どこかの廃墟にて 8
「捨ててこいっ!そんなもんっ!!」
命を狙われた経験がまったく無いオレにとって、1号のこの行動はまったく理解出来ない。
……と言うか、ぶっ飛び過ぎだ!
『カタッ?』
犬猫を拾った感覚で見せびらかす行為もそうだが、それ以前に魔法を撃ってくるような危険なアンデッドに無頓着に近付けれるその神経も信じられない。
『カタカタカタッ』
「ん? 魔力が尽きていると?」
3号曰く、さっきの魔法で完全に魔力が枯渇しているのではないか?……との事。その証拠に、この状況でも魔法らしい魔法を撃ってこない。敵意を放ちながらも、このアンデッドはされるがままだ。
抵抗する術が無くなったのだろう。……だそうだ。
─ 3号、何故そんなに冷静なの?例えそうだとしても……
チラリとアンデッドの様子を伺う。
下半身を失い、片手が無事なだけのボロボロな白骨死体だ。
姿形はスケルトンと同じだが、恐らくスカル・メイジと言われるアンデッドだと思われる。
前に観たモンスター図鑑では、スケルトンよりも強い存在だったと記憶している。
おおよその身体能力はスケルトンとほぼ同じ。だが魔力はスケルトンよりもかなり多く、その魔力を持って魔術を操る。云わばスケルトンの親戚の様なものか?
ともかく危険に過ぎる。魔力を失っている今のうちに始末するべきだ。
『カタカタッ?』
え?従魔にしないの? って、言ってもお前なぁ…
「そもそも、オレより強い存在は使役出来ないって決まってんの!」
『カタタッ?』
試すくらいはしたら? だと……?
どうせ魔石は必要なんだから、魔核に触れるのも変わらないがなぁ……
魔力を失い、体もボロボロで弱ってるなら……大丈夫……か?
「一回試すだけだぞ。それでダメだったら、そのまま魔核を引っこ抜くからな。」
~・~・~・~
オレが近付くとまた暴れるので、片腕の1号とで押さえながら魔核に手を伸ばす。
『カタッ! カタタッ!!』
激しく藻掻いて噛みつこうとしたりと、オレへの敵意を全身で表すアンデッド。日光の下、弱体化してる割には力が強くて、やはりスキルが効きそうに無いんだが…
『カタッ! ……。カタッ?』
「一度で成功する……だと?」
さっき迄の態度が嘘の様に、放つ威圧感も消え失せ大人しくなるアンデッド。"繋がってる"感覚もハッキリしてるし、疑う余地は無いみたいだ。
失敗前提で考えていただけに、何か釈然としないものがある。
─ 弱ってるから、成功率が上がったのか?
こういう疑問はすぐに試すに限る。
従魔になったスカル・メイジは放っといて、周囲を見回し死にかけ(?)のアンデッドを探す。
「居ないな……」
……見渡す限りの骸の中に、まだ生きて(?)いそうなアンデッドは居そうもない。倒し切れていないヤツから、優先してもぎ取っていたのだ。当然と云えば当然だった。
「……まだ動いてるアンデッドを見つけたら、教えてくれ。それまで魔石集めを続けよう。」
真面に動けない従魔達を転がしたまま、オレと1号は死体漁りに精を出すのだった。
~・~・~・~
オレがぐっすり寝ている間に、いったいどれ程のアンデッドを倒したのだろうか?3号から聞いた話の流れを考えても、コレ全部一度に相手にした訳では無いのだろうが…。
それにしても…多いな。拾っても拾っても、全然進まないぞ。持ちきれなくなって、何度2号達の所へ往復したか判らない程だ。
─ よくオレの所へ来なかったな?
ある意味、1号達の奮戦が囮の役目を果たしたとも言える。
知らぬ間に大ピンチに陥って、そして通り過ぎてしまった様だ。
そうする合間も、せっせと集めた魔石を消費し、動けぬ従魔達は順調に体を取り戻しつつある。先に動ける様になった2号は、まだ片腕のまま魔石集めに加わった。
『カタタッ』
「2号~。せめて両腕揃ってからでも、良かったんじゃないか?」
『カタカタッ?』
お腹の空洞部分に他の骨を器用に組み合わせ、そこに魔石をどんどん溜め込む姿は、何とも言えず不気味だ。だが、その収集速度は誰よりも早い。
2号は時々、妙な才能を発揮する時があるな。
そうした魔石集めの傍ら、まだ生きて(?)いたスケルトンを2体発見した。やはりダメージの多い個体には、従魔になるまでの発動回数が少なく済む傾向にある様だ。まだサンプルが少ないので、ハッキリと断言出来はしないが、そのうちに判明するだろう。
~・~・~・~
魔石が集まるペースも上がり、やがて従魔全員が元通りの姿を取り戻した。
最後の名も無きスケルトンが無事に立ち上がった時には、なぜか1号と2号がバンザイを始めだしたが。
新入りであるスカル・メイジと名無しのスケルトン2名は戸惑った様にオロオロし、3号は無視を決めこみ残りの魔石をさっさと木箱に片付け始める。
消費した分と3号が黙々と詰め込んでいる魔石の数を合わせると、もう百や二百では利かないだろう。
アンデッドの巣窟とは、伊達ではなかったのだろうな。
未だバンザイを繰り返し、釣られて新入り達が迷いを見せはじめるのを見るに、そろそろ止めさせた方が懸命だろう。バカが感染る
そうやって再び元気(?)に活動を始めた我がアンデッド軍団を見て、ある感想が思い浮かぶ。
─ コイツら…レベルアップとかしてそうじゃね?
まぁレベルなんて概念はゲームだけの話としても、非常識が大手を振って歩いている"世界"だ。これだけ多くのアンデッドを倒した1号達に何ら変化が見られないのは、少しおかしい。
こんな考えに至るオレも、順調にファンタジーに毒されてきたな…。
確か、魔物は多くの魔力を持つ者を倒すなり食べるなりすると、姿形がどこか変わってしまう筈だ。全ての魔物がそうじゃ無いとしても、昨日から夜にかけて相当数のアンデッドを倒し続けたのなら、何かしらの変化があって然るべきだ。
─ いや、逆か?
多数のアンデッドと、長時間渡り合える程になったと言うべきなのか?
もしや、スケルトンと言う種族は外見に変化を見せないのかも知れない。骨が丈夫になるとか力が強くなるとか、そう言った見ただけでは解らない変化をするのだとすれば、これだけ戦えていた事も納得出来る。昨夜の戦ってる姿を実際に目の当たりした訳では無いので、あくまでも仮説に過ぎないがな。
モンスター図鑑にはそれ系の情報は載って無かったし、外見や生態が大きく変化する個体だけを一例として挙げていただけなのかも知れない。どう見ても邪魔な角が生えたり、毒々しい色合いなったりするばかりでは、不要なリスクを負ってしまうしな。
少なくとも1号達の戦闘能力は、これだけのアンデッド軍団を相手にして引けを取らない事は確かなので、夜を徹しての警戒を強いられずに安心して眠れると云うのは何よりも有難い。
─ これでぐっすり寝れるよ♪
1号『カタカタッ?』(訳:寝てなかった?)
─ペシッ─
ご近所トラブルはまだまだ続く…?




