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どこかの樹海にて 1

1号と2号が狩りに出掛けて暫く──


彼らは上手くやれてるだろうか?

森の魔物に、逆にヤられたりしてないだろうか?

いくら普通のスケルトンよりも強いとは言え、たった2体では心許ないな……

一応、危険を感じたら、直ぐに逃げる様にと言ってあるけど…アイツら、嬉々として向かって行きそうなんだよな~



……。


……等々と、藁敷の上で横たわり悶々としているオレ。

何度も寝返りを打ち、体勢を変えてみるも、色々な想像が頭を過る……

ハッキリ言って眠れないのだ。だが、その理由は不安のせいでは無い。


─ だって、横でガンガン五月蝿いんだよっ!


壁ドンなんて生易しい程の騒音である。

3号と名無しが倉庫の壁に雨避けを増築している訳で、仕方ないとは言え……音が激し過ぎる。

時折寝ている頭の間近で聴こえるこの重低音、お腹にまで響くよ。

これで眠れるのなら、工事現場の中でも快眠が約束されるだろう。

昨夜は既に眠りに就いていたし、こんな間近で響いても無かった筈だ。


─シン─ と静まり返っていたのに油断していると、ドガンッ!と突然鳴り響く!

この周期性の無さも、この騒音に慣れない要因だ。

もしかして……オレを睡眠不足にさせるのが狙いか?と疑いたくなるレベルだ。


兎に角、このままではただの安眠妨害だ。なので3号達の様子を見に行くとしよう。

入り口で見張りに立っている4号と名無しその2を連れて、倉庫脇へと向かう。




月明かりの下、ほぼ真っ暗の中でも作業をしている人影だけは見える。

近付けば、まだ組掛けの柱が壁に寄り掛かっている様で、その周辺には雑多な物が並べられてる風だ。


『カタタッ?』


壁に幾つも掛けられた梯子の一つに名無しその1が居て、オレに気付いて手を止めた。

その足元には、短く太い丸太を脇に抱えた3号も居るのが分かる。


─ その丸太を壁に打ち付けてたのか?


騒音の元凶は主に3号だった様だ。

だが、なぜ丸太を壁に叩き付けていたのか理由はさっぱりだ。


「まだまだ掛かりそうだな。」


名無しその1『カタカタッ』(訳:始めたばかりですし)

3号『カタタッ』(寝てて下さい。)


「その音が煩くて、寝れないんだよっ!」




~・~・~・~


ちゃんとした竈の設置は急務なので止めさせる訳にもいかず、結局、このまま徹夜作業と相成った。

オレの為に灯した篝火(かがりび)の下、廃材から抜き取った釘を金槌を使って叩き直ししている。

こう言う道具類が倉庫に残されていて、ホントに助かった。

ちなみに現場監督をしているのは、名無しその1改めヨサクだ。名無しその2はタゴサクにしてみた。

何となく思い付いただけで、深い意味は無い。


『カタカタカタッ!?』


急な命名で一番騒いでいたのが、なぜか3号だけだった。膝を付き大地を殴っているその光景は、甲子園初戦敗退の悔しさを思わせる程の乱れっぷりだった。

名付けられた当の本人達が、引いている…。

オレもドン引きだ。3号の何がそうさせるのだろうか?




閑話休題(それはともかく)……

このヨサク、生前は大工だったのか矢鱈(やたら)と手際がいい。

既に柱を立てる基礎部分を埋め終わり、倉庫側には三本の柱が立っている。しかも、梁を組む為の溝が彫ってあり、精密に位置と長さが仕上げられていた。

驚く事にヨサクは、これらの加工をノミと金槌と鉈だけでやってのけていたのだ。

ノコギリは歯が錆びて使い物にならなかったし、他にも必要な道具が足りない中で、よく柱を建てたり切り揃えられたものだ。

3号もこう言う工作が得意で色々やっていたが、レベルの違いを見せ付けられた格好だな。


『カタッ?』


オレの視線に気付いてか、3号は気まずそうに小さくなった。




こうして着々と炊事場の建築が進む一方、篝火を焚いたり喧しく音を立てまくっていれば……当然アンデッドが寄ってくる。

昨日から夜に掛けて相当数を減らした筈だが、どこから涌いてくるのか行列の出来る人気スポット状態は止まらない。

リピーター無しでこの繁盛とは、よっぽど大々的な宣伝が功を奏してしまったのだろう。微塵も嬉ばしくないが。


アチコチからひょっこり現れるアンデッド達のお相手は、主に4号が対応している。

サポートとして3号とタゴサクが居るのだが、これを殆ど頼りとしていない。ほぼ一体で、捌ききっているのだ。

昨夜とは違って数が減っているのもあるのだろうが、やはり遠距離攻撃の持つ強みが効いているのだろう。


4号は元々、[闇魔術]を主に使っていたそうだ。その実力の程は、1号達をボロボロにした事により証明されている。

だが今や新たに[風魔術]と[二重詠唱]を身に付けた事により、その殲滅速度は従魔達の中ではダントツである。

姿を現したアンデッドは、近付く傍から4号に次々と倒されていく。正にサーチアンドデストロイだ。

いつ魔力が足りなくなるのかと、ハラハラしてしまう程の大盤振る舞いだ。少しは自重しろ。

建築現場の付近で炸裂しているこの魔術、詳しい内容は本人である4号が休み休み解説してくれた。



─────

それぞれの魔術には、習熟する事によって使用出来る魔法がどんどん増えていく。

攻撃するものだったり、身に纏う防御や付与だったり、それぞれの属性に合わせた効果だったりと様々だ。

4号は[闇魔術]の中で単発の威力が高く、また防ぎ難い〈シャドウクロー〉と言う魔法が得意なんだとか。

足元や壁などから突然現れる鋭く伸びる影は、彼のこれ迄の経験により変幻自在に貫く凶器だ。

1号に喰らわせた最後っ屁も、これなんだとか。

但し、空中から距離が空き過ぎたり影の無い暗闇では使えず、魔力の消耗も大きいそうだ。


そこで現在多用しているのが、新たに加わった[風魔術]の魔法の一つ〈真空刃〉だ。

この〈真空刃〉は射程や威力そのものは〈シャドウクロー〉には及ばないものの、速射性と"線"としての効果範囲のお陰で使い勝手がいいそうだ。

オマケに、一発の消費魔力もそれなりに少ない。

さらにさらに、その速射性に加えて[二重詠唱]による連射が、エグい程の面制圧力を発揮。

これが先程からの大盤振る舞いの魔法行使に繋がっている。

多少威力が低くとも当たれば動きを制限出来る上に、乱打の如き手数で削り切ってしまうのだ!


"梅怨の短杖"が持つ〈魔術発動体(弱)〉の効果も合わさって4号は今、調子に乗っているとも言える。

まぁ、魔力が尽きたら…3号とコンビで肉弾戦を頑張ってもらおう。




順調に建設と掃討が進む中、オレは今、重大な問題に直面している。

それは生物にとって避けられない整理現象であり、この"世界"に訪れて始めて体験する行為でもあった。


─ ものすっごいお腹が痛いよ。。。。


小の方はそれとなく済ませて来たが、大は今まで催す事無く現在に至っていた。

遂に来るべき時が来てしまった。しかもこんな夜に…。


何の準備も覚悟もないまま、脂汗がタラタラと頬を伝う。


こんな事なら、穴でも掘っておけば良かった。

それに何を使って拭けばいいのだろう?

とてもデリケートな部分だ。生半可な物では、後で色々響く事になるに違いない。

体の一部がオレの意思を離れて勝手に暴走するのを何とか堪えつつ、従魔達に問いかける。






「今すぐに教えてくれ!お尻を何で拭いていたんだっ!?」


衛生管理は重要ですよね。


ただ…お食事中だった方、誠に申し訳ありませんでした。

これに懲りずに、次話も続いてしまうのです。

重ねてお詫び申し上げます。

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