どこかの樹海にて 3
─ 目の前で、斬新な火葬が行われているよ。
火を入れて間もない為か、炙られた箇所が少なくその原型をかなり留めていて……よりグロテスクだ。
それが焚き火の上でグルグル巻きにされて焼かれている光景は、かなりバイオレンス。
恐らく内臓を取り出す為だろう、胸から腹にかけてザックリと開いた切り口が中々にスプラッターだ。
中世ヨーロッパで悪名を馳せた"人喰い一家"の話を聞いた事があったが、その食卓はこんなクレイジーな感じだったのではないのだろうか。
─ オレに何を食わせるつもりだ??
ホラーは好きだが、こんなサイコな食べ物は経験が無い。一言で云えば、見た目が悪い。
気分はまるで、ジャングルの奥地で出された蝙蝠の姿焼きを見たリポーターだ。
薫りが良いだけに、見た目を気にしなければ何とかなったかも知れないが…バッチリと視界に入ってしまった。
もう忘れる事も無いだろう。ヘタをすれば、夢に出てくるクオリティだ。
睡眠妨害の次は摂食障害でも狙ってきたのだろうか?
「もう一度聞くが……これは何だ?」
『カタカタッ』
お肉です。……と、胸を張る1号。
『カタッカタッ』
血抜きもバッチリ……と、親指を立てる2号。
「いやいやいや。じゃあ何の肉なんだ?」
『カタタッ』
ゴブリンです。……か。
「え? コレが……?」思わず二度見だよ。
──────
ファンタジー的な魔物の中でもビックネームの一つであり、一時的にオレの従魔候補にも挙がったゴブリン。
モンスター図鑑(簡易版)で何度も見たが、コレがそうらしい。
言われて見れば、その頭は奇形か何かと間違えそうな程に大きくて小さな角まで生えている。
子供サイズの体と比べてアンバランスだ。
肌の色も違っているが……それでもヒトとの共通点の多さが目立つ。
もはや只の焼死体にしか見えない……
ハッキリ言って、食べたくない。
「……一応確認するが、食べられるんだよな?」
『カタカタカタッ』
食べられます。……だと?ホントか?
「この世界の人達は、ゴブリンも食料にしているのか?」
『カタタッ』
タゴサクが隣で「犬も食べませんね」って言ってるぞ。
「そんなもん、喰えるかっ!!」
~・~・~・~
タゴサク曰く、肉は硬いし味も悪い。お腹を下す事もあるそうだ。
よっぽと飢えて無ければ誰も食べない、そんな焼きゴブリンが今目の前に。
では、なぜわざわざそんなモノを下処理までして焼いていたのかと云うと、1号と2号が狩ってきた獲物の中で一番大きかったから。……なんだそうだ。
─ 何?そのふざけた理由。激マズ料理を見映えで作ってたのか?
調味料を計る事もせず、味見もしないインスピレーションだけの手料理よりもタチが悪いぞ。
他に野ウサギが二羽と、幾つかの毒々しい果物も有るそうで、そっちはタゴサクに処理をお願いした。
1・2号コンビに任せていると、またあの悪夢が甦りそうだからな。
そうして、こっちがワイワイやってる中でも3号は黙々と作業を続けている。
いつの間にか、そこにヨサクも戻っていた。
4号には焼きゴブリンを捨てに行ってもらい、残るは反省を促している1・2号コンビだ。
「ゴブリンはともかく……他に何か見つけなかったか?」
『カタッ?』
壺を膝に乗せて正座している1号は、2号と顔を見合わせる。
壺は勿論、さっき汲んだ井戸水を満たした物だ。
簡易洗面台の刑として、顔をバシャバシャ洗いながらの事情聴取。これぞ時短だな。
『カタカタタッ』
「うん? 川があったのか?」
1号曰く、この近くには小川が二つ流れていて、そこに水を飲みに来るであろう獲物を待ち伏せしていた様だ。
以外と考えていたんだな1号……
「川があるんなら、魚がいるだろう?魚を獲ってくればよかったのに。」
『カタッ? カタカタッ!』
魚を呑気に獲ってたら、他の魔物を引き寄せて猟どころじゃ無くなるって……
「ゴブリンは捕まえてたじゃん。」
『カタタッ』
ゴブリンは一撃だったと、胸を張る1号。
魚より獲れやすいゴブリン…… よく絶滅しないな。
そんなやり取りをしている合間に、タゴサクが捌いたウサギを持って来た。
皮を剥かれ枝に貫かれたワイルドな仕上げに、さっきの焼きゴブリンを思い起こされ、少し気持ち悪い。
そんなこちらの気分を余所に、タゴサクは焚き火に串ウサギを次々とセッティング。
次第にジューシーな薫りが、また漂い始めた。
時折滲み出した脂が焚き火に掛かり、より盛大な炎をあげる。
タゴサクは全く熱さを感じてない素振りで、肉を回すついでに何かをパラパラ振りかけている。
手元には小さな壺と、木製のお椀が置いてある。
「タゴサク、何を掛けてるんだ?」
『カタッ?カタカタッ』
『『カタタッ!?』』
タゴサク曰く、塩とハーブ(?)の粉を振っているそうだ。
どこからそんな物を手に入れたのか、物凄く気になるが……それよりも、1号と2号の様子がおかしい。
1号は呆然と天を見上げ、2号は逆に突っ伏してしまった。
「ん?どうした1号?それに2号も。」
……。
反応が無い。ただの屍のようだ。
「まぁいい。それでタゴサク、その塩やらハーブとかはどうしたんだ?」
『カタタッ』
館の台所にあったと…… ん?
「それって、ホントに大丈夫?」
『カタカタカタッ』
塩は腐らないし、ハーブはこの辺りでは珍しくないそうだ。ちなみに、3号のお手製らしい。
それなら安心出来そうだな♪
そして……この毒々しい色合いの謎の果実だ。
紫色の中に赤や緑の斑点が入って、全然目に優しくないその色合い。
毒がありますよー!って全力で主張しているぞ。
「これは食べられる果物か?」
『カタタッカタッ』
いっぱい食べなければ大丈夫……って、やっぱり毒があるんじゃん!
~・~・~・~
「いただきます。」
それでもお腹は空いているので、焼きウサギを食べてみる。
食感とお味は、鶏肉みたい。
適度な塩気とハーブのお陰か臭みも無く、美味しく頂けます。
「これは…… これからも獲ってきてもらわねば。」
続いては、謎の果物。
タゴサク曰く、この集落でよく食べられたモノらしい。
ただ食べ過ぎると、お腹を下すと……
下剤の替わりに使われる事もあるんだとか。
勇気を出して、一口……
「ただ酸っぱいだけなんですけど。」
『カタタッ?』
「いやマジで、甘味とかは無いな。酸っぱさで、消されてるのかも知れないけど。」
『カタカタカタッ』
……熟していないらしい。本当なら、甘酸っぱくてそれなりに美味しいのだとか。
その替わりに、若い実だとお腹を下す事も少なくなるって。
「まぁ喉の渇きはマシになったし、ウサギのお肉がより旨く感じられるよ。」
携帯食だけよりも、かなり満足感がある。
コレが続いても多分大丈夫だと思う。
栄養のバランスとかは、全く解らないが……
タゴサクは、まだ1羽ウサギが残っているのを燻製にするらしい。
と言っても、道具も設備も無いのでこれからヨサクと相談だ。
そんなに簡単に燻製用の何かが作れるのか知らないが、何か考えがあるらしい。
食材関連はタゴサクにお任せだな。
久しぶりの真面な食事を終えて、お腹を擦っていると…… 干してある洗濯物を思い出した。
「うん。ちゃんと乾いているな」
目立つ所に干してあったのだが、日差しも風通しも良い所であるので乾きも早い。
これで漸く悪夢が終わる。
早速履いて、ボロい腰巻きともおさらばだ!
……ところで、いつになったら1号と2号は復活するのだろう?
『カタッ?』
「お帰り4号。どこまで捨てに行ってたの?」




