アルビノ少女の異世界旅行記
はいはーい。皆さんこんにちは! 私、永瀬雪菜。
地元の中学に通ってる、ピッチピチの14歳だぞ♪
「待てやゴラァ!」
「いい加減止まらねえと、本当に身ぐるみ剥ぐぞ!」
ちょっと運動は苦手だけど、裁縫とか料理なんかの家庭的なことは好きだったんで自然と上達したんだ。そういう環境だった、てのも理由なんだけどねー。
「テメエら、無闇に傷つけんじゃねえぞ! 商品価値が下がる!」
「「「へい、お頭!」」」
今の私の置かれている状況を説明するよ♪
とても元気のいい男の人たちの声をBGMに森の中を走ってまーす。
これで追いかけてくるのがイケメンでなくてもいいから優しそうな男の人で、キャハハ、ウフフな光景だったらどれだけ良かったことか……
そう、今私って森の中にいるんだよね~。
しかもさ~、森の中で出会ったのがハチミツをくれるデフォルメしたようなクマさんじゃなくて、熊みたいなTHE☆山賊って人たちだったんだ~。
いやもう笑っちゃうよね~HAHAHA!
……
…………
………………
すみません。ウソつきました。「噓つきは泥棒の始まり」なんて言葉あるけど、もう泥棒でいいので私を逮捕(保護)してくださいポリスメン!
「だから待てって言ってんだろうがクソガキィィィ!!」
「待てと言われて待つ人なんているわけないでしょが!! てか、本当に何でこんな状況になってんの私!? むさくるしいオッサンどもにうら若き乙女が追いかけまわされるとか、次のページで〇される~見たいな展開になる一歩手前じゃん!」
貞操のピンチだよ!
あ、商品価値がどうとか言ってるから、そこはモーマンタイ? 具体的にどうなるかはともかく、やっぱ買うなら中古より新品ですよね、はい。
やったね! 捕まっても乙女のままだよ♪
……じゃ、ねーーーよ!!
問題だらけだよ! 安心要素ゼロを通り越してマイナスだよ!
人身売買は法律で禁止されてるのに何故!? はい分かります。悪人にとってはそんなの関係ありませんね。ありがとうございます。
よし、いったん落ち着こう。
今逃げてる場所が障害物の無い道になったことだし、どうしてこうなったのか思い出しましょう。唸れ私の脳味噌、COOLになれ!
「テメエら! 絶対に逃がすんじゃねえぞ! 白髪で赤目なんて珍しい女、変態貴族に売れば金貨何枚になると思ってる! さっさと捕まえねえか!」
「「「へい、お頭!」」」
うっせーよ山賊(仮)! 私は珍獣か!?
未だ目撃情報だけで発見されてないツチノコの方がよっぽど珍しいわ!
後、人のコンプレックスに触れるな! 気にしてんだぞ!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『アルビノ』
先天的にメラ……なんちゃらが欠損してることで生まれてくる個体。
ようは身体の色素に関係する成分が不足しているせいで、髪どころか眉毛や肌まで白くて、目にも影響があるから赤い目になるというもの。
私は、それだった。
目立ったねー。日本人って基本的に黒髪黒目じゃん? 多少色の違う人がいても茶色でしょ? しかも大多数は染めてるかカラコンか。
そんな中で私だけ真っ白。目立たないはずないね。
一歩外に出りゃあ、注目のマト。用事があって遠出すればさらに注目されまくる。居心地悪いったらありゃしない。
ほらほら母親に手引かれてる子供、私を指さして「ママ~あの人~」とか言うんじゃない。人に指をさしちゃいけませんって、そのママに教わらなかったのか?
おーい通行人、見世物じゃねーぞ。私なんかよりも、反対側を歩いてるテレビで引っ張りだこのアイドルの方見ろや。たぶんオフだよー?
ん? パンダの支援募金やってる人たちがいるな。よろしい。珍獣仲間のよしみだ。特別に1000円をやろうじゃないか。だから募金スタッフ、その驚いた顔をやめろや。オメエらが支援しようとしてるのと私と何が違うと言うんじゃい。いいのか? 私の持ってる偉人が描かれた紙はまだ完全に募金箱の中に入っていないんだぞ。これを引っ込めるかどうかは私の気分次第。5秒以内にその顔やめなきゃ引っ込めるからな? フリじゃねーぞ? あ、隣のスタッフに頭しばかれた。ざまあ!! あーもう、そんなペコペコせんでいいですよって。私のこと変な目で見ないってだけで好感度MAXです。も~少し若くて頭の一部がバックオーライしてなきゃ、惚れてたかもよ? とりあえず500円玉追加しときました。
ヤベ、さっきの1500円って私の昼飯代じゃん。
せっかくだから珍しい食べ物買おうとした金じゃん。
……さっさと用事すませて帰ろ。
今年で14歳になる私。当然小学校に通っていたし、現在進行形で中学校にも通ってる。総合的な成績は平均よりちょい上ぐらいかなー。
そんな私、14年間生きてきて友達の人数なんと驚きの0人! ……そう、驚きの0人! 大事なことなので2回言いました!
ま、驚くことでもないか。
周りの奴ら、みんな遠巻きに私のこと避けてるし。幼い頃からそんなんだから、私自身関わろうと思わなかったしね。
両親は何だかんだで普通に育ててもらってるから感謝してるけど、腫れ物を触るような態度だから心の底から好きになったことないんだよね。
ぶっちゃけ根暗な性格になってもおかしくない環境だったけどさ、近所の古本屋の爺さんのお陰で変に捻じ曲がった性格にならずにすんだ。何十年も前に病気で死んだ娘さんに似てるんだと。暇な時間帯は古本屋で過ごしてたから、両親より爺さんの方が家族みたいに思えた。私のために人気のラノベ買ってくれたりして、ドハマりしてそれを読んだよ。
その影響で自分で言うのもなんだけど、残念な中身になったけどな!
んで、その用事の帰り道でたまたま古びた祠が目に入ったんだよね。
行きの時は気付かなかったけど、ちょっと道から外れた所に草ボーボーの状態で小さな祠があった。相当古いせいか字っぽいのがあったけど読めん。まあ、どっちみち達筆すぎて読めなかっただろうけど! あんな波みたいなの私は文字とは認めんからな!
それで、これも何かの縁だろうと思って最低限の草だけ取った後、ポーチにしまってあったカ〇リーメイトをお供えしてみた。
そんでもって手を合わせてパンパン! と。
――どこの何の神様かはこの際置いておいて、カロリーメ〇トを対価に私をファンタジーな異世界へGOしてくだせえ!!
……うん。ちょっと悪ふざけが過ぎた。反省反省。
さーて帰りますかー、と立ち上がった時だった。
――その願い、叶えよう……
そんな声が、どこからか聞こえた。
……ん?
……んんん?
あっれー? 幻聴かなー?
なんか変に神様っぽい声が聞こえた気が――
そこで私の意識はいったん途切れる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やあ、初めまして。神様だよ」
そんなことを眼鏡をかけたスーツ姿の男性が言っている。
おまわりさーん、目の前に頭おかしい人がいまーす。
「さすがにそれは失礼過ぎないかな?」
自分で自分のこと神様だっていう人は信用できない。世の中の常識っす。信仰しても空を飛べるわけないって分かってんだよ!
「地球のエセ宗教と一緒にしないで貰いたいな……」
……あれ? そういえば、ここどこ!? 何か身体の感覚が無いんですけど!? 視点も変えられない! 考えることできるだけだ!
「今は魂だけの状態だからね」
あ、そっすか。どうも、ご丁寧に教えていただいて。
…………じゃ、ねーーーよ!!
誰やねんアンタ!
「だから神様だって言ってるだろ?」
だから自分で自分のこと神様だって言う奴のことなんて信用ならないって言ってんだろうが! あ、違った。思ってんだろうが!
「その思ってることを理解できるという点は神としての証拠にならないかい? というよりも、いい加減話を進めたいんだが?」
なるほど。アンタの正体はともかく、勝手に私の思考を読み取っていると。
やだー。プライバシーの侵害じゃないですかー。おーいポリスメーン、早くこの神様(笑)をとっ捕まえてくださーい。
善良な一般ピーポーな女子中学生が丸裸の状態にされてまーす。
「君は本当に面白いな。思ってた以上に当たりかもしれない。じゃあ勝手に話を進めさせてもらうよ。このままじゃラチがあかないからね」
目の前(?)の変態が何か勝手に納得してる件。
「私は世界を管理してる神々の中の1柱だ。この場所は魂や肉体の情報を保管する部屋だと思ってほしい。端的に言えば、異世界に行きたいと願った君の望みを叶えるための措置として今この状況になっている。ここまではいいね?」
よくありません。情報量多すぎっす。
「最近神たちの間では地球人を異世界に転生、もしくは転移させるのが流行っていてね。基本的に1つの世界に1人の元地球人ってルールがあるけど。それで私も異世界転移の形でブームに乗ろうと思ったんだ。もう分かるだろ? それで私に選ばれたのが君だ」
分かりたくないわ。えーと、えーと、もうアンタが神様でもいいや。
つーか、何で私なん? 地球の人間て億単位でいるんだよ?
「そこなんだよね。一体誰にしようかというのが問題だったんだ。考えた結果、まず第1条件に候補者の世界に対しての執着度が薄いこと。2つ目の条件に異世界、もしくは全く環境が違う場所での新たな生活を心の奥底で望んでいる人だけに限定することにした」
あー、確かにその条件なら私に当てはまるわ。
古本屋の爺さん以外会いたい人なんていないし、ラノベ読んだ影響で剣と魔法の異世界とかめっちゃ興味あるし。
「この2つの条件だけだとまだまだ候補者が多すぎるから、3つ目の条件は早い者勝ちということにしたんだ」
早い者勝ち?
「3つ目の条件、それはね……1番最初に神様にゆかりのある場所で食べ物を供えて異世界、別環境の場所への渡航を願った未成年の者だ」
……それ私のことかーーー!?
「ああ、そうだよ」
軽すぎじゃね!?
「私なんて軽くないさ。同じ神仲間でものすごく軽いのなんか、『ただブームに乗るだけじゃ面白くないから、異世界の人間を地球に転生しちゃうZE!』って」
なんちゅー迷惑な神だ。
悲報。地球がファンタジーに侵食されるかもです。
はあ、もういいけどさ。結局私に何をしろって言うの? 珍獣みたいな扱いされてたのと、中身が残念なの以外は普通レベルだよ?
「別に。どうもしないよ」
逆に困る回答だな。
「実際の話、何かを強要するつもりはないからね。自分のしたいように生きればいいよ。君にも分かりやすく言えばチートなんて言われる力もいくつか与えるし、立ち回り次第でいくらでも上を目指せる世界だから。いろいろと見どころもある地域だってあるはずだから、旅行気分でいればいいよ」
旅行かー。それもいいかも。
何だかんだで、そういうのに憧れがあったんだよねー。
……本当に私でも生きられる?
「余程バカな事をしなければね。そのあたりは地球でも同じでしょ?」
うーーーーーん……よし!
決めた! 異世界転移お願いします!
チートに関しては分かりやすいので!
「了解した。それではいい旅を……」
そうして私の意識は薄れていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
気が付けば森の中。服も持ち物もそのまま。ついでに姿も。セミロングの髪や成長途中のバスト。そして……アルビノの特徴。
で、冒頭に戻ると。
しばらく適当に森の中歩いてたら、山賊っぽいオッサンどもと鉢合わせ。
山賊視点で見ると、いきなり真っ白な女が現れた→かなり珍しいな→高く売れそうだ。野郎ども、捕まえろ! →逃げたぞ! 追え!(今ここ)
……異世界に来たってのに、日本より酷くない!?
あんのクソメガネ神、今度会ったら1発ぶん殴る! あ、ウソです。ゴメンナサイ! だからこの状況を何とかして!!
『最適化が完了しました。永瀬雪菜の能力を解放いたします』
!? 何だ!? 急に頭に声が!
『EXスキル:ヘルプ、常時防御力アップ(極大)、闇系魔法無効、状態異常完全耐性、生存本能、逃げ足、SPマスターを習得しました。初回サービスにつき、SPを100ポイント獲得いたしました』
スキルって、ラノベとかでよく出るアレのこと!?
『〈スキル〉……この世界における各個人が持つ特殊能力。生まれつき持つスキルから後天的に授かるスキルまで、その種類は膨大』
あ、ご丁寧に説明ありがとうございます。
じゃなくて! 何なのさっきから頭の中に響くこの機械で作ったような声!? しかも記憶力普通の私が一字一句間違えずに覚えてるし!
『〈さっきから頭の中に響く声〉……EXスキル:ヘルプによる能力の1つ。スキル保有者の「問い」に対する「解答」を説明する際の音声。せっかくの説明を忘れないように、しっかり記憶されるおまけ付きの優しさ設定』
ご丁寧に説明(以下略)。
これめっちゃ便利な能力じゃね? あの神が言ってたチートってやつか! 確かにこれなら見知らぬ土地でも生きていけるかも。
……あれ? いつの間にか後ろから追いかけてた山賊どもがいなくなっちょる。よくよく思い出してみると、最適化が~とか聞こえたあたりで急に足が速くなったような? もしかして、これもスキルとやらのおかげ?
……とりあえず聞いてみるか。
「ヘルプ。何で山賊どもから逃げ切れたの?」
さあ、どう出る?
『〈なぜ山賊から逃げ切れたか〉……EXスキル:生存本能、逃げ足による効果』
「? 生存本能に逃げ足って何さ?」
『〈EXスキル:生存本能〉……自身が危機的状況にある場合、ありとあらゆる能力に大幅な上方補正が掛かり、危機的状況を脱するための行動を直感的に感じ取れるようになる』
『〈EXスキル:逃げ足〉……逃げる際に限って、世界最速に』
……すごいスキルなんだろうけど、釈然としねえ。
何でこんなのがあるんだって話だよ。
『〈何でこんなのがあるのか〉……神の粋な計らい』
「やかましいわ!!」
神の粋な計らい、じゃねーーーよ!
この2つのスキル付けたのがあの神なら、ぜってー悪い笑みになりながら付けてるって! あくまで勘だけど、ちょっと腹黒そうだもん!
「じゃあ次、SPマスターってスキルの説明して」
他にも常時防御力アップ(極大)、闇系魔法無効、状態異常完全耐性なんてあったけど、こっちはそのままの意味だろうから後回し。
『〈EXスキル:SPマスター〉……SPはスキルポイントの略。自身が保有しているSPを必要分消費して望むスキルを習得できる。基本的に習得したいスキルの名前、もしくは情報が80%を越えなければ習得可能リストに表示されないので注意。効果が高いスキルや特殊なスキルほど必要SPが多くなる』
2つ目のチート来たこれ!
この説明から察するに、この世界の人はスキルを自由に選ぶことは基本的にできないんだろうな。そんな中で私はスキルの名前かその情報を8割がた知っていれば、SPとやらを消費して習得できると。
さっそく使ってみよう! って思ったけど、よく考えたらこの世界のスキルのことなんてほとんど分からないという現実が。ちくせう。
ヘルプに聞こうにも、どんな質問ならいいんだよ。落ち着ける場所ならいい質問浮かびそうだけどなー。少なくとも今は無理か。
……あ、そうでもないかも?
1つだけ私が習得していないスキルで確実に存在するのがある。
――闇系魔法
私の持つスキルの中に闇系魔法無効というのがあるんだから、確実にこれはあるだろう。他にも類似スキルで炎系魔法なんてのもあったりして?
「だったら試してみようじゃない! いでよリスト!」
ポーンッ! という音と共に、それは私の前に出た。
【習得可能スキルリスト】 〈所持SP:100〉
・闇系魔法 LV.1 (必要SP:3)
・炎系魔法 LV.1 (必要SP:3)
キタ~~~~~!!
目の前に浮かぶスクリーン(?)には私が望んだものが! ちゃっかり炎系魔法も入ってるし。ふーん、魔法はレベル制なんだ。
所持SPと必要SPが表示されるのはいいですね~。
「せっかくだし、炎系魔法のLV.1を習得しよう!」
攻撃魔法としてイメージしやすそうだしね。
『SPを3ポイント消費して、炎系魔法LV.1を習得しますか? YES/NO』
スクリーンに新しい文字が出た。YESをポチっとな。
『魔法スキル:炎系魔法 LV.1を習得しました』
ハイハイ。了解了解。もう1回リストを確認っと。
【習得可能スキルリスト】 〈所持SP:97〉
・闇系魔法 LV.1 (必要SP:3)
・炎系魔法 LV.2 (必要SP:6)
「……あれ? 次の段階も習得できるの?」
段々このシステムが分かってきたわ。あ、楽しくなってきた♪ せっかくだし炎系魔法のスキルはできるだけ上げとこ。こんな世界ならドラゴンとかいても何も不思議じゃないし。今のうちに攻撃手段は確保しとこーっと。
――で結果、SPの半分以上を消費して私の炎系魔法はLV.6に。残りのSPは保留だ。無計画に使って得することなんて1つも無いしね。
さーて今後の予定としては、とりあえずは第一村人発見から行きますか。今更だけどこの世界の言葉普通に分かるし。何とかなるでしょ。
私の見た目? さあ、何のことやら。
まずはヘルプで人が住んでる場所を―― あれ? 何か後ろから音が……
「いたぞ! 2度と逃がすんじゃねえ!!」
「「「へい、お頭!」」」
さっきの山賊どもと再会ナウ。
「ま・た・オ・マ・エ・ら・か~~~!?」
しつけぇぇええええええっ!! もうほっといてくれよ! 私捕まえるためにずっと追いかけて来たのかよ! そんなんだから女にモテないんだよ!
あ、山賊は誰からもモテないか普通。
つーか、何で私にそこまでこだわるのさ!?
『〈なぜ山賊がそこまでこだわるか〉……永瀬雪奈のような特徴を持った人物はこの世界では他に存在しないため、捕まえれば高値での取引が期待できるから』
サンキュー、ヘルプ!
いや何となく分かってたけどね。山賊のお頭っぽいのが、それらしいこと言っていたし。アルビノの特徴持ってるのが私だけって言うのだけが予想外!
嫌だよ、プレミアム価格が自分に付くとか!?
も~怒った。全世界のアルビノで困ってる人たち+動物よ、オラに力を分けてくれ!! ………………この世界、私以外アルビノいないんだった。うわー、恥ずかしいー。
よくよく考えたら私ぐらい元気な奴そうそういないだろうし、1人でもドでかいエネルギー玉は創れるってたぶん。そう、魔法で!
さっき習得したばかりの炎系魔法LV.6ならギリできそうな気がする。何となく何ができるのかできないのかが分かるようになってんだよね。
イメージするのは私と同じぐらいの大きさの太陽モドキ。手を上に大きく広げて、そこに炎が集まるイメージ。身体の中からごっそり何かが吸い出されてる気が。もしかして私の魔力みたいなものか? まあ、それはいいや。今はなぜか怯えた表情を見せてる山賊共を肉でいうところのレアにするのが先。あ、魔法が完成したっぽい。私の初魔法、いざお披露目!
「いっけぇえええええ!! 『プロミネンスフィア』!」
名前は今決めた! そして私の放った魔法が山賊共に向かって飛んでいき――ありえないレベルの轟音がしたと思ったら、私の身体が宙を舞っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この世界に来てから1週間ちょい経った。
私は今フードを被って、酒場の隅っこでジュースをチビチビ飲んでいる。
中はガヤガヤしているけど、近くの席にいる人たちの話声は聞こえる。
「オマエさん見ない顔だな。この街に来るの初めてか?」
「ああ。ここから数日の所にあるビアンカ森林で仲間と一緒に貴重な薬草を探したり、強い魔物と出会えれば戦って素材を売るつもりだ」
ビクッ!
「……やめた方がいいぞ」
「何でだよ? もしかして最近ビアンカ森林に住み着いたっていう傭兵崩れの盗賊か? これでもオレも仲間も結構強いんだぞ? 数人程度の盗賊なんて無傷で返り討ちにするぐらいわけねえって。実力のある冒険者は普通に素材集めしてるんだろ? 盗賊が住み着いたって話を聞くようになってからそれなりに経ってるし、ギルドでも討伐依頼が出てんじゃねーか?」
「……ギルドは今、それどころじゃねーよ」
「あん? どういうことだよ?」
「オマエさんが行くって言っていたビアンカ森林な、森林全体の半分近い面積の中心地が……焦土と化しちまったのさ」
「……は? はぁああああああああああああ!?」
ビクビクッ!
「ど、どういうことだよそれ!?」
「どうもこうもねえよ。今から1週間ぐらい前に、さっきオマエさんが言っていた盗賊を退治に中堅冒険者チームがビアンカ森林に出向いたんだ。でだ、森の入り口に差し掛かったあたりで凄まじい轟音が響いたもんだから、警戒しつつ音がした場所、森の中心地に向かったら、そこが燃えまくってたんだと。幸い水系魔法が得意な奴がいたんで火はすぐに消し止められたらしいんだが、中心地は酷い有り様だったらしいぞ? 燃えていたのは中心地でも外側だけだったんだが、内側に行ったらバカでけえ焼け焦げたクレーターが出来上がっていたんだと」
ビクンッビクンッ!
「一体何が……?」
「さあな。それでここ数日ギルドは上へ下への大混乱だ。ビアンカ森林は危険な魔物もいないのに、運が良ければ貴重な薬草を見つけることができるってんで、この街の冒険者たちにとっていい稼ぎ場所の1つだったのによお。しまいにゃあ凶悪な古代龍が出ただの、長き眠りから覚めた太古の魔王が戯れにしただのなんて噂まで立つもんだから、さあ大変だ。……オマエさんもそのお仲間も、運が無かったな」
……く、くるわー。めっちゃ心に矢が刺さる。
すんませんおまわりさん、私がやりました。あ、ここでは衛兵か。すんません衛兵さん、私がやりました。ただ、仕方なかったんす。私のこと捕らえて売ろうとした山賊――もとい盗賊どもを炎系魔法でレアにしようとしただけなんす。まさか、ウェルダンすら通り越して塵一つ残さず消滅しちゃうことになるなんて予想だにしなかったんす。
あの時、自分の放った人生初の魔法、その余波で空を飛ぶ(正確には吹き飛ぶ)という貴重すぎるというかアホな体験をした後、特に何かあったわけでもなく盛大に地面へと激突した私。
普通なら死ぬだろうし、仮に生きてても重傷だろう見事な激突っぷりをしたというのに、服が汚れただけで私の身体には傷一つ無かった。
すぐにヘルプさんが答えてくれたよ。
『〈EXスキル:常時防御力アップ(極大)〉……常に自身の防御力が周囲からドン引きされるレベルで高くなる。身体ほどではないが服にも影響あり。これで男性なら変態と言われずに、女性なら痴女と言われずにすむ……かもしれない』
ついでに何でこんなことになったのかも聞きましたとも。
ヘルプによる、その答えがこちら。
『〈何でこんなことになったか〉……永瀬雪菜が習得した炎系魔法LV.6はこの世界では一握りの天才だけが到達できるレベル。普通はLV.3までいったら、その魔法は一人前。そんな炎系魔法LV.6でギリギリ行使可能な魔法を明確なイメージによって行使したことで安定させる。加えて、危機的な状況にあったとしてEXスキル:生存本能の効果により威力が数倍に。これによって森全体の半分近くが焦土と化す悲劇になった。ついでに、永瀬雪菜が自分の放った魔法の余波で吹き飛んで地面に激突するという喜劇となった』
以上、ヘルプによる説明でした。
リアルでorzの体勢になったのなんて人生初だった。
盗賊どもを――人を殺してしまった衝撃もあったんだろうけど……何かそれ以上の衝撃が精神的にも物理的にも凄すぎて埋もれちゃったよ。
すまんな盗賊ども。オマエらのことは明日辺りまでなら覚えておく。
明後日からは? 私はいつまでも過去を顧みないのだよ。
「あれから約1週間。何だかんだあってようやくこの街に辿り着いたけど、前途多難だなー。一体これから私、どうなっちゃうんだろ?」
『〈これから永瀬雪菜がどうなるか〉……神のみぞ知るところ』
やかましいわ!!
~END~
この短編のコンセプトは「残念だけど元気なアルビノの女の子がチートを授かり、神によって異世界へと転移したら?」というものです。
人でも動物でも何かにつけ生きづらい世の中にも負けず、書いてる作者が楽しくなるような性格の主人公にしました。個性的な性格なので主人公視点でのハイファンタジーに。
容姿のイメージとしては「物語シリーズ」に登場する、変身後の蛇少女。
作者にとっては2つ目の短編でしたが、連載を予定して試験的に投稿した前回と比べ、時間は掛かりましたが作者自身書いてて面白くなる作品になりました。
連載版は……あるかな? 今の所そんな余裕ないけど。
感想や評価など待っております。
作者の連載作品「逆転生した魔術師にリアルは屈しました」もよろしければ見てください。