どこかの廃墟にて 2
私の記憶が確かならば…
─"この周りで、人間が住めそうな所はあるか?出来れば安全重視で"─
……と、1号に問い掛けた筈だ。確かにそう言った。
いくら濃厚過ぎて喉に絡みそうな1日だったとしても、今日の出来事を忘れてしまう程、オレは若ボケしていない。
そして辿り着いた先が、目の前に広がるこの"亡者達の憩いの広場"だ。
どこが安全重視なのだろう?
この犇めく亡骸を、踏み越えて逝けと?
蟻に集られる芋虫の如く、あっと言う間に飲み込まれる未来しか見えないよ?
正座させた上で問い詰めたい。小一時間程問い詰めたい。
もしかして1号はバカなのか?バカなんだろうな…脳ミソなさそうだし。
眼前の光景に驚き戦き狼狽えていても、事態は一向に待ってはくれない。
手前に無数に転がっている、何の動物のか解らない頭蓋骨の一つがコロンとこちらの方を向くと、暫しユラユラ揺れた後にゆっくりとその骨身を地面から剥がし始めた。
ココに来るまでは瓦礫や草むらの陰からひょっこり現れるパターンだったので見る事が無かったが、普段の彼らの寝起きを目の当たりにした貴重な機会だったのかも知れない。
そうする間もさらに一つ二つとコロコロカタカタ音を出す骨が加わってきて、中々にホラーだ。いい雰囲気出すじゃないか。
我が僕達に足りない成分を如実に表していて、とても勉強になる。
─ って、感心してる場合じゃねぇぇぇぇぇっ!!!
冷静に落ち着いたフリをしてみたものの、膝の震えは待ってはくれず、気にしていた血圧も恐らく今だけは急降下している事だろう。
まさしく恐慌の一歩手前で、後は絶叫しながら逃げるだけだ。
次々と組上がる骨格標本の群れから回れ右、大急ぎで逃走だ!!
「ぃぃ嫌ぁぁああぁぁぁぁ!!!!」
全力で走る。両手に抱えている荷物を捨てて身軽になれる事も忘れて、ただ走る!
もう肉離れや明後日の筋肉痛なぞ忘却の彼方だ!
「タスケテーッ!!!」
カタコトになった自分に気付く余裕も無いまま走ってはいても、やはり背後は気になるもので…
─ って、何で戦ってるんですか?アナタ達!?
走りながらも背後を二度見。当然、足が縺れてそのまま転がる様に転倒。
肩を強打した上、袋の中身もぶちまける。
だがそんな事もお構い無しに振り返り、低くなった視点で蔦の館を背景にした舞台上に視線を向けた。
~・~・~・~
─無造作に振り降ろした鉈の前に、砕かれる様に割れる骨。
─器用に頭蓋の眼窩を掴んでは引き寄せ、反動で前に出る様に抱きつく。魔核を砕かれ背中から刃を生やした所で、他の骨格標本に向かって突き飛ばす。
─噛み付かれた脚もそのままに、見下ろすその背中の肋骨の隙間へと強引に手と鉈を突っ込んで魔核を引き千切る。
─起き上がり際の骨を、薪割りの要領で上から首に叩き付けて真っ二つ。転がる頭蓋骨を脚で蹴り捨てて、残った首無しに上から鉈を突き入れ魔核を串刺し。
ほぼ鎧袖一触と言った感じで、動き出す傍から倒していく。まるでモグラ叩きみたいだ。
でもいくら日中は動きが鈍くなるとは言え、差があり過ぎない?
[光属性脆弱(小)]を取り払い、[剣術]と[俊敏]で動きに補正が加わったとしても同じスケルトンの筈だ。…若干スケルトンっぽく無いのも居るけど。
強さ的に同じアンデッド同士が相対している筈なのに、こうまで結果が変わってくると現実感がまったく感じられない。
ここに来るまでは確かに苦戦した所を見なかったが、それは数が同じか少なかったからだと思っていた。
だが身体能力低下のハンディキャップの在る無しとスキルの持つ底上げ効果の差は、オレが考えていたよりも遥かに違いとして現れている様だ。
こうして観戦モードで見ている間にも、どんどんスケルトンの群れが減ってきている。
時折、素早い獣型のスケルトンに手を焼く姿を見せるものの、他の殆どのスケルトンは一挙一動で処理出来てしまっている。
今やスケルトン軍団はもうオレに構ってる余裕は無い様で、完全にシカトだ。別に寂さは感じてないよ?
黙々と変形モグラ叩きで高スコアを更新し続けている光景を、暫くただ眺めていたのだが…
「なんで骨ばっかりなんだ?」
~・~・~・~
脳天直撃インストールとモンスター図鑑(簡易版)の知識から、幾つかのアンデッドの種類とその存在は知っていた。
だが目の前で今砕かれているのは、みなスケルトンばかりだ。アンデッドの巣窟の筈では無かったか?
ここでなぜ疑問に思ってやまないのか、説明しよう。
それにはまず、この"世界"の非常識さを外して考える事は出来ない。骨が歩いているのだ。
アンデッドが生まれる条件は以下の事が考えられている。
・死の直前に、生への執着や激しい憎悪を抱いていた存在がいる事。
・死体やそれに準ずるモノがある事。(思い入れのある物でも可)
・多量の魔力が集中、またはある程度存在する事。
・いっぱい死んでいる事。──等々だ。
該当する所が多ければ多い程、アンデッドが生まれ易くなると言われている。
もはや、オカルトや怪談と同レベルの胡散臭さだ。
戦争や大量虐殺が起った場所には、アンデッドが溢れかえっている事だろう。
事実、この廃墟はそういう場所だ。
過去の魔物の暴走(?)によって多くの犠牲者が出たそうだが、その人々や魔物の遺体がアンデッドの元になったのは想像に堅くない。
だがそこから生まれるアンデッド達が、スケルトン限定になっているのは不自然だ。
日光に当たるだけで大ダメージのゴーストが、姿を見せないのはまだ解る。いくら自らを厭わぬとは言え、登場・即・退場では残念過ぎる。
では、生の死体がそのまま動くゾンビは?
周囲の建物がこれだけ木々に侵食されているのを見ると、少なくない年月が経過しているのが解る。
恐らく、長い時間を懸けて腐敗が進み、ゾンビからスケルトンへとモデルチェンジを果たしたのだろう。
しかし、少しくらい途中経過のゾンビが居てもいい筈だ。ミイラ化してるヤツだって居るだろう。それがまったく見当たらないのはどうした事だ?
答えは、数年どころか数十年単位の時間が経っているという事だ。
つまりこの場所この周辺は、人間の生活圏からは見捨てられた可能性が高いと言う事だ。
見知らぬ"世界"で一人ぼっち。
この段階で、設定された難易度の高さを思い知った。
次回予告とかで「君は、生き残る事が出来るか?」ってあるけど、それを自ら体感するなんて……
「それが終わったら、1号だけ正座な」
『カタカタッ!?』
まだ引っ越しが終わらない主人公。
入居までの道程は、まだ遠い…?




