どこかの廃墟にて 7
僅かな明かりと、重く沈んだ暗闇の中で、静かに余韻が途切れる。3号は語り終えると、再び周囲を警戒しはじめた。
─ 何だろう…戦争体験談を聞いてるみたいだ。。。。
喩えでは無く、実際に戦って命を落とした者の言葉だ。なまじ骸骨なだけに、その迫力は相当なものだった。
それと同時に、3号からは傍観者目線の印象も感じられた。やはり生きていた頃の記憶は、別の存在のモノなのだろう。そして─
─ マズい事になったな。。。。
改めて頭を抱える。
只でさえアンデッドの巣窟の中に居ると言うのに、その周辺では魔物の暴走が多発していると言うのだ。
言葉だけ見れば、まるで田舎の暴走族だ。やんちゃな盛りは卒業してて欲しかった…。
あえて良い事探しをするならば、ここがアンデッドの故郷であるが為に、周辺の魔物が寄り付かない事くらいであろうか?骨や霊体なんか、魔物だって食べれないしな…
余り働かなくなった思考の中で、次々と問題や疑問が浮かぶ。
……この周辺に見られる誰かが立ち寄った気配は、どこからやって来たのだろうか?
……このままココを拠点とするのが、最善なのか?
……魔境であるこの森の中で、果たして人が再び足を踏み入れる事があるのだろうか?
……であるならば、それはいつ頃だろう?
……それまで待つ?
……。
……zzzZ
~・~・~・~
「…んん?」
真っ暗だった筈の倉庫の中で、目を覚ます。
口を開けて寝ていたのか、口内がカラカラだ…
入り口から日の光が差し込み、眩しくてもう二度寝は出来ないな~なんて考えたりして。
─ って、寝てたっ!?
慌てて辺りを見回す。
オレ以外は誰も居ないが、倉庫の中に様子が変わった所は見られない。日が出ている事以外には、特に異常無しだ。
─ 何で、起こさなかったんだよ。。。。
アンデッドの襲撃を警戒して寝ずの覚悟を決めていただけに、この爽快な目覚めが恥ずかしい。決して寝顔を見られ放題の状況が、恥ずかしかった訳では無い。むしろ野郎の寝顔を見て嬉しがる存在なんて、逆に恐ろしいわっ!貞操の危機すら感じるぞっ。
……それにしても、倉庫内の警戒をしていた筈の3号まで居なくなってるのは、どうした事だろう?
1号ならともかく、優秀な彼が黙って職務放棄をするとは思えないが…。
そうして光溢れる外へと顔を出す。
「ん~……。眩しい。」
外の光に目が慣れると、そこは雪景色…では無く、以前何処かで見た風景に酷似していた。
そう、怪しい館前の広場と同じだ!
燦々と照らす太陽の元、またもや夥しい数の白骨やその欠片が周囲に散乱していて、目に優しくない。
見上げればその太陽の位置から、オレは相当寝過ごしてしまった様だ。もうお昼頃だろうか?
─ 今日のお昼は、何にしようかな?
いやいや、そうじゃ無い。現実逃避をしている場合じゃ無い。散乱している骨の中に、1号達が居るのだ。
「なななっ!! 大丈夫か、お前達っ!?」
従魔と何かが"繋がってる"この感覚で、どこに居るのかがだいたい解るのは便利だった。不謹慎ではあるが、これが無かったら今のオレに見分けるのは困難だったろう。
『カタッ』
『カタカタカタッ?』
『カタタッ』
オマケに、三人とも固まって落ちているので、あっさり見つけられた。
しかし……五体満足なのは一人も居らず、一番酷かったのは1号だ。ボロボロの胴体に左足しか残ってない。他の二人も似たり寄ったりで、全員が魔核が無事に胴体にくっついているのが奇跡みたいだ。
あ、頭も何故か残ってるよ。
「いったい何があった?前より酷いじゃないか。」
『『カタ『カタタッ!』』ッ』
ええ~い、一遍にイメージを送って来るな!
頭がパンクするだろうがっ!!
「3号!代表して説明してくれ。」
『カタカタッ』
3号の話に依れば、オレがぐっすりと眠って暫くするうちに、凄い歯軋りをしはじめて大変だったそうだ。
「ソコ、関係無いから。」
……続きを促す。
それからどれくらい時間が経ったか解らないが、ポツリポツリと周辺からアンデッドの姿が見えだして、1号と2号が応戦を始めたそうだ。
「何故、そこで起こさなかった?」
『カタッ?』
3号曰く、揺すっても叩いても起きなかったそうだ。。。。
疲れてたんだよ……仕方無かったんだよ。一度寝たら、滅多に起きない子なんだよ……
「……続きを、どうぞ。」
だんだんと1・2号でも捌ききれなくなった為、3号も応援に入り戦闘続行。それでも数が減らずに、気が付くと囲まれてしまったそうだ。
「それで囲まれてフルボッコになった、と。」
『カタカタッ』
2号が弁明をする。 囲まれてはいても、ここまでは充分な戦いになっていた。……と。
この状態では、まったく信憑性を感じないな。
『カタッカタタッ』
続けて1号が、このまま推移すれば順調にアンデッド達を撃退出来ていた。……と、希望的観測を述べる。
『カタッカタッ』
最後に3号が、殆どは倒したがやっかいなヤツが居て相討ちになった…と。
ずいぶんと簡潔な説明を述べる。端折り過ぎてる気がするが……
「やっかいなヤツ?」
『カタッ!』
半ば折れた右腕を、ある方向へ向ける3号。
向ける先には、大破した骨格標本が見える…そこらじゅうに。
「…どれか判らん。まぁともかく、手当てが先だな。」
倉庫から宝珠と魔石の入った木箱を持ち出して、スケルトン達の治療に入る。
最初はオレの魔力で宝珠を使おうとしたんだが、3号が止めた。最後の最後なんだと。
そして何故か1号を優先して治す様にと、これまた3号が主張する。
理由を訪ねると、一番戦力になるからだそうだ。…いまいち納得出来ないが、取り敢えず従おう。
暫くすると1号の体がある程度治り、3号の回復を図ろうと言う頃には、木箱の魔石が尽きた。
「周りの残骸から、魔石を集めるぞ。」
動ける様になった1号と手分けして、せっせと魔石を拾い集める。
途中、モガモガ言ってるアンデッドが数体居たが、殆どが大破した様な状態なので、黙って魔核を引っこ抜き魔石収集を続けた。
そうやってアチコチ歩き回って集めていると、とある仰向けに転がっていたスケルトンに手を伸ばそうとした1号が、突き飛ばされる様に倒れたっ!
─ ドサッ ─ 「えっ?え?」
何が起きたか分からずオロオロしていると、這い寄る3号がオレの足首を掴んで、引っ張った。反対側で2号がムリヤリ上体を起こし、オレを頭で押して一緒に倒れこむ。
「うわっ!何ナニなに??」
訳も分からず、アワアワするオレ。
両膝から先を失い、左手だけの2号は、鉈を口に咥えた状態でまた起き上がろうとしている。
一方3号は、オレを引っ張った勢いで腕が取れたのか、仰向けでバタバタしている。
「何が起こった?誰か説明してくれー!」
『カタカタカタッ!』
2号が云うには、やっかいなヤツが攻撃してきたらしい。
「倒したんじゃなかったのかよっ!!」
『カタカタカタッカタッ!』
3号曰く、相討ちになったとは言ったが倒したとは言って無いとの事。魔力が尽きたのか、魔法を撃ってこなくなったので、暫く大丈夫だと思ってたそうだ。
─ 魔法撃ってくるの? そんなのがココに居るの!?
3号と二人して、うつ伏せで周囲を伺う。
隣では、座りこんだ体勢で鉈を口に咥えた2号も、片手で体を支えながらある一点を睨んでいる──
ボロボロになった杖を掴んだ腕だけが、天を突く様に掲げられている。他は失っているのか仰向けになって倒れこんでいるので、その顔は伺い知れない。
だが恐らくアイツが"やっかいなヤツ"なんだろう。
それに気になるのは、1号だ…。
いきなりだったから、何か起きた様子すらハッキリ見てないよ。動かない所を見ると…やられたんだろうか?
「1号。大丈夫か~…?」
震える声で、呼び掛けてみる。
『カタタッ』
ヒョコっと上体を起こす1号。その右肩は根元から先が無くなっている。肋も何本か失った様だ。
そのまま立ち上がると、同じく飛んで行った鉈をウロウロ探しはじめる。
─ ずいぶん余裕そうだな。ヲイ!
さっき攻撃受けたばっかりなのに、まったく警戒する素振りすら見せない。肝が太いとかのレベルじゃないだろ…スケルトンだから、肝は無いけど。
そうして鉈を見つけた1号は、やはり警戒する気はさらさら無いようで、杖持つアンデッドの下へトコトコ歩いて行く。
1号の行く末を半ば絶望視するオレだったが、その予想を遥かに越える光景を目撃する。
手にした杖を蹴り飛ばすと、鉈を地面に突き刺しボロボロに大破したアンデッドを片手で持ち上げた。
クルリと振り向き、1号はとても満足そうにそのアンデッドを俺達に見せびらかすのだった。。。。
ご近所トラブルのやっかいさは、向こうから勝手に来る事ですよねー




