴースト達に視線を送りもせずにそのままスタスタ歩いてったぞ。 他の従魔も手元の作業に集中し過ぎて、全然気付いて無かったし。。。

ゴーストはゴーストで、いつの間にかどっかに消えちゃったし。。。


作業を中断する事無く時間だけが過ぎて行くので、縄作りが(はかど)(はかど)る。 もう十本以上出来たんじゃないだろうか?



「なぁ…? もしかして、よそにアンデッドが流れてないか?」


『カタカタッ』(訳:そうだと思いますよ)


『カタタッカタカタッ』(訳:さっき遠吠えが微かに聞こえましたから)


「何で先にそれを言わないっ!?」





~・~・~・~



遠吠えが聞こえたらしい方角へと、警戒しつつ進むオレ達一行。

強化スケルトンである数字組を先頭に、オレの左右に松明を掲げたヨサクとタゴサクと云うフォーメーションだ。

もう真っ暗なのでオレの視界は限定されて物凄く不安なのだが、のんびり歩いている暇は無い。


全員が巻いた荒縄を肩に引っ提げ、それぞれに得物を握っていて捕縛準備は完璧だ。 ちなみにオレは(かご)を背負い、両手に予備の縄を担いでる。 素肌にボロ布を纏って先を急ぐその姿は、完全に変態だろう。 股間辺りがヒラヒラしていて、こんにちはしている。

……ホントにお家に帰りたくなってきた。


『カタッ』


「 …まだ先なのか? こっちで、合ってるのか?」


かれこれ数十分は急ぎ足で来ただろうか? もう息があがりそう。

向かう先は、多分行った事の無いトコロじゃないかな? 小川の反対側だし。

それにしても、ここまで全くアンデッドに遭遇して居ない。 オマケに、遠吠えらしきものも聞こえてこない。 見当違いに向かってるんじゃないのか?



『カタタッ』


「もう… 近ぃ… …のか?」


先を行く2号からは、警戒の必要有り… との報告。

全員の足が一旦止まる。


「ハァハァ ちょっと… ハァ……休 …ませて… 」


『カタタッ?』


流石に休憩無しでずっと早歩きは、シンドイ。

日頃の運動不足が祟って、唾も呑み込めないくらいだょ。


『カタッ?』

『カタッ』

『カタカタッ』『カタタッ?』


降ろした篭に手を着いて、ハァハァゼェゼェ言ってるオレを囲み始めた従魔達。


─ いいよなぁ~。スケルトンは疲れないから。


恨みがましい思いを胸に、篭から取り出したボトルに口をつける。 っぷはぁ~。水を用意してて良かったぁ~。

ちなみにこのボトル。元々ポーションが封入されてたヤツだ。 水筒替わりのモノが無かったので、有効活用させてもらってます。



一息着いた所で辺りを見回せど、ここまで変わらぬ夜の風景が続いている。

松明の僅かな光源に照らされて、疎らな木立と草むらが影を伸ばす。 揺らめく影とオレ達以外には、草に紛れて散乱した骨が転がっているだけで──


「っん? 骨?」


注意深く見てみると、うち一つが僅かにカタカタと動いているみたいだ。


「1号! 確保だっ!!」


『カタッ!』









何だか知らないが、既にダメージを負っているスケルトン発見!

やっと本来の目的に辿り着けそうだ。


『カタカタッ』(訳:すっかり囲まれてますよ)


「何で先にそれを言わないっ!?」

何だか、どんどん横道に逸れて行く~。

( ̄▽ ̄;)


……ここ迄ゆっくりするつもりは無かったんですけど、異世界に到着してまだ三日目の夜なんですよね。

この状態、何とかしなければ(汗)

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