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どこかの樹海にて 2

屈んだ姿勢のまま涙目で訴えるオレに対して、従魔達の反応はとても冷ややかだった。



まぁ問いかけた内容が、余りに脈略が無さすぎた事は認めよう。だが両手をお腹に回してこの体勢をしていれば、万国共通で伝わる筈だ。

だが各々の作業を変わらず続けるスケルトン(情け知らず)達。そんな中、唯一手を止めた3号が(おもむろ)に近くの蔦の葉を千切る──


『カタタッ』(訳:どうぞ)


「ノオォォォオオォー!!」



小さくて指に付きそうとかそんな問題じゃない。

そこら辺の葉っぱで拭いた日には、被れてしまうわっ!

ティッシュやトイレットペーパーなんて贅沢は言わない。せめてもう少し、安心出来る素材はないものか?


いつ暴発するかも知れない爆弾を抱えたまま、必死になって辺りを見回す。

こうしている間も、刻一刻とその瞬間が近付いてくるのを感じる。


─ もう猶予は無い。限界だ!


それでも残った力を主に括約筋に振り絞って、

最後の抵抗を試みる。

目指すは倉庫だ。確かボロ切れの布があった筈だ。

しかし…間に合うのだろうか?

いや、間に合わせて見せる!!


─ 諦めるなっ!


一歩一歩を細心の注意を払って、倉庫へと向かう。


テクテクテク…… ドテッ






……ぁぁ。




~・~・~ 諸事情によりカットします ~・~・~



悪夢の夜は過ぎ去った。

いや、まだ朝日は出てないけど。


冷ややかどころか、凍ってしまった従魔達は今も目を合わせてくれない。

ジャージの下やパンツを洗いに出掛けたタゴサクも、ずっと視線を反らしたままだった。


既に現場も体の一部も処理が終わり、一見、平穏を取り戻したかに思われた。

だが腰巻き替わりに巻いたボロ切れが、一層寒さを増幅させるのだろう。焚き火の傍らに腰掛けるも、一向に暖かくならない。


─ 視線も生尻も冷たいよ。


この年になってこんな羞恥に陥るとは、考えもしなかった。

やはり、あらゆる事態を想定して準備する事が何より大切だと、切実に思う今日この頃。


食料だの安全等もはやどうでもいい。

早くお家に帰りたい。


そんな事を考えながら、時が過ぎるのをただ待っていたのであった。。。。




~・~・~・~


気が付けば、ウトウトと眠りこけていた様だ。

相変わらず金槌を振るう音や、何かを打ち付ける振動が喧しく響く中で、まだ頭はぼんやりとしている。

見れば空もうっすらと青みを増して、周りの景色も色を帯び始めていた。


「朝か…… ふぁ~あ」


両手を上にゆっくり反らして伸びをする。

首の辺りでポキポキ鳴った。

焚き火はいつの間にやら灰となり、底で燻る残り火がユラユラと僅かに赤く光るのみとなっている。


手近にあった枝で火種をつついていると、倉庫の中から2号が出てくるのが見えた。


「もう帰っていたのか~」


『カタッ?』


その声に振り向くと、そのまま不思議そうにこちらを見つめる2号。恐らく下だけ着替えたこの姿に、疑問を覚えたのであろう。


─ やめろ、止めてくれ。そんな目でオレを見ないで!


思わず恥ずかしさで体ごと顔を(そむ)けると、その先にはジャージの下とパンツが干してあった。

2号はコレを見ていた様だ。


─ キャアアァァァ!?


羞恥プレイはまだ終わっていなかった!

なぜこんな目立つ所に干しているんだよっ!?

タゴサクのアホー!!


『カタッ?』


さらに1号までもが現れた!

オレに気付くと2号の後ろで、いつもより激しいジェスチャーをしはじめる。洗濯物の事では無く、森での狩りの様子を表している様子だ。

それを見た2号も加わって、意味不明な事になりだした。

端から見れば前衛的な踊りにしか見えない。


暫し2体で踊り飽かすと、そのまま倉庫の向こう側へと行ってしまった。



─ えっ? 獲物はどうした?


洗濯物をスルーしてくれたのは、感謝に堪えない。

それに2体が無事に帰ってきたのは良かったのだが、主目的である食料調達が成功したのかどうかは、あの踊りではさっぱり分からなかった。

何か獲れたのなら1号の性格上、必ず見せびらかしてくる筈だ。

それが無いと言う事は…空振りに終わったな。

上手くいかないものだな、色々と…


「はぁ~。」


取り敢えず、顔でも洗って来よう。

違和感バリバリの腰を上げて、水を汲むべく井戸へと向かった。



~・~・~・~


狭い石組の階段を降りると、壷が幾つも並べられてる。

多分、3号の仕業だろう。

覗き込むと、そのどれもが空っぽだった。


まぁ、ここに溜めてる訳無いか…。


足元に綺麗に纏められた縄の端は、斜めに立て掛けられた柱の滑車を通して脇に置かれた(かめ)へと括られている。


「よいしょっと。」 ─ バシャッ ─


甕を割らない様に井戸の中心へと落として、ゆっくりと縄を手繰って引き上げる。

当然、水の分だけ重くなり、深さの分だけ引くのは長くなる。


─ せめて手押しポンプが有ればなぁ…


縄を引いたまま宙ぶらりんになった甕に手を伸ばし、こっちに寄せる。

並べられた中で一番小さな壺へと注ぐ。

これを何度か繰り返し、漸く水汲み終了だ。

その工程は単純だが、組み上げた水の量と掛かる労力が割に合ってない気がする。


昔、実家にあった手押しポンプを使った事があったが、あれはあれで中々大変だった。

だが今思うと、この汲み方に比べればかなり効率的だった事を実感する。

技術の発展をこうやって体験して、始めてその有り難みがよく解ったよ。



小さいとは言え並々と水を張った壺を両手に抱え、来た道を戻る。

井戸端で洗ったりなんかしたら、汚水がそのまま井戸に流れちゃうからな。


それにしても……

僅かな距離とは言え急な階段に坂道にと、何でこんな構造にしたのか意味が解らないよ。

そのままの高さで井戸を掘れば良かったと思うんだけどな~。水位も低くない訳だし。

時期によって、変動幅が大きいとか?

この森の深さを考えると…雨季とか乾季とかあり得ないんだけどなぁ。


止めどなく汗と愚痴をたれ流しながら戻ってみると、再度火が焚かれていてその廻りに従魔達が集まってワイワイやっていた。

離れた建築現場の中で、3号だけが一人ぼっちで黙々と金槌を振るってる様だが……


─ 誰か声を掛けてやれよ。


辺りには肉が焼ける芳ばしい薫りも漂っていて、まるでバーベキューしてるみたいだ。

さっきの1号達の踊りは、仕留めた獲物を表していたのかな?


「いい匂いだなぁ~。何を焼いてるんだ?」


『カタカタッ』


駆け寄る2号に壺を渡し、焚き火へと近付く。

1号が両手を振って手招きする先には、手足を括られ逆さまに吊るされた"何か"が炙られていた。

その姿は完全に人型である……





「グロッ!?」


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