どこかの廃墟にて 9
─ どうやらウチのスケルトンは強いらしい。
安眠が保証された事で、これからの展望に期待が高まる。暫くの間は、この倉庫を拠点に自給自足を目指すのがいいだろう。
外部との連絡を模索するのは、それからだ。
まずは、その前に……
「ここの片付けをするぞ!」
この見渡す限りの散らばった残骸は、精神衛生上とても宜しく無い。
それに襲ってくるアンデッドの中心は主にスケルトンで、オマケにオレの従魔もほぼ全員スケルトンだ。この状態では、紛らわしくって仕方がない。
『カタッ?』
そこ!面倒臭そうにこっちを見るんじゃありません!
2号と3号は護衛、他の従魔達は骨の撤去だ!
~・~・~・~
1号と新入り達がせっせと骨を拾って運ぶ合間に、オレは食事の準備だ。
だが昨日せっかく3号が作ってくれた簡易な竈は、夜のうちに壊れしまった。
……なので改めて作り直してもらう事に。
『カタカタッ』
「場所を変えたい?」
石に腰掛け、なかなか解けない携帯食の結び目と格闘していると、焚き火跡から3号がそんな事を言い出した。
…言われてみればもっともだ。ここだと、またいつ壊されるか知れないしな。それに雨が降れば使用不可になる。だからと言って、倉庫の中で焚き火をする訳にはいかないし…
そんな3号が示した場所は、向こうにある"蔦だらけの館"だった。
「……使えるのか?あそこ?」
『カタカタカタッ』
見てみないと分からない…か。
食事を中断して、不気味を絵に書いた様な館を調べてみる事に。まずは裏口から。
~・~・~・~
井戸の建物に面した所から、渡り廊下の様になった部分に朽ち果てた扉があった。どうみても、普通に開ける事は出来そうにない。蝶番から半ば取れてしまっているし…。
さてどうしたものか?と眺めていると、2号が無造作に足で蹴った!
─ドカッ!─ … ジタバタ …
腐った扉に片足を突っ込んだまま引っ掛かり、藻掻き始める2号……
3号と一緒に引っ張り出して、改めて鉈を使って扉を外して壁に立て掛ける。だが、これで終わらなかった。扉の向こうには、物が溢れていたからだ。
板切れや箱やテーブルだったモノを退かし、進路を塞ぐ色々なモノを外へと出して、漸く中へと足を踏み入れる事が出来た。
その中はやはり暗い…。
「ゴーストとか絶対居るよな~?」
『カタカタッ!』
任せて! と全力でアピールする2号に、やや不安を感じる。フラグ臭がプンプンだ。
─バキッ─ ドテッ
早速、隣では床を踏み抜き盛大にズッコケる音が。
─ ってか、3号っ!?
何だろう…やはりこの館は呪われでもしているのだろうか?あの3号までもが、ドジを踏むとは…
2号も指差して見てないで、助けなさい!
今度は2号と一緒に3号を引っ張り上げた。
『カタタッ……』
落ち込んでる。3号が凄く落ち込んでいるよ。
こう言う場合は、そっとしておくに限る。
普段、真面目なヤツなだけにこういう時のリアクションに困るな…… 1号なら、当たり前の様にスルーするんだけど。
足元を気にしながら、慎重に進む。
裏に井戸があるので、てっきり台所か何かかと思っていたのだが、ここは違う部屋の様だ。
乱雑に箱やら椅子等が置かれていただけで、何に使われていた部屋なのか分からない。
酷く汚れた部屋の隅には、何者かの死骸の一部がへばり付いているだけだった。
─ ここで飲み食いしたくないなぁ。。。。
正直な感想である。
もう一つの裏手に面した部屋へ行ってみよう。
「ここが台所かな~?」
隣の部屋への入り口はドアも無く、どうやら段になっている様だ。慎重に段を降りると、靴底が土を踏みしめた感触になる。
地面が床になった、土間だ。ここなら、床を踏み抜く心配も無い。
ただ……隣の部屋と僅かな隙間から差す外の光だけでは、あまり良く見えない。色々なものが散乱している風なのが、輪郭として何となく分かるだけだ。
オレのそうした仕草に、2号が壁際に寄って鉈を振るいだす。
─ドカッ! バキッ!─ ベキベキッ
壁に穴を空けようとしてるのかと思えば、板を打ち付けた窓だった様だ。 漂う埃の中で、やがて土間の様子が見えてきた。ココも酷く荒れている。
でっかい水瓶(?)の様なモノが、隣の棚ごと倒れた形で崩れている。椅子や割れた食器が散乱し、その中には明らかな人骨も落ちていた。 テーブルはひっくり返されて、外へと繋がる扉を塞いでいる。その前にも、棚や箱等が積まれていて、まるでバリケードみたいだ……
やはりここは台所の様だな。流しや竈があるし。
『カタカタッ』
3号は据え付けられた竈の隣にある、コンロの様なモノを調べている。
「コンロ? でもどうやって火を点けるんだ?」
鍋やフライパンを置く五徳(?)はあるのだが、その下の火が出るであろう部分には、幾つかの穴が空いているだけ。下を覗いている3号も、よく解らないみたいだ。
まさか、ガスコンロ……?
「ちょっとオレにも見せてくれ。」
『カタッ?』
コンロの下は平たく空洞になっていて、ガス管の様な物は見られない。
何かを設置していた跡はあるのだが…… これはいったい?
「2号は、コレの使い方分かるか?」
『カタカタッ? ……カタッ』
少し首を捻った後、静かに左右に振る。
何か便利そうに見えたが、仕組みがサッパリじゃ使う事は出来そうに無いな。竈の方は、普通に下に蓋付きの焚き口があって上には煙突も壁に沿って伸びていた。
「この竈は、使えそう?」
『カタタッ』
多分無理……かぁ。
3号曰く、煙突にゴミが溜まっていて、周りの状態からそのまま火事になりそうとの事だ。
結局、この館の台所は諦める事に。
代わりに使えそうな器具や部材、食器や棚などを持ち出して有効利用する。
~・~・~・~
バリケードを退かして、扉をまたまた破壊。
一端外に出ると使えそうな物から、順番に運び出す。
戦利品は、いっぱいだ♪
「お~い。1人手伝いに来てくれ~」
骨拾いの中から、応援を呼ぶ。
その呼び掛けに、新入りの名も無きスケルトンがやって来た。倉庫から持ち出したのか、その背には草で編まれた小さな籠が見える。
─ カゴがあったのか。魔石拾いの時に使えば良かった。。。。
己の迂闊さに一瞬呆然と仕掛けたが、あの時はそんな余裕は無かった。知らなかったんだよ!
そんなオレの葛藤を余所に、新入り名無しは館からの運び出しを手伝い始める。
どっこいしょ、よいこらしょと運ぶ中で廃材まで外に出てきた。
『カタカタタッ』
3号はテーブルとこの板切れを材料に、倉庫外側の壁に簡単な雨避けを作るそうだ。そこに竈を設置するみたい。
『カタタッ?』
それを聞いた新入りの名無しは、3号に何やら質問している風だ。
カタカタ言い合うスケルトン達は、そのうち二体してしゃがむと地面に絵を描き相談を始めた。
─ あの~。まだ運び終わってないんですけど…
その合間もせっせと働く2号。集中すると、周りが見えなくなるタイプなのだろう。
持ち上げていた棚を下ろすと、運び出した椅子の一つに腰掛ける。
「2号、一端休憩しよう。オレもお腹が空いてるし、あれじゃ運んでも何を使うのか解らん。」
顎で相談している二体を示しつつ、携帯食をポケットから取り出す。……変形しちゃってるな。
『カタッ?』
2号は休む気がないのか、側に置いた鉈を手に取ると館の中へ戻っていく。
気になるモノでもあったのだろうか?
カタカタと相談している2体を横目に、携帯食を齧っていると、このせいで余計に喉が渇く。
やっぱり簡易でもお湯を沸かしてもらおうか…。
「3号。悪いけど、お湯を沸かしてくれる?」
『『カタタッ?』』
暫しこちらをじっと見詰める2体のスケルトン。その後互いにカタカタ言い合うと、揃って倉庫へと向かって行った。
……。
1人取り残された状態になったが、まぁいい。喉の渇きを我慢しつつ、運び出した物を眺めながら携帯食を食べていると、足元の木箱の一つが気になった。
─ 中身は何だろうな?
行儀が悪いが、足で蓋の片側を持ち上げてみる。
『ギャアアァァァー!!?!』
─ うわっ!びっくりした!
中身はゴースト!日差しにあたってダメージを受けたのか、大絶叫だっ!!
オレは驚いた拍子に、携帯食を咥えたまま椅子ごと後ろへ転倒!
『カタカタッ!?』
すぐに館から2号が飛び出し、鉈を構えて臨戦態勢。敵はどこかと辺りを見回す。
その2号の足元……
そのまま蓋が閉まった木箱の中には、ゴーストが出るに出られない状態で閉じ込められていたのだった。
またも主人公、アイテムの事忘れてる…。




