ネコ風味の、すてきなコーヒーはいかが・・・?
この前書きに目がとまったあなた、コーヒーはお好きでしょうか、もしかしてかなりのコーヒー通なのでは・・・? そうでない方も一度はお聞きになったことがあるかと思います。私も、実際に飲んだことは
ないのですが、この種のネタは自然と頭の中に、否が応でもインプットされてしまっています。
まったくご存じないという方、タイトルと本文にて、この豆の正体・・・?をお考えください、まあ、それほど難しい問題でもないと思われますが・・・
ネコ風味の、すてきなコーヒーは、いかが・・・?
その店は表通りから、すこし住宅街に入ったところに建っていた。
通勤で、普段何気なく通っているところだが、急に降り出した雨のせいで
雨宿りを余儀なくさせられた私は、見知らぬ、一件のコーヒー店の軒先にいた。
仕事帰りの道の途中に、どこか異次元の入口がぽっかりあいていて、そこから
この不可思議な異空間に迷い込んでしまった。まるで、そんな気分だった
アジサイの青や赤色の立派な花が、雨に打たれながら、庭にきれいに咲いていた。
赤い煉瓦で装飾された壁に、欧風の外灯と赤銅の看板、古びた感じの木製のドア、
確かに、素敵な様相ではあるが、やや、ありきたりの感は否めない・・・
カランコロン コロン
ゆっくりとドアを開けると、内側に掛けられたカウベルが、店員のかわりに
挨拶をして出迎えてくれる
「いらっしゃいませ」
店主は手を止めて、静かに言った。
傘立てを探して、ドア近くに立っている私を、ちらりと一瞥すると、また
すぐにコーヒーカップを磨きだした。
CDの音とは違う、レコードの、懐かしく、やさしい、あの音色が静かに店内に
広がっている。
一人で来るときには必ずカウンター席に座ることにしているので、私は、傘立て
に傘を置くと、おもむろに、客のいない、カウンター席に座った。
カウンターの中にいる店主は、歳は若かったが、それでも、アルバイトの店員
などではないことが、その立ち振る舞いから、すぐに分かった。
「随分お若いんですね、立派なお店なので、もうすこし年配の方かと・・・」
「あ、いや、お気になさらないで下さい。別に深い意味は・・・」
「大丈夫です、お客さんにはいつも言われていることなんで」
「特に初めて来られる方には・・・」
「ははは、そうですか」
客のあしらい方にも、小慣れた感じだ。
「・・・・・・」
「何になさいますか・・?」
「そうですね、・・・」
「私は、メニューを見ながら言った。」
「ここは、コーヒーの専門店ですよね、なにかお勧めのコーヒーはありますか?」
「ええと、はい、それでしたら」
そういって、店主は、一握りの焙煎された豆をとり出した 。
かすかに香水の香りがする。
「ほお、バラのような、いい香りだ、でも、本来の豆の匂いではないですね」
「おっしゃる通りです、滅多に取れない貴重なコーヒーなんです、これは・・・」
「プレミアム付きということですね」
「ええ、上に超という字がつくほどの・・・」
(これは、面白そうだ。話の種にもなる・・・)
「一杯、頂けますか・・・?」
「はい、ですが・・・」
「なにか・・・? 私では、分不相応とでも・・・」
冗談とわかる明るい感じで、私は店主に問い返した。
「・・・・・」
「一杯 一万円ですが・・・よろしいですか?」
少し驚いたが、値段を聞いてやめるのも、なんだが野暮ったい気がする。
「ええ、お願いします。今日は都合よく、給料日なんで、・・・」
若い店主は静かにうなずくと、手慣れた様子で豆を惹き、サイフォンに火をかけた
ポップJAZZの軽快なリズムが聞こえてくる、
私は、気持が高揚するのを感じていた。
「・・・・・・」
「先ほど、貴重だといわれましたが、どんな豆なんですか?」
「ああ、・・・・」
「豆はふつうの、ブラジルのサントスなんですが・・・」
「はあ、もしかしてワインのように年代ものとか・・・?」
「いえ、古いものは駄目なんです、すぐに劣化が始まって・・」
「・・・言わば生鮮食品なんですよ、コーヒー豆というのは」
「ふうん、そういうものですか」
(一体何がプレミアムだというのだろう・・・?)
しっかりと、クエスチョンマークが残ってしまったが、私は、あえてそれ以上
店主に訊くことはなかった。
「・・・・・・・」
無意識に、不満げな顔をしていたのだろうか?店主は私に話しかけてくれた。
「この豆が貴重なのは、実は、人間の手の及ばないところにあるんです」
(そうか、もしかすると、収穫直前に、偶然 自然現象が起こった為、かえって
美味しくなったとか・・・)
(例えば、リンゴが雹に当たると、見た目は酷いが、甘味がしまって
おいしくなるという話を、どこかで聞いたことがある。)
(きっとそういうことなのだろう。そうに違いない・・・)
明確な答えを、店主に訊き出せなかった私は、自分で出した答えに、終着点
を見出さずにはいられなかった。
暫くして、店主は1杯のコーヒーをテーブルに置いた
「どうぞ、まずは香りからお楽しみください」
ふんわりと甘い感じの、やはり香水の匂いが立ち込めている
一口飲むと、なぜかチェリーフルーツの味が広がってくる。
(なんだろう・・)
(はたして、本当にコーヒーなのか、これは・・・)
「おいしいですね、さすが高価なだけあって、今まで飲んだコーヒーのなかで
一番の味です」
「・・・ありがとうございます」
「ご満足いただけて、こちらとしても、うれしい限りです」
JAZZの音楽がしっとりと店内を包み、電球のレトロな照明が、リバウンド
ライトの淡い照明が、一層、一杯のコーヒーの味を引き立て、幻想的な空間に
私を埋没させてくれる。
私は唯、ぼんやりと包まれたこの神秘的な雰囲気に暫くの間、酔いしれている
「・・・・・・・」
やはり、一つの疑問が、再び、頭を持ち上げてくる。
「あの、すみませんが・・・」
「はい、・・・?」
「この豆のこと、少し教えていただけませんか・」
「・・・はい、・・・でも、」
店主は少しためらっている様子があった。
「・・・・・・」
「いや、すいません、・・・ 企業秘密ということなら無理にとは」
「いえ、そういったことではないのですが」
「ただ・・・・」
「・・何でしょうか・・・?」
「お客様、物事には知らない方がいい、ということも、多々あります。この豆
の秘密は、まさに、その言葉どおりのモノではないかと・・・」
「・・・・・・」
静かな店内に、JAZZのサックスの奏でる低音が流れていく。
「・・・・・・」
「ごちそうさま、本当においしいコーヒーでした。」
「そういって、コーヒーの代金を置くと、椅子を戻し、私は出口へと向かった。」
「近いうちにまた来ます。」
「お待ちしております。ぜひお越し下さい。」
カラン コロロン・・・
カウベルが、丁寧に見送りのあいさつをしてくれる。
先ほどから降っていた雨も止んでいた。
私は持ってきた傘を置き忘れることなく、左手に持ち、上機嫌でコーヒー店を
後にした。
「・・・・・」
客が帰った後、カウンターに残された、コーヒーカップを片づけながら、
店主は、ひとリ呟いた。
「この手の話は、むやみに教えない方がいいですよね・・・」
「変に誤解されても困るし・・・」
そういって、カウンターの隅に置かれた、置物のジャコウネコの、おしりの
部分をすっと撫でた。
おわり
それでは正解です。あくまでニュースで得た知識ですが、ジャコウネコが食べたコーヒーの実(コーヒーの実は赤い色をしています)は種が消化されず、糞として排出され、その種を焙煎してコーヒーをいれると、おいしいのだそうです。理由はジャコウネコが食べる時により選りのコーヒーの実を食べるからだと考えられ、値段も非常に高価なのだそうです。いくらおいしくても、倉本保志は、遠慮したいですね
もし、タダで頂けるのだとしてもです・・・