どこかの樹海にて 6
「さて… 寝るか」
残り少ない携帯食を食べ終え、まだ日も高いうちに倉庫の中へ。
1日1日の濃度が濃過ぎて、少しでも休まないと体が持たないよ。。。。
「じゃあ、何かあったらまた起こして。」
タゴサクは、竈の仕上げをヨサクから託されて炊事場に。1号は倉庫入り口付近で警戒中、残る4号はオレの近くで警備だ。
予定では、館の調査は夜までは掛からないだろう。どちらかと言うと、物資の運び出しの方が時間が掛かるんじゃないかな? 床が抜けたり、崩れてる所もありそうだからな~。
そんな事を考えながらゆっくりと瞼を閉じて、横になる。
やはり疲れているのだろう、すぐに睡魔の足音が聞こえてくる様な…… … zzZ
────
─ドカンッ!!─ 「うわっ!?」
微睡みが気持ちいい~というタイミングで、壁に何か叩き付けられた様な音が! ビックリし過ぎて、変に首の筋が痛い。。。
「またかよ… もう少しで眠れそうだったのに~」
『カタタッ!』
眠い目を擦りながら頭を起こせば、外の1号が何か騒いでいるのが見えた。 傍らの4号は、キョロキョロと壁越しに外の気配を探っているみたい……だと思う。
「もぉ~~。」
またか。 また誰かが睡眠妨害を企てたのか。 いい加減にしてくれ。
でも前回の経験から、炊事場からの打撃音とは少し違うみたい。 今度の犯人は誰だろう? 容疑者が多過ぎる。
一瞬、このまま二度寝しようかとも思ったがまた繰り返されても嫌なので、藁を払いながら起き上がる。
兎に角、何か起こったみたいだし、嫌々ながらも促されて4号と共に外へ。
─!!
っと、外に出た途端、杖を構えて警戒感を露にする4号。 それにさっきまで入り口付近に居た筈の1号の姿は、どこにも無い。 逃げたか。
「何の音だったんだ?」
何か異常が起こったらしいと云うのは4号の行動で解ったが、肝心の状況がさっぱりだ。 周囲には特に変わった様子は無く、穏やかに雑草が揺れている。 やはり1号が、また何かやらかしたんだろうか? 持ち場を離れて、どっか行ってる訳だしな。
一方、隣に居る4号は、オレの質問がまるで聞こえなかったかの様に周囲を見回している。 その様子は、まるで獲物を探す捕食者だ。 魔法を撃ちたくてウズウズしている感がダダ漏れだ。 トリガーハッピーが隣に居ると落ち着かないよ。。
このままここで二人きりは、マズい。 とりあえず、炊事場に居るタゴサクに聞こうか。
「タゴサク~? あれ? 竈のトコにも居ない…?」
カラフルな屋根が眩しい炊事場に、タゴサクの姿は無かった。
少し前まで燻っていた火も今は消え、竈の廻りにはコテやら土を盛ったザルとか前から準備してた物が置いてあるだけだった。 水瓶が倒れて辺りを濡らしている事以外は、さっきのままだ。
タゴサクまでどっかに行くとは。。。 容疑者が、また増えたな。
暫く4号と二人してキョロキョロしていると、倉庫の向こう側に人影が。
『カタッ!』
「あ、タゴサク~。何があっ──」
物陰から頭だけ出したタゴサクは、オレ達を見つけると猛ダッシュで駆け寄り4号に向かってカタカタと何かを訴え始める。
そこにオレへの説明責任は、認めて貰えない様だ。。。
─ 従魔に蔑ろにされてるっ!?
そんなオレの動揺をよそに、今までまるっと無視してカタカタ言い合ってたタゴサクは、ここでやっとオレに顔を向けると腕を掴んで倉庫に向かってグイグイ引っ張って行こうとする。
もはやオレの意思など関係無い様だ。 ジャージが伸びる伸びる。
「何があったんだよっ!? せめて説明してっ!」
『カタタッ!』(訳:熊が出たー!)
「クマっ!?」
~・~・~・~
倉庫の入り口を粗末な梯子で遮り、金槌を手にした所でタゴサクは漸く状況を説明してくれた。
魔物の餌にならない様にウサギの肉を詰めた壺を埋めていると、茂みの向こうからでっかい熊が出たそうだ。 一人では勝ち目が無いので、1号の居る所まで走って知らせようとすると、そのまま熊も着いて来た。 熊に追われてるタゴサクを見た1号は、鉈を手に応戦。 だが何故か熊はタゴサクを追うのを止めず、そのまま追い掛けっこに。
必死に走り回っているといつの間にか、熊も1号もどこかへ行ってしまったみたい。 …そんな所にオレと4号がご登場、と云う訳だ。
─ なんて間の悪い。よりにもよってこのタイミングかよ。
恐らくさっきのデカい音は、熊がタゴサクを追っかけてる時に出たものなんだろう。 …それにしても、1号一人で大丈夫かな?
ちなみに4号は、警戒しつつ館を探索している2号達を呼んでいるそうだ。
無事合流出来れば、何とかなるかも知れない。
ただ、その熊がどれぐらいの強さなのかにもよるが。。。
「熊って、当然魔物の熊なんだよね?」
『カタッ? 』
魔物じゃない熊なんているの? って感じで、首を傾けるタゴサク。
「じ、じゃあ… 1号達で何とかなりそうなヤツだった?」
『カタカタッ』
「多分… かぁ。」
な~んかすっごい不安なんですけど。。。
強化してるとは云え、打たれ弱さに定評があるスケルトンだからな~。地力の差は、圧倒的なんじゃないだろうか?
そう言えば、こっちに来てからアンデッド以外の魔物と云えば焼きゴブリンくらいしか見てない。 情報としての知識はあれど、実際にどれくらいの脅威か解らない。 図鑑で覚えてる範囲では『キラーグリズリー』とか『ハンターベア』とか、熊型の魔物だと凶悪な名前なんだよね~。
ウチのスケルトンと比べれば、間違いなく攻撃力と防御力に雲泥の差があると思われ……
唯一の強みは、食料を得る為に襲ったのだとしても、スケルトンは食べるところが無いから途中で諦めるかもって所かな? それに一般的なアンデッドは『生者は皆、死すべし』って感じで己を省みる事無く攻撃してくるから、他の魔物達に敬遠されてる所もだな。
さっき小規模な暴走があったそうだし、そのせいで迷い混んで来ただけだと思いたい。
そうこうする間に、4号が戻って来た。
ただ、粗いバリケードの向こうからチラッとオレ達の事を確認すると、そのまま走り去ってしまったが。
───────
「今、どうなってるんだろう… ?」
1号は4号達と合流出来て… いるんだろうか? 館に行った2・3号とヨサクの姿は見なかったよな。
ずっと外の様子を伺っているけど、未だに熊の唸り声とか争う音なんかは聞こえて来ないし戦ってる感じもしない。骨だけなのに血の気の多いウチの従魔達の事だから、多分まだ走り回っているのだろう。
─ このまま、熊が逃げてくれないかな? ─
いや、そのまま森まで追いかけて行きそうだな。
んで、帰って来ない… と。。。。
「凄くあり得そうだ。」
『カタッ?』
「いやいや。独り言だよ。」
今の状況的に、みんなが帰って来ないと何も出来ない。信じて待つしかないのだ。
「ん? …ちょっと、待てよ?」
どんな熊かは知らないが、このままここに籠ってても大丈夫なんだろうか?
1号は兎も角、他の従魔達はまだ接敵してないと思われる。あの4号が音を立てずに戦えれる訳が無い。 だとすれば、熊は未だに1号と追いかけっこをしている事になる。 どっちが鬼役かは、この際どうでもいい。
もしそうなら……1号の事だ、きっと熊と一緒に倉庫にやって来る可能性が高い。 主に、見せびらかす為に。 今までが、そうだった。
改めて目の前にあるバリケードを見る。 荒い作りの梯子で入口を塞いだだけの、とってもお手軽な出来だ。 魔物では無い普通の熊でも、へし折るのは容易いだろう。 時間稼ぎがせいぜいではなかろうか?
「なぁ… タゴサク。 熊って、どのくらいの大きさだった? この入口から入れるくらい?」
『カタタッ? …カタカタッ』
「ふ、ふ~ん。 …そうなんだ」
兎に角でっかくて、小屋くらいの大きさかぁ……
石造りのこの倉庫は頑丈そうだけど、そんなに大きいんならそのまま崩されるんじゃね? …ってか、このバリケード、意味無くね?
そもそも、ウチの従魔達でもまとめてワンパンされるんじゃね?
もう不安とかじゃなくて、諦めとか達観とかの心境になってきたよ。
『カタッ!』
金槌を両手にしっかり握ったタゴサクが、急に何かに反応した。
「えっ? 何?なに?ナニ?」
倉庫の中から見る外の景色には、特に動くモノは無い。 敢えて言うなら、そよ風になびく枝葉や雑草くらいか?
それだって、何かが潜んでいて起きたものっぽくないし。
隣のタゴサクの視線の先を、改めて追ってみるも……うん。やっぱり草ボーボーだわ。
ってか、スケルトンの視線って、目玉が無いからドコ見てるか顔の向きでしか解らないよねー。表情も無いし、有る意味ポーカーフェイスの完成形?
当のタゴサクは、あの直後から同じポーズのまま固まってしまっている。 冗談とか言ってる場合ではないのかも知れない。
「ん? 何か飛んでる??」
木々の向こう側で、葉っぱが舞っている。
遠いのでハッキリしないが、青々とした葉っぱ……と言うか、枝ごと飛んでるのがチラチラ見えだした。
……と同時に、何かやたらと低い叫び声の様なものも聞こえる気がする。
「これは… 始まったか?」
多分、でっかい何かが暴れているのだろう。まぁ、熊しか居ないか。
まさか、4号が所構わず連射してるのか? もしそうなら、1号達巻き込まれてないか??
その間も相変わらずタゴサクは、微動だにしていない。まぁ、ココから何が出来る訳も無いしな。
それよりも、先程の予想が的中しそうだ。
唸り声が、聞き取れる様になってきた。
まだ距離は有るだろうが、近づいて来ていると考えるべきだろう。
「よし、タゴサク。 移動するぞ」
『カタッ?』
逃げるんだよぉぉおおーーー!!
明けましておめでとうございます。
…って、投稿がかなーり遅くなりましたが、再開致します~。




