どこかの樹海にて 5
オレに背を向けた4号は、片手の短杖をかざした決めポーズを取ったままだ。
周りに居る1号達は、あくまでも自然体だ。ノーリアクションだ。
「えっと… 何も起こらないんですけど??」
『カタカタッ』
4号曰く、そこに結界を張ったんだと。ゲームみたいにエフェクトが掛かるとか、何かしら見えると思ったんだが…… 周りの風景にはまったく変化が無い。
これで何か起こるのだとしたら、結界と言うより罠に思える。
「それで、この結界はどうなるんだ?」
『カタッ?』
オレの質問に徐に4号が先程の場所に近付くと ─バシッ!─ と云う音と共に、何かに手を弾かれた!
「え? 何コレ凄い!」
弾かれた手をプラプラさせながら4号曰く、こうやって魔物に反応して追い返す結界なんだそうだ。あまり強力では無いが比較的長く持ち、普通の魔物はコレで引き返すのだとか。
「結界を張った4号にも効果があったら、ダメな気が… 」
『カタカタッカタッ』
さっきはわざと弾かれただけで、自分で張った結界はその場で消すそうだ。何でも思い通りになるんじゃないんだな。
ともかく、こう言った阻害するものをアチコチに張り巡らす事で魔物達の足止めをしていたと。
だがあくまでも足止めで、メインはこの小川にある。
4号は使えないが、強力な水魔法の結界とそれを維持する仕組みが施されていたらしい。強力な故に、あまり頻繁に発動してもらうと困るのでさっきの足止め結界があったんだそうだ。
足元に転がる何かを刻まれた石ころをつつきながら、3号が懐かしそうに教えてくれた。
どんな結界だったのかは、4号は知らないし3号は余り詳しく無いそうだ。
今や小さな川の流れには忘れられた防壁の痕跡は無く、ただ穏やかにせせらぎを奏でるだけだ。
~・~・~・~
青空の下、真っ裸で体を洗う。
と言っても石鹸やシャンプーも無いので、ただ布を濡らしてゴシゴシするだけだが。
それでもアチコチの痒みが綺麗に流れてゆく爽快感は、ひとしおなのです♪ 体が冷えてくるのは、仕方ないけどねー。
いつかお風呂を作って入りたい。どこかに温泉を探す方が先か?
「ふぅ。さっぱりさっぱり」
『カタタッ』
「おっ、ありがと。」
怪しい館からの戦利品は色々あったが、手鏡と剃刀が使える状態で見つかったのは幸運だった。
オレって髭が薄いから、無精髭になると途端に不潔に見えるんだよね。ちなみに電動シェーバー派ではなくT字髭剃り派なので、お肌が負けたりしないよ。
髪はボサボサなままだが、あんまり気にならないからいいや。伸びてきたら、その時考えよう。
「こんなもんかな?」
─ブォオッ!─ 「うわっ!」
突然の突風に、飛んでいく手鏡。…アワアワする4号。どうやら、オレを乾かそうと風魔術の何かを使った様だ。覚えたてか慣れないのか、手加減なしの暴風でタオル替わりの布も飛んでった。
『カタカタッ!?』
「まぁ、良かれと思ってやったんだからいいけど。加減はしてくれよ~」
『カタッ… 』
地味に凹んだ様だ。コレくらいの失敗は、1号のこれまでを思えば何でもないんだけどな。
『カタッ? 』
そこで反応するなよ、1号。
周囲にはコレと云って遮る物も無く見晴らしがいい水場なので、多分大丈夫だと思うが…それでも森が近い。いつどこから魔物が襲ってくるか解らない。
そんな所で呑気に体を洗い髭まで剃ってるんだから、オレも段々と逞しくなったのかな? それともただ単に、図太くなっただけか。
時々そよぐ風が冷えた体を舐めて、いよいよ寒くなってきた。大自然の中で解放感に浸る余裕は無かったな。決して露出を楽しんでいた訳ではない。多分きっと。
「そろそろ戻ろうか」
いそいそと下着やジャージを身に着け、倉庫へ帰る。
洗濯すれば良かったと、後で気が付いた。
帰りの道中、行きで出くわさなかったアンデッド達が多かった。
まぁこれは、警戒しながら進んだ行き道より、帰りを急いでほぼ直進した事が原因なんだけど。
そのお陰か、移動時間は行きとあまり変わらなかった。急がば回れ… ですね。
「ヨサク、もう出来たの?」
倉庫が見える所までやってくる頃には、ヨサクとタゴサクが迎えに来た。
倉庫脇の炊事場からは薄く煙が上がっており、竈の仕上げをしているみたいなんだが……。
『カタカタカタッ!』
「魔物の暴走があった!?」
~・~・~・~
急遽、倉庫前の広場で従魔達を囲んで作戦会議だ。
ヨサクの話によると、オレ達が居た川と倉庫を挟んで反対側の森で多数の魔物が争った気配がしたそうだ。まぁ、すぐに収まったし魔物達の暴走と云う程の規模では無いようだが、警戒は必要との事。
オレ達(従魔達)がこの辺りのアンデッドを減らした為に、森の中の魔物が縄張りを拡げ始めたのでは? と言うのが2号と3号の見解だ。
─ これは困った。
これまでこの廃墟がアンデッド達の巣窟だった為、周辺に居る樹海の魔物達を気にしなくても良かったのに、これからはそちらも相手にする事になりそうだ。
ゴブリンとかならいいけど1号達も警戒する魔物も多い筈で、むしろそっちがメインかも知れない。
どの程度危険なのかはさっぱりだが、今までの様に対応出来るとは考えない方がいいだろう。
改めて、現在の我が戦力を確認してみよう。
・強化済み武器持ちスケルトン ─3体 (1、2、3号)
・強化済みスカル・メイジ ─1体 (4号)
・ノーマル素手スケルトン ─2体 (ヨサク、タゴサク)
・素手で戦闘経験皆無な人間 ─1名 (オレ)
……冷静に考えれば、もっと従魔を増やすべきだ。
今までは単純に、オレの従魔達が他のアンデッドを倒して強くなる事を期待していたが、そんなのんびりと成長を待って居られない状況なんだと思う。
ただ、ココのアンデッドを従魔にして数を増やしても、弱いままなのがネックなんだよな~。
武器か何かあれば少しはマシなんだろうけど…目ぼしい物は無いだろうし、有っても錆びてるか使えない可能性が。。。。
「取り敢えず戦力を増やす事と、何か武器になる物の調達をしよう」
『カタッ』
2号がさっそく手を挙げる。
「はい。2号君」
『カタカタッ』(訳:館の中を調べましょう)
「そう言えば、まだ館を全部漁ってみた訳じゃ無いんだよな。」
あの怪しい館は形を保っているとは云えアチコチ傷んでいたので、昨日は1階の中程を見て回っただけだ。3号とヨサクが色々と回収していたが、どこまで調べたのかな?
「3号、ヨサク、あの館の2階とか他の所とか、どこまで調べたの?」
『カタタッ?』『カタカタッ』
2体は顔を見合わせると、1階部分だけだと告げた。
『カタッ カタタッ』
ヨサクが続けて、2階と地下はまだ入ってもいないと言う。
「地下も在るの? あそこ?」
建坪がどれだけあるのか知らないが、あの大きさで1・2階と地下まで含めれば大した床面積だ。いったい誰のお住まいだったのだろうか? 今も形を残してる程の作りな事と言い、きっと有力者のお家だったんだろうなぁ。
とは言え、痛みが激しくて足場が悪い上に恐らくゴーストを始め多くのアンデッドが居る事が予想されたので、もう暫く放置するつもりだったんだけど。
館の探索は2・3号とヨサクに一任する事となった。
言い出しっぺと、まだまだ資材が欲しいヨサクと3号が立候補したのだ。足手まといなオレは行かない。と言うより─
「気を付けて行ってきてくれ。オレは寝ながら待ってるから」
『カタタッ… 』『カタッ?』
悪いが、昨日から寝てないんだよ。許してくれ。
空き巣になった主人公。
お巡りさんとの戦いが始まる…?




