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どこかの廃墟にて 3

─ 現実感がまったく無いな。


不気味な迄に蔦に覆われた館の前に広がるこの空間には、夥しい数の骨の残骸が雑草と共に散らばっていた。

背の高い木々が周りを囲い、やや傾いた日射しをさらに遮って尚、薄暗くしている……


ホラー系アトラクションとしては、まずまずの雰囲気を醸し出し、後はキャストさん達の演出と力量次第でその評価が決まるだろう。



だが視界を転じてみれば、とてもほのぼのとした光景が繰り広げられている。

2号と3号は、まるで栗拾いをしてるかの様に和気藹々(わきあいあい)と魔石を拾い集めて楽しそうだ。

一方、オレの傍らには正座した膝の上に瓦礫を乗せて反省を促している1号の姿が。


……これでは、客を呼べないだろう。




─ それもこれも全て1号が悪い。

貧弱を自認して(はばか)らないこのオレを、事も有ろうにスケルトン軍団の箱庭まで、何の説明も無く連れて来たのだ。

結果的には対応可能範囲だったので事無きを得たが、一歩間違えたらそのまま特殊メイク要らずのキャストさんに仲間入りしていた所だった。


現に、1号達はボロボロだ。

2号は右腕の肘から先を失っているし、3号も肋骨の幾つかが欠けている。

1号に至っては、頭蓋骨の右側が大きく割れて脳無しなのがまる分かりだ。

骨折した部分は数える気にもならないし、失った骨を考えるとよく平気で動き回れるなと、逆に感心してしまうレベルだ。

予想を越えた戦果に驚愕してはいたが、やはり数の暴力の前では消耗が大きかった。所詮はスケルトンの耐久力と言う事だろう。

"獄卒の鉈"だけが丈夫でもダメなのだ。

これがもしも夜だったならと考えると、想像するだけでも恐ろしい。



ともかく安全な場所の確保が急務だ。切実にそう思う。

今襲われれば、成す術無くやられてしまうだろう。…動けない1号が。

オレ? 勿論、走って逃げるさ。



1号への折檻を続けていると、魔石を集め終わったのか2・3号が戻って来た。

かなり大きい頭蓋骨を逆さに山盛りの魔石を乗せて、どちらがより多く集めたか比べっこし始める。


─ 2号…片腕のハンデは関係無しか、それとも3号が不器用なだけか。



何となく魔石を集めさせたが、特に意味は無い。

[錬金術(アルケミー)]持ちじゃあるまいし、使い道なんか無い。

主に1号に反省させる為の時間稼ぎだよ。



「ホントに大丈夫なのか?」


1号:『カタカタッ』(訳:大丈夫、動けます)


「お前の事じゃない。頑丈な建物が本当にあるのか聞いたんだよ!」

さらに反省を促す為、石を追加だ!


『カタカタカタッ!?』




~・~・~・~


かなり時間を浪費しまった。全て1号が悪い。

拾い集めた魔石を入れる袋が無かったので、諦めて置いて行こうとしたら、2号がゴネ始めてしまってさらに時間を無駄にした。

結局、どこにあったのかボロボロの木箱を3号が見つけてきて、今はそのまま3号が両手で持ち運んでいる。



目的の"頑丈な建物"とやらは、蔦や草に絡まれまくった不気味な館のやや離れた裏手に、ちゃんとあった。

こちらも所々草に覆われてはいたものの、石作りの立派なものだった。



……不思議なのは、この付近だけ妙に整った印象を与える事だ。

古くはあるが、切り倒されて放置された切り株が其処彼処(そこかしこ)に見受けられる。雑草が生い茂っているのはどこも同じだが、視線を遮る程では無く、ある程度見晴らしが利く。

最近とは言えないが、数年内に人の手によって成された様にしか見えない…。


─ 時々、人が来るのか?こんな場所に?



きっとこの付近の開拓を諦め切れずに、経過観察とかをしているに違い無い。

未だに自分がどこに居るのか解っていないが、周りの風景は樹海と言っていい程の緑の中だ。

アンデッドが巣食ってはいるが、こういった建物がある以上、仮の拠点としていても不思議じゃない。


─ 俄然、希望が湧いてきたよ♪



早速、建物の中に入ってみる。……1号だけで。

オレ達はすぐ逃げれる様に、少し離れた所でウォッチング。


暫くすると、建物の入り口から1号が文字通り顔を半分覗かせて手を振っている。

残念だが、特に異変は無かった様子だ。




~・~・~・~


……念の為、片腕の2号にも詳しく調べてもらったのだが、本当に異常は無い様だ。今度こそ中に足を踏み入れた。


石作りのこの建物は、恐らく倉庫だったのだろう。

右隅に塵に成りかけの藁束が積み重なり、壁際には砕けた水瓶等が一列に並んでいた跡がある。

歪んで乱暴な作りの梯子が幾つか壁に沿って引っ掛けられており、古ぼけた道具類も転がっていた。

実家の倉とよく似た匂いに、少し懐かしく思う…。


左手前には上への梯子が掛かっていて、見上げると天井兼床板の端からユラユラ揺らめくゴーストがひょっこりしているのが視界に入って……


─ くっ、2号もダメかっ!?



オレの視線に釣られたのか、隣に居た3号も同様に見上げてゴーストを発見。

持ってた木箱をそのまま落とすと中に入った鉈を取り出し、刃を口に(くわ)えて梯子に手を掛け、ギシギシ音を立てて登り始めた。


異変を察知したのか、1・2号も寄って来る。

…がしかし、2号は床に落とされ散らばった魔石を慌てた様子で拾い直し、1号に至ってはどこで捕まえたのかネズミを見せびらかし始めた!

驚きと呆れのコラボレーションを前に、オレは成す術が無いまま、黙って天を見上げたのだった。



一階で喜劇が繰り広げられる中、一方の二階では3号が真面目に戦ってる音が聞こえる。

まぁ、上でドタバタ暴れるものだから埃やら塵やらが降ってきて、目を開けてられないんですけどね。

相手のゴーストは確か[物理攻撃無効]の実体の無いヤツの筈だが、3号の持つ鉈は[闇属性]付きの立派な属性武器だ。多分、何とかなるだろう。



~・~・~・~


相変わらず、上から塵やら何やら降り続けている。追いかけ回しているのか、振動と足音が行ったり来たりを繰り返し、非常に騒々しい。

オレは日の当たる入り口前に避難して、その様子を伺っていた。

既に信頼を失った残念コンビは、それでも鉈を携え外と中とを警戒させている。



ここで夜を過ごしたとして、ゆっくり休めるかどうか激しく疑問だ。

枕が変わると眠れない体質な訳では無く、身の安全に不安がある為だ。

これ迄に多くのアンデッドを見せられてきたのだが、日中だからあの程度で済んでいたのだと思われる。


─ 恐らく夜が本番だろう。


しかし、我が戦力は頼りになるとは言い難い。

状態や実力もそうだが、あの残念なコンビを見るに疑いが確信に変わりそうだ。

あれは天然だ。もはや手の施し様がない。。。。

アンデッドを回復させるアイテムも在るには有るが…そっちに効果があるとは思えない。

バカに付ける薬など無いのだ。

そもそもこのアイテムは、魔力を捧げるとある。つまり……






魔力が無いと、使えないんだよっ!


『カタタッ?』(呼びました?)


─ ペシッ ─

いつになれば引っ越しが終わるのだろう?

それに……

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