どこかの樹海にて 4
──スケルトン。その生態は謎が多い。
天を仰いだままの1号に、突っ伏したままの2号。そのどちらも、未だこの体勢から微動だにしていない。端から見たら、不気味なオブジェに見えなくも無いな。
スケルトンと云う魔物は、時々こうして止まっているものなんだろうか?
まぁ、骸骨が動いているのだ。普通の生物とは根本的に何かが違うのだろう……
同じアンデッドである4号は、そうして動きを止めた2体のスケルトンを不思議そうに眺めながら戻ってきた。
「お帰り4号。どこまで捨てに行ったの?」
『カタッ』
どうやらあの焼きゴブリンは、館の骨捨て場に遺棄したそうだ。
あんな状態でも、アンデッドになるのかちょっと気にはなったが…今更だな。
4号が戻りお腹が膨れた所で、なんだか眠たくなってきた。考えてみれば夜通し起きてて日中に寝てるって、凄く不健康な生活だな。まぁ、炊事場が出来上がるまでの辛抱だ。
取り敢えずずっとフリーズしている1・2号コンビを蹴り起こし、骨拾いを再開してもらおうか。
字面だけ見れば火葬場の風景を思い浮かべるが、歴とした我が家の周辺清掃だ。何だかんだと夜になる度に、アンデッド達がやって来ては骨を撒き散らしてしまう。少しでもこの倉庫を住み良いものとする為には、この残骸は邪魔なのだ!
それに、これまで倒してきたアンデッド達があの残骸から復活しているのか確かめる為でもある。
『カタッ?』
「4号は引き続き周辺警戒と警護を頼む。オレはヨサク達を手伝ってくるから」
~・~・~・~
倉庫脇の炊事場は屋根組までが完成していて、現在ヨサクが屋根を急ピッチで瓦葺き中だ。
とは言っても、どこに有ったのかまっ平らの素焼きの瓦を並べてるだけだが。
…瓦だよな?
西洋風のストレート瓦の材質を知らないから、同じ物かどうか解らないけど。向こうに建つ館の屋根材とは明らかに違う色と質感に、若干の疑問を覚える。
「ヨサク、これって屋根瓦…だよね?」
『カタカタッ』
「壁用タイル? それって大丈夫なの?」
材料不足の為、倉庫に有った壁や床用のタイルを瓦に転用。強度的にはともかく、雨漏りしないのか?
そんな疑問は当然だが、ヨサク曰く、問題ないとの事。
割りと大きいタイルを使って互い違いに重ね合わせ、要所に釘打ちしてまた並べるを繰り返す。知らなければ、やけにテカった瓦葺きに見えなくもない様な気がしないでもない。
ただ……見映えが派手過ぎるんだよな。。。。
白や赤等、色とりどりなパッチワーク状に並べられた光景が、その表面の反射も相まって周囲から完全に浮いてしまっている。まぁ実用性に問題が無ければ、それでいいんだけども。
一方、3号とタゴサクが手掛けている竈も、微妙に気になるコトが。
これも……竈なんだよな?
オレが思い浮かべていた竈とは、かなり趣が違う。上に鍋なんかを置く場所が複数あって下には焚き口、その後ろから煙を逃がす為の煙突擬きが生えている。そこまではいい。
問題はその竈の隣にある、でっかい石組みの謎の構造物だ。そこだけ独立した焚き口に蓋まで付いている。竈にあった様な煙突擬きも無く密閉されていて、これでは火を入れても燃え続けないのでは?
……と言うか、一酸化炭素の発生の恐れすらありそう。これはいいったい??
「なぁ3号。この竈の横にあるやつは、何だ?」
『カタッ?』
「そうそれ。そのよく解らん炉みたいなやつ」
『カタタカタッ』
3号の代わりにタゴサクが答えてくれた。蒸し窯なんだそうだ。
……って、蒸し窯って何?
作っている本人達も原理をよく分かってないそうだが、コレで燻製や炭を作る事が出来るのだそうだ。
「ここで炭を作るの?」
『カタタッカタッ』
『カタカタカタッ』
「あぁ、なる程。」
要は、燻製を作る過程で炭がついでに出来ちゃうと。まっとうな炭ではないが、延焼用なのでそれで充分なのだとか。
さっきタゴサクがヨサクに頼んで、ある程度作ってもらったんだって。
それにしてもオレがメシ食って、ほんの十数分の合間の出来事だろ? どんだけ仕事が早いんだよ、ヨサク……
『カタッ?』
見上げたオレの視線に気付いたのか、ヨサクがこっちに反応した。
「いやいや、何でもないよ。続けて続けて」
~・~・~・~
あれから太陽が真上に昇る頃には、雨避けと言うには立派な屋根が完成した。だいぶ派手ではあるが…。
風避けの為の壁はあるにはあるが、基本的には吹きさらしに近い構造で換気の事は気にしなくてもいいだろう。周りを壁で覆ってしまうと暗くなるので、明かり取りの意味もあるのかな?
暗闇も見通すスケルトン達にとっては、関係無いか。
竈の方は石組を基礎に、粘土質の土で固めた感じだ。天板部分には余ったタイルをあしらえて、館から調達した五徳を配置している。
土が固まったら火を起こして、内側から焼きを入れる。その後にまた土を塗り込み、それを繰り返して漸く完成するそうだ。割れてボロボロになったりしないのだろうか?
それでも突貫工事とは言え、何だかんだ炊事場をほぼ作れるもんなんだな。
いや、ヨサク達の仕事が早いせいなだけか……
結局、オレがやった事と言えば、材料運びくらいのものだ。
『カタカタッ』
『カタタッ』
「ん? 骨拾い終わったの?」
気が付けば、いつの間にか1・2号コンビが後ろに立っていた。
その向こう側を見渡せば、散らばっていた骨の残骸はもう見えない。
ちゃんと真面目にやってくれた様だ。
「じゃあ、ちょっと川まで案内してくれ。 お~い!3号と4号も着いて来てくれ~!」
『『カタッ?』』
「ん? ずっと体を洗ってなかったから、汗だけでも流したいんだよ」
~・~・~・~
相変わらず動物の気配すらない廃墟の中を、のんびりと歩く事30分弱。倉庫からかなり離れたこの廃墟と樹海の間ギリギリの所に、細く浅い水の流れが見える。
何でもっと川沿いに集落を築かなかったのかな?。氾濫を心配する程の流れじゃないぞ。
『カタカタッ』
「魔物避けの結界?」
荷物を入れた籠を背負った3号が、オレの駄々漏れの思考を読んだのか説明してくれた。
そう言えば、以前にそんな事を聞いたな。
3号曰く、結界を施す為にわざわざこの小川を引っ張ってきたそうだ。水の流れによって森から溢れ出る魔力を反らし、集落に溜まらない様にしていたんだとか。
勿論、畑などの農業用水としての面もあるが、これによって集落に溜まる魔力を薄くするのが目的なんだそうだ。
ちなみに、本命の結界とやらは川を挟んだ向こう側へ施されていたみたい。既にその結界は失われてしまったそうだが。
「結界って、どんな感じだったの?」
『カタッ』
『カタッカタタッ?』
なぜか3号と顔を見合わせた4号は、短杖を片手にゆっくりと距離を取ると何やら始めた。1号達も4号から距離を取る。
新手の魔法でも使うのかな?
……。
暫く短杖を両手で握りしめたポーズをしていた4号は、そのまま何事も無く戻ってくる。
─ えっ? 終わり??
オレの傍に戻った4号は、クルリと振り返り短杖をかざす。
……。
「えっと…… 何も起こらないんですけど??」
毎日投稿出来る程、ストックが出来ません~。
まさか投稿ペースまでゆっくりになるとは……。




