どこかの廃墟にて 5
─ やっと命の水を手に入れた。
タライに移された水は、特に臭いも濁りもなく問題は無さそうに見える。
だが、このまま飲めるのか少し不安だ。
こんな時こそ1号とかに飲ませて反応を伺いたい所だが、スケルトンは水が飲めないので無理だ。
最低限、煮沸させるべきだが火を興してないので、これも直ぐには無理だ。
もうじき日も暮れるし、取り敢えず戻ろう……
~・~・~・~
手ぶらで倉庫に戻ると、2号に薪集めを、3号には改めて井戸水の汲み取りをお願いする。
夕日が照らす倉庫の前に陣取ったオレは、手頃な大きさの石に腰掛けまったりしていた。
いい加減もう疲れた。
火起こしや焚き火の準備等、まだまだやる事は沢山あるのだが、オレにその知識は無い。
キャンプの経験はあるにはあったが、そもそもその道具が無いのだ。。。。
ライターくらいあれば種火を起こせるんだけどな~
……なので、倉庫に有った藁束を一つ脇に置いて、2・3号の帰りを待ちつつ、携帯食を齧っている。
隣では、1号がとても暇そうだ。
「なぁ1号。火起こしとか出来る?」
『カタッ!』
任せろと言わんばかりに頷くと、鉈を片手にテクテク歩き出した。
……うん。期待しないで、見守ろう。
アチコチ切り倒されたままの木が転がってる中で、1号はなぜか少し離れた倒木に目を付けた様だ。
そのまま枯れ枝を鉈でガシガシ叩いて切り離すと、葉を溢しながら持ってきた。
以下、1号の行動
─枝を更に鉈でガンガン削る。
─その際に落ちた、葉や屑を集める。
─倉庫から板切れを持ってきて、削った枝を乗せて擦り始める。
ここ迄来れば、1号が何をしているのかオレでも分かる。凄く原始的な火起こしだ。
だが、紐を括ってやるヤツじゃないのだろうか?
1号は壊れた人形の様に、無心に削った枝を擦り続ける。
───
ガシガシ擦る音が静かに響く中、3号が井戸から戻ってきた。
井戸端で洗ったのか全体が濡れた壷を慎重に地面に着けると、やはりまだ乾いていない陶器のカップを渡してくれた。
1号は、まだ擦り続けている…。
───
3号は周囲の石を円形に並べると、何かを組み始めた。
ゆっくりと夕日が陰る。1号は、まだ擦り続ける…。
───
2号が薪となる枝等を、胸一杯に抱えて走って帰ってきた。3号の石組は、どうやら即席の竃を作っている様だ。
1号は、まだまだ擦り続けている…。
───
暇に思ったのか、2号はまた何処かへ走って行く。3号の即席竃はどうやら組み終わった様で、その出来映えを確認していた。
もう日の光も薄れ、夜の戸張が降りてくる…。1号はまだ擦っている。
───
倉庫から何やら持って来た3号は、1号の隣に腰掛けて何か作業を始めた。周りはもう真っ暗だ。
オレは携帯食の一つを食べ終えて、そろそろ倉庫に戻ろうかと考え始める。
1号は(以下略)
───
なにやら焦げた臭いが漂ってきた。遂に種火が燻り始めたのだろうか?
だが1号は、変わらず擦り続けている。
その隣では両手で何かを揉むような仕草をする3号のシルエットが…。
─ もう、3号が居ればいいんじゃね?
煙が燻り藁を徐々に増やしていくと、小さな灯りがチラチラ瞬いているのが見える。集めた小枝や枯れ葉を少しづつ被せる頃には、もう立派な火になっていた。
竈へ移された灯火に照らされて佇む3号と、ガックリと項垂れる1号との対比が、如実に勝敗を語っていた。
即席竃の上に壷を乗せると、3号はまた倉庫に戻って行く。
焚き火は石組に囲われている為、周辺をあまり照らしてはおらず、星と月明かりが僅かに視界を許しているだけだ。
ただスケルトン達は、光で周囲を視ている訳では無いので、その行動は暗闇でも変わらない。
影響を受けるのはオレだけだ。
星空を眺めながら手探りで携帯食のパックを探り、また一つ取り出して齧る。
この携帯食は棒状に固められた、カロリー○イトもどきだ。
やや粉っぽく青臭さがあるものの、味はそこそこ。…ただ、水分を持ってかれるので、口の中が乾いてしょうがない。
仕方なく、携帯食を黙って口に咥えたまま、夜空を見上げた。
星座とかまったく興味無かったので、この星空がかつて見ていた空とどう違うのか解らないよ。。。。
でも、月が大きく見えるのは、気のせいじゃないだろう。
スーパームーンって言ったっけ?
こっちじゃ、あの大きさが普通なんだろうか?
この"どこかの世界"に来て、最初の1日が終わろうとしている…。
まだ、続きがありそうだけど。
取り敢えず従魔を従える事は出来たし、拠点も確保した。
飲み水はこれから確認するとして…。食料は当然としても、他にも生活に必要な物がまたまだ必要だ。
だが人が暮らしている場所を探そうにも、地理がよく分からないし……
このまま此処で誰か来るのを待つ方が、賢明なのだろうか?
……暗闇の中、2号がやって来る気配がする。
見えていないのに、そこに居ると解る不思議な感覚が、自分の変化を自覚させる。
戻ってきた2号は、足元に纏まった枝を下ろすと、数個の魔石を見せびらかしながら、倉庫へと走り去ってしまう。
─ アンデッドを引き連れて来なかっただろうな??
焚き火が時折爆ぜる音くらいしか聞こえないが、警戒するに越した事は無い。
携帯食を無理矢理飲み込んで、腰を上げようとしていると、1号が待ったをかけた。
いつの間にか元気を取り戻した1号が、竃の上で炙られている壷からお湯をカップで掬って渡してくれた。
「熱っ!」
『カタカタカタッ』
コイツ絶対、わざとだろう!
まだまだ反省が足りなかった様だな!
倉庫から2号が顔を出すと、揺らめく人影が二つ。
一つは腰掛けた姿で、もう一つは傍らで正座をしていた……
ちなみに倉庫に転がっていた物の中に、麻紐があったので、3号はそれを使って種火にしました。
不器用なのに、優秀な3号…




