どこかの廃墟にて 4
~ バカに付ける薬を探して ~
明らかにサブタイトルに誤りがあるが、半分以上本気だ。
これまでに白い球体という強敵に最後まで苦しめられた事は記憶に新しいが、それをも越えうる逸材が現れようとは…
だが、それと同時にオレ自身に取って最悪の疑惑も浮上する。
─ もしや、バカとしか会っていない…?
いやいや、今も真面目に戦ってる3号の事を忘れちゃダメだ。彼は大丈夫だ。多分きっと。
1号のお陰で、少なくない消耗を強いられた事は痛恨事だが、速やかな現状復帰の手立てはある。
これが知能回復にまったく影響を及ぼさない事は残念でならないが、今は仕方がない。
ともかく、せっかく持って来たアイテムだ。有効活用せねば。
・冥府の宝珠 …亡者に力を与えると言われる呪物。魔力を捧げる事によりアンデッドの失われた力を呼び戻す。(回復させる)
アイテムカタログに掲載されていたアンデッドを回復させる物はコレだけだった。
魔核の欠片と同じく、使い方がよく解らない。それにオレの魔力はもう無いし。
取り敢えず、以前と同じ様にそのまま渡してみるか。
「お~い、2号。コレの使い方が判るか?」
『カタッ?』
「1号はどうだ?判るか?」
『カタタッ』
片手が鉈で塞がっている2号は、顔を近付けてしげしげと見詰めている。1号も同様に上から暫く覗き込んでいたが、飽きたのか首を捻りつつ倉庫の中へ。
だが、すぐに何かを持って帰って来た。
「使い方が解ったのか?…ってか、魔石?」
差し出された手にオレが宝珠を乗せると、1号も迷った様子でその宝珠と魔石を見比べ始めたのだが……
─ ガギッ ─
アポーペンと云わんばかりに押し付けあって、グリグリしている。
宝珠が壊れるんじゃ無いかとハラハラして見ていると、やがて魔石が宝珠にゆっくり飲み込まれ靄を纏い始めた。
宝珠から漂う靄は、そのまま1号の腕を伝わり…どんどん薄くなって消えてしまった。
見れば、欠けた1号の顔が少し戻っている。
─ 魔力を使うんじゃ無いのかよ。。。。
さすが天然物は違う。鮮度はバツグンだ!
その思考と発想は常人に及ぶ所がないのだろう。
盲点と言うか詐欺と云うか、ある意味納得出来る結果だ。
魔物だって魔力を使うだろうから、その魔核だって魔力が宿っている筈だ。その魔核が元になった魔石だ、魔力が残っていても不思議じゃない。
……と言うか、もしかしたら魔力の塊って可能性も?でも、人間には魔核は無い……よね?どうなんだろ?
思わず自分の胸を眺めて……
「まさか、自分を解剖なんて出来ないしな。」
─ ハッ? ─うっかりでも冗談でもこんな事は、言ってはいけない。
真に受けるヤツが身近に居るのだ。もっと慎重にならねば。これ以上やらかされたら、ホントに身が持たないよ!
兎も角、スケルトンの傷を癒す事が出来るのは解った。奇しくも魔石はある程度集めていたしな。
3号が戻り次第、治療に取り掛かろう。
~・~・~・~
…あれから暫くして、3号が埃と共に降りてきた。
静かになったなぁと思っていたら梯子の上から5個くらい魔石を投げて寄越して、壁に跳ね返った一つが1号のネズミを閉じ込めた壷に当たって、脱走する場面もあったが…
「5匹も居たんだ。。。。」
3号:『カタッ』
誰かさんと違って誇る風でも無く、淡々としたものだ。
朴訥な頼れるこのスケルトンに、一人で任せっきりにした罪悪感と申し訳なさで胸がいっぱいだ。
1号を応援に向かわせれば良かったよ。。。。
念には念をと言う訳で、スケルトン達と共に倉庫の中を隅から隅まで見て回り、安全を確保した。
先の経験から、生きているオレの気配に釣られて隠れていたアンデッドが出てくる筈だが、1匹も姿を見せない所を見ると、3号がホントにいい仕事をした様だ。
─ 3号…1号と2号を盾にしていいからな。
3号の有能さを再確認した所で、スケルトン達の回復を図る。
……と言っても、宝珠と魔石をくっつけてるだけの簡単なお仕事なので、各々順番にやらせるだけなのだが。
その間に、オレはオレで寝床の準備だ。
まだ日が射している間に、出来る事をしないと。
物を動かし、立て掛けてあった箒で掃いて藁束を並べる。
漂う埃で息苦しい。。。。
途中、先に修復を終えた3号が二階から巻かれた蓙を持ってきてくれたが、ボロボロ過ぎて使えなかった。
結局、藁敷の寝床で落ち着くことになりそうだ。
寝床の準備が終わる頃には、全員元通りの体に戻った訳だが、半分くらい魔石を消費してしまった様だ。
欠けた骨や骨折が治るのは未しも、2号の失った腕まで生えていたのには、流石に呆れた…。
この"世界"では、欠損ですら軽症の部類なのだろうか?落ちている骨を拾って、くっつけましたと言われた方が、まだ納得出来るぞ。
ここまで続くと、まだ何かあるのでは?と疑いが止まらない。
木箱に残された魔石を手に取り、黒光りする表面を眺める。
─ 魔核の欠片みたいに、食べたり出来るんじゃあ?
疑問は疑問だが、オレはゴメンだ。
「1号。コレって、お前食べたりするの?」
『カタタッ!』
全身を使って拒絶を表現する1号。首と両手をブンブン振って、お断りのイメージまで送ってくる。
言ってみただけじゃん。そんなに拒否らんでも。。。。
それにしても、魔石って言っても色んな形しているんだな…。大きさは大体同じくらいだけど。
ん?これだけ、少しちっちゃいな?
「3号?…何それ?」
両手で魔石を見比べている隣に、3号が何やら持って来た。
小振りな銅製のタライだ…。一昔前のコントでは定番アイテムだ。
薄汚れてはいるが、充分に使用に耐えられるだろう。
「…これで、1号を叩くんだな?」
『カタカタカタッ!?』
驚く1号と戸惑う3号のリアクションが、ちょっとツボに入り掛けた。
どうやら3号は井戸を知っていた様で、そこから持って来たみたいだ。
─ いつの間に……?
よくよく見ればこのタライ、井戸に置いてあったそうだが、風雨に晒され続けたにしては綺麗過ぎる。
廃墟になった後に、持ち込まれたのだろうか…?
「井戸はどこにあるんだ?」
~・~・~・~
そろそろ薄紅に色を変える日射しに照らされて、壁が無く太い柱が剥き出しの建物が視界に入る。
タライ片手に3号に連れられて徒歩数分。館の裏側に隣接して建てられた、これが井戸だった。
それにしても、オレがイメージしてた物とだいぶ違う。
吹き晒しの石組で作られた、いかにも中から長い髪の女が這いずり出てきますよ的なイメージだったのに。。。。
館から伸びた蔦が一体感を強調して、薄暗い不気味さを出しているのはいいのだが、全然ひっそりしていない。
大きいのだ。まるで地方の無人駅舎かと云わんばかりだ。
広めの急なスロープを下って、漸く井戸らしい大きめの縦穴が顔を見せる。
……と思ったら、まだ下がある。
石組の細い螺旋階段を降りて、やっと井戸端だ。地上から、3~4メートルくらいだろうか?
井戸端には古ぼけた甕に幾重にも絡んだ荒縄と斜めに立て掛けられた柱があり、時代劇でよく見た滑車の様なモノが垂れている。
3号が縄を手に取り、不器用にも絡みを取り始めた。
それが終わると傍にあった金具を使って甕を縄に装着、井戸へポイッ
─ バチャッ ─
あまり水面は深く無い様だな。
甕が水に沈んだ事を確認した3号は、何故だか急に焦り出した。
─ あ、滑車に縄を通してないのね。
縄の反対側を必死に手繰り出す3号を見て、ちょっとほっこりするのだった。
一昔前では、引っ越しが済むとご近所への挨拶回りをしたそうですが…
ご近所トラブルは、必然か?




