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どこかの部屋にて ~どこか別の視点にて~

「はぁ~」



広々とした部屋の中にあって、その男は一人で机に向かい書類に追われていた。

キチンと整理された紙の山は幾つかの列を作り、まだまだ彼に休息を取らせるつもりは無い様だ。


風に飛ばされぬ様にと、紙束の上には小さな金の彫像が座っている。

壁には数点の絵が飾られ、隅には小さな棚もあった。部屋の大きさの割に小さな窓には、細かな刺繍を施されたカーテンが両脇を彩る。

だが彼が腰掛け、向かい合っている椅子と机を含めても、この部屋の調度品は少ない…。

そのどれもが質の高い物に見えるが、この広い空間を満たすには明らかに足りていなかった。

そんなやや殺風景な部屋の中で、彼は黙々と書類の数を減らすべく努力を重ねていた。



─コンッ コンッ


「…入れ」


「失礼します」


彼の努力を嘲笑うかの様に、書類を手にした秘書官が姿を現す。その顔は彼と同様に、うんざりした表情を隠そうともしていなかった。


「また、何かあったのか?」


「先ずはこちらの報告をご覧下さい。」

数枚の書類を机に置くとクルリと紙の向きを変え、こちらに背伸びするように差し出す。


新たに加わった書類を前に、つい出そうになる愚痴を紅茶と一緒に飲み干して…替わりに溜め息が出てしまっていた。

そしてもう一度、たっぷりと溜め息をした後、黙って書類を手に取り視線を走らせる。



一枚目を(めく)った頃には、彼は無表情になっていた。書類に落としていた視線だけを、秘書官へと向ける。


「誤報ではあるまいな?推測の記述が多い。」


「こちらは第一報となります。詳細は、時間を持ってご報告出来るかと。」


「教会の手の者というのが、気に入らん。事を大きくしようと言う意図が見え見えだ。」


「…ですが、偶然を装うには無理があるかと。他のルートでも報告が上がってきておりますので。」


「ふん。では続報は…距離があり過ぎるか。現地が混乱しておれば期待も出来んな。直ちに数名、偵察に向かわせろ。必要な物は後で送り出せばよい。」


「既に身軽な者を3名向かわせております。後続は今暫くお待ち下さい。」


「…どれ程の時が掛かる? あぁ 辿り着くまでだ。」


「何事も無ければ3日後。付近の警戒を合わせて4日後には範囲に捉えられる事が出来るものと思われます。」


「エッジスワローを使っても詳細は早くて6日前後か…。それまでの準備も滞りなくな。」


「はい、畏まりました。続報が入り次第、またご報告致します。では、失礼致します。」




秘書官の後ろ姿が扉の向こうに消え、また一人になった彼は紅茶のポットを振った。空になった事を確かめると、また溜め息を着いたのだった。

エッジスワロー …翼が刃物の様に鋭くなった、高速で飛翔する魔鳥。従魔術を扱う者の中では、比較的多く使役されるポピュラーな魔物。小回りが効かず、戦いには余り向いていないとされる。替わりに伝令や書簡の運搬に多く活躍していて、伝達手段としては欠かせない存在となっている。

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