ヒロインは遅れてやって来る
今日も朝からだるい......
最近なにかに取り憑かれたかのように体が重い。家に帰ってから何をするわけでもなく飯、風呂を済ませるとスマホを眺め眠くなったら寝るそれを一連の作業のように行っている。
特に最近はボーッとしている事が多い半年前に陸上部をやめたことが原因だろうか。
俺みたいに青春顔を嫌いな奴ってこんなんなのかな?
そんなことを考えながら 俺はけだるいげに家をでた。
学校に着くやいなや俺は二年B組に入ると窓側のいちばんうしろにある自分の机に直行し横になる、朝から周りは元気におしゃべりをして少しうるさい気がするがそんなのはもう慣れただから俺は気にもせずにそのまま夢の世界へ......
「史也遅いじゃないか!」
と入ることなくその声の主に起こされる
「ん?どこのアホかと思ったら太陽か、悪いけど眠いからあとにしてくんね?」
そんな太陽の言葉に俺は素っ気なく返した。だって眠いだもん。
こいつは隣のクラス二年A組の太陽、本名 川村 太陽。隣のクラスなのに毎日俺が登校するとこうやって来る正直めんどくさいが中学からの仲で中学でもこんな感じだったからおそらく今後も変わることはないだろう。中学の時一緒にいすぎて一部の女子が騒いでたのは内緒だ。そして俺の数少ない友人でありアホだ。こいつは何かが抜けているそんな感じだ。俺の知る限りこいつは怖いものしらずだ。
「誰がアホだよ、アホって言ったやつがアホなんだよ~だ!」
この通りアホである自分では自覚がないらしい
「その返しだって幼稚だわ、だから俺にアホって言われんだよ。で、ほかになにか用か?」
「あ、そうそうちょっと聞いてくれよ史也~」
太陽がそう言って話を続けようとするが俺はふと隣の席の紅坂さんと目があった。
本名紅坂 菫 、あまり話したことのない人にさん付けするのは珍しいことではないが紅坂さんはそれだけではない、日本人で知らない人はいないと言って過言ではない紅坂家のご令嬢なのだ、そのうえ容姿が完壁で男子には「女神だ」なんて言ってる奴もいるくらいだ。
まあその長い黒髪には清潔感がありとてもいいと思う。たまに耳に髪をかける仕草とかも普通にキレイだ。
それに去年の生徒会選挙では一年生にもかかわらず生徒会長に立候補し、生徒会長となったこの学校では異例なことで先生たちからもひともく置かれている存在だ。
神々しい紅坂さんにはみんな話しかけずらいのだろう俺もそのひとりだしアホの太陽だって無理だろう。ご令嬢とあれば尚更だ。
紅坂さんはそれだけでも近づきがたい人物なのに毒舌であることで有名だ、泣かされた男は数知れず。
そんな紅坂さんがこちらを見ているのがすこし気になったしこれが初めてではないから事から太陽をさえぎって勇気を出して声をかけた。
「く、紅坂さんぼ、僕らにな、なにかようですか?」
すこしビビってしまった、しかも噛んだなにより一人称までかわってしまった。情ない......
俺が紅坂さんに声をかけたのが意外だったのだろう太陽は驚いたように振り返り紅坂さんをみた。
紅坂さんは俺に声をかけられたのに驚いたのか顔がすこし赤くなっているような気がした。それをみて素直にかわいいと思った。それも一瞬の事でいつもの表情にもどると
「朝のホームルームが始まるのにいつまで私の近くで喋っているのかと思っただけよ」
そう言って最後にその紅い瞳を細め睨むように俺ら二人を交互にみると仲良く凍ったかのように動けなくなった。蛇に睨まれたカエルとはまさにこの事だと身をもって実感した。てか怖すぎ!
俺に話しかけられたのが気に触ってしまったのか?この際そんなことはどうでもいいこの空気を変えねばそう思いふと太陽をみるが完全にかたまってるもうこいつダメだ、怖いものしらずだと思っていたが流石に紅坂さんは例外か。
この冷たい空気を察したのかさっきまでの喋り声がぴたりとやんだ。みんなこちらに注目しているようだった。クラスの空気を冷たいくしてしまったことに申し訳ないと思いながらこの冷たい空気を変えるために勇気を出すしかないと思い頭に浮かんだ言葉を並べ声に出す。
「あ、そうだねも、もうこんな時間か太陽はやく自分のクラスに戻れよ」
俺の言葉でやっと現実に帰ってきた太陽が慌てて返答する。
「あ、あぁそ、そうだな」
そして太陽はふっーと息をはき出すといつもの太陽の顔に戻り
「じゃあ話の続きは後でな昼飯の時また来るから」と言ってB組から出ていった。いつもの太陽に戻ってひと安心した。冷たい空気がとかれ、さきほどの空気に戻るとクラスには喋り声も戻ってきた。
「はあ、また太陽とかいう人が来るのですか?」
「あ、うんそう見たい...」
俺がそう愛想笑いをしながら言うとハァーとため息をつくと。
「ああいううるさい人は苦手だわ、しかも見るからにアホだし」
俺の数少ない友達になんて言うことを言うんだでもアホなのはほんとの事なのでこれ以上何も言わないようにすることにした。
朝からもうどっと疲れた…...
紅坂さんは隣で読書を始めているこうして見ていればキレイなんだけどな、さっきの人とは別人みたいだ。そんなこと思っていると眠気が襲ってきた。
やった寝れ......
「ガラガラ」教室のドアが開けられた。
「いつまで喋ってんだ出席取るからさっさとすわれ」
黒川このタイミングかよもう朝から最悪だ。
黒川は四十過ぎの俺らの担任だ。頭はハゲだ。ハゲているためか見た目年齢は五十代だ。
黒川は教卓の前に立つと出席番号の一番からか順に呼び、呼ばれた生徒のほとんどはだるそうに「はい」と返事をしている。
俺は黒川が出席をとり始めてからずっと窓の外に見える校門を眺めていた。これといった理由はない。ただ暇だからだ。暇なら寝ていればいいのかもしれないが名前を呼ばれたら返事をしなければいけない......うん、このうえなくめんどくさい。
赤い車が一台、宅配のトラックが一台、中年のサラリーマンが一人。俺は心の中で寝る時にかぞえる羊感覚で校門の前を通る車や人をかぞえていた。
白いワンピースの少女が一人。俺は無意識にかぞえるのをやめてその彼女に目がいった。白いワンピースなんて珍しいなあショートカットが似合うなあ、まあ顔見えないんだけどそんなことを思っていたがよく考えてみればその彼女は俺と同じくらいの年に見えた。なんでそんな彼女が学校に行っていないんだ?彼女はいったいなんなんだ?そんな小さい疑問がひとつひとつ積み重なり俺はその彼女から目がはなせなくなっていた。
彼女は校門の真ん中あたりにくると首だけこちらにくるりとむけた。俺は背中に誰かに思いっきり叩かれたような衝撃が走った。たまたまこちらをむいているだけだと思いながらも彼女もこちらを見ている気がした。目すらあっているそんな気がした。彼女はふいに頭をかしげるとにこっと口元が動いた気がした。その瞬間俺は興味ではなく恐怖が込あがってきた。自分の心臓の音がきこえるバクバクと激しく動いてることが分かる。そして俺は自分の体が動かないことに気づいたこれが金縛りなのだろうか......彼女はまだこちらを見ているまるで彼女に金縛りをかけられているそんな気がした。誰か助けてくれ。
「高松 史也......高松、おい高松!」
俺は黒川の怒鳴り声で我に帰る。
「あ、はい」
俺は慌てて返事をする。
「朝から寝ぼけているな、ちゃんと目開けてろ」
黒川はそう言って出席をとるのを続けた。
いつもならなんだあのクソじじいと思っていただろうが今日に限ってはほんと感謝する。黒川のおかげで金縛りがとけた、そう考えるとなんだか情ないがあいつか困っていたら助けてやろう。
俺はそっと窓の外をみるとあの少女はいなくなっていた。なぜだろうさっきまであんなにも怖かったはずなのにいなくなったと知った瞬間謎の喪失感に襲われた。
「また窓なんてみてそんなにおもしろいものが見えるの?」
紅坂さんが頬杖をつきながらこちらをみていた。
「あ、いやなんでもないよ」
さっきのことを言ってもどうせ信じないだろうと思いごまかすと紅坂さんはつまらない、期待していた返答じゃなかったと言った感じで「そう」ともう興味はないと言った感じだった。
紅坂さんは目を俺から本へと移しなにやら真剣なまなざしで見ている気がした。
ん?いま「また」って言ったか?てか紅坂さんって俺のこと見てるのか?いや気のせいか。
*****
俺は一時限目から睡魔の格闘の末いまは四時限目の残り五分ってところだ。他の人はもう授業が終わったつもりでいる奴や真面目にノートをとっている奴様々だ。そういう俺は睡魔との格闘に惨敗していた、そして先生に注意されたら起きてまた睡魔に負けるそれを繰り返していた。睡魔に勝とうなんて無駄なことはしない。体が寝たがっているのだから寝て何がわるい。
隣の紅坂さんはというと授業などつまらないといった感じで読書をしている。いつもこんな感じで読書をしているが先生にバレたことはない、いやバレてるのか?まあそんなことを注意しなくてもテストはオール満点だし、そもそも声をかける勇気すらないだろう。俺がもし紅坂さんの担任とか授業をもっていたとしても声はかけないだろうそれくらい威圧的だからだ。前例があるのもある......
俺は去年の一年生の時も紅坂さんと同じクラスだった。席は今とは違い隣ではなかったが斜め後ろから彼女のことは確認できた。
就任したての若い教師だった。名前は確か沢城 力だったはずだ。彼はとてもはりきって授業を行っていた。まあそれなりに授業事態は分かりやすかった、その頃の俺は真面目な方だったためしっかりとノートもとっていた。みんなも入学したばかりなのもありみんなもそれなりに真剣だった。紅坂さんを除いてだが、紅坂さんは今とあまり変わらなかった。
入学してから一ヶ月がたとうとしていた頃に事件は起きた、沢城先生は紅坂さんの態度に痺れをきらし注意した。しかし紅坂さんは沢城先生の言うことに反発し、沢城先生を論破していた。沢城先生は紅坂さんに一番最初に泣かされた男だ。この事件が紅坂 菫という名を校内中に広める出来事ととなった。
「先生時間過ぎましたよ」
授業をしている先生に一人の女性生徒が時計を指差し言った。名前は分からん。
先生はその女子生徒に指された時計をみて今の時間を確認すると、教卓の前まで来てクラス全体を見回し、銃を終わる体制に入った。
「はい、授業終わるぞお」
と言うと今日の日直であろう人が「起立」と呼びかける。名前は分からん。その号令とともにみんなが立ち上がる。たいはんの人は高校生とは見えない感じでダラっと立ち上がる。紅坂さんは読んでいる途中のページにしおりを挟むとゆっくりとゆうがに立ち上がった。絵になるなあ。おおげさに思うかもしれないがほんとに美しい。
「これで授業を終わります、ありがとうございました」
言葉とはうらはらにまったく感謝の気待ちのない「ありがとうございました」で四時間目の授業が終わった。
「高松くん」
「いって!」
俺はいきなり紅坂さんに声をかけられたことにびっくして机に足をぶつけた。
「何しているのよ、私に声を掛けられるのがそんなに驚くことかしら」
紅坂さんはやれやれといった感じで呆れた目で俺のことを見ている。
いやだって二年生になって約一ヶ月初めて紅坂さんのほうから話しかけてこられたんだしかたない。ん?てか今日俺が初めて紅坂さんに話しかけたのか。そういえば俺ってクラスの人と全然話してないよな。二年生が始まって最初の自己紹介以来同じクラスの人と話したのは今日の紅坂さんくらいか。俺の高校生活どうしてこうなった......
「高松くん、あなた人の言うことを聞いているの?」
「あ、えっとすみません」
紅坂さんに話しかけられてからしばらく反応のない俺に紅坂さんがお得意の「眼」を飛ばしてきたのでなるべく紅坂さんの感に触らぬようにとっさに謝った。
やっぱ紅坂さん怖いわ。俺にM属性とかあればご褒美なんだろうけど俺にはそういったものはまったくもってない!もしそんな属性があったらそれは素晴らしいくらいに高校生活が終わるだろう。
「もしかして、あなたも太陽とかいう人みたいにアホなのかしら」
「いえ、それはまったくもってありえません」
紅坂さんがわざとらしく「アホ」を強調して言ったので俺はそれを即答して否定した。
俺唯一の友達を大切にしなければいけないはずなのになぜか太陽と同じあつかいをされるのがいやらしい。
「そ、そう」
あれ?紅坂さんちょっと引いてる?
「まぁ、それはいいとしてお願いがあるの」
「お願い?」
ちょっとまっておかしくない?だって俺と紅坂さんが話すのって今日が初めてのはずなのにいきなりお願いなんて。
そんなことを思っていると自分の後ろの扉を指して
「あのアホが四時間目のおわる少し前からあそこにいて、読書に集中出来なかったの」
そう言って俺を睨みつける。
「は、はぁ」
ん?なんかやばくねこのままだと俺あれくらっちゃうよ。俺あれ嫌いなんだけど。
「読書に集中出来なかったから少し不機嫌なのよね」
これ少しどころじゃないと思うんだけど。なんか紫色の禍々しいオーラ出てますよ。てかそれくらいのことでそんなに怖い顔しないで。せっかくの可愛い顔もだいなしよ。
俺の心の声も虚しく当たり前の事だけど紅坂さんに届かない。
紅坂さんはふぅーと息をはくとゆっくりと一度地面をみた。
え?なんか溜めてるの?気みたいなの溜めてるの?これ気溜めてるよね。
するとパッと顔をあげ俺の顔をみると
「目障りだからさっさとあのアホ連れて私の前から消え去りなさい」
見たものを一瞬にして凍らせてしまいそうなその紅い瞳でまた睨みつけられてしまった。
「はい!」
俺は軍隊の敬礼のように背筋をのばして短く返事をすると昼飯、スマホ、財布をもって紅坂の指した扉から逃げるようにしてクラスから出ていった。
そこには案の定太陽がいて申し訳なさそうにこっちを見てくるもんだから気にすんなってだけ声をかけて俺らの憩いの場所へとむかった。
そこは俺らの学校の校舎裏でほとんど人は来ない。去年の俺と太陽が見つけた穴場スポットだ。
いやあさっきは俺の嫌いな八つ当たりをくらってしまった。しかもその相手が紅坂さんとはもう俺のHPはもうゼロだ。午後の授業で全力で睡魔と仲良くしてHPを回復させなくては。
そんなことを考えていると校舎裏に着く。
俺は校舎裏に着くとすぐにビニール袋からパンを取りだしひと口。うん!うまい!
だいたい昼飯はコンビニのパンだ。
太陽は俺の隣に座ると飯が三合まるまる入った弁当箱ともうひとつおかずだけ入った大きな弁当箱を取り出した。
「相変わらずすげえ量食うよなお前」
「まあな、これくらい食わないと放課後の野球とか持たないしこれだけじゃ足りないから授業のあいだにもパンと食ってるよ」
こいつの胃袋どうなってんだ?頭と同じで胃袋までもアホなのか?
「でもお前も陸上やって頃は俺に勝るとも劣らずってくらい食ってただろ」
「いやそれは流石に言いすぎだがそれなりには食べてたかもな」
俺は今の会話で太陽の四時間目の授業が国語だった事が分かった。アホっていう生き物は自分がアホだということにきずかない。そしてアホという言葉に反応し、自分はアホではないことを証明するべく知ったばかりの難しい言葉、ことわざを自慢げに言う性質があると俺は太陽を見ていて思った。
「勝るとも劣らず」なんて普通の会話でなんか使わない。さっきの授業で耳にしたんだろうな。
「太陽お前四時間目、国語だっただろ?」
「え!?なんで分かるの?」
「お前勝るとも劣らずとか普通の会話に使わないから」
俺はそうやっていつも太陽をいじる。
太陽と一緒に飯を食っている時間が俺にとって一番青春している感じがする。てかそれくらいしか。
「お前って、野球のセンスはアホみてえにすげえのにな」
「そ、そうか?そう言われると照れるな」
あ、やっぱこいつアホだ。アホっつったのに褒められてるせいで気づいてない。
「でも史也だって陸上すごかったじゃん」
「そうだよ、すごかったよそれなりに。でもそれも過去の事。いつまでも過去の栄光的なものにすがるほど俺はみじめじゃない」
俺は前期試験でこの学校に入学した。推薦が来てたのが大きかった。この学校は秋田県でも陸上の成績ならトップクラスで将来高校をでたあともしっかりとした就職先につけるようにしてくれるのが魅力的で俺はここを選んだ。
そんな強豪とも言っていい陸上部で俺は一年生ながらリレーメンバーに入っていた。
太陽はアホだが野球のセンスで言ったらこのうえなく高い。中学のころは県選にも選ばれてたな。県で一番強いチームから推薦がかかっていたのに俺と同じ高校に入りたいと言うだけで入学し、決して強いとはいえないチームでレギュラーだ。一年生からレギュラー入りしてたのは太陽だけだ。
「なんで史也陸上やめちゃったのさ」
「太陽それは聞かない約束だろ」
なぜなら俺はどうして陸上をやめたか分からないからだ。的確には忘れた。忘れるくらいのことだったのかもしれないがなぜかそこをつかれると少しいやな気分になる。
「あ、ごめん」
「まぁそれはいいんだが、朝言いかけていたことはいったいなんだったんだ?」
俺はやっと聞きたいことが聞けた。正直俺は太陽が何を言いたかったのかが気になっていた。太陽が決まって話そうとした時に邪魔が入って喋れなかった話は意外と大事な話であることが多いからだ。そういった謎の性質を太陽は持っている。わけが分からん。
「あ、そういえばそうだった!」
俺がいうまで忘れてたのかやっぱアホだ。
「それがさあ.....だからそれがさあ......」
「もしかして忘れたのか?」
「おう!」
おう!じゃねえよ何忘れてんだよ。
「たぶん忘れたってことはそんなに大事じゃない事なはずだし、いずれ思い出すって」
「わかったよ、でも思い出したら教えてくれよちゃんと」
太陽はまた「おう!」と元気に返事をした。
太陽が話しかけたことを忘れるのは大事じゃないからじゃない。むしろその逆でそれは俺にとっていつも大事なことになる。それも決まって太陽がその話で言いたいことを思い出してからだ。ほんとに謎だこいつ。
そのあと俺らは今日の紅坂さんについて話しながら昼食を終えて各教室へと戻る。
*****
「今日はいつもより少しはやいじゃない」
俺が席につくなり紅坂さんが話しかけてきた。今日初めて話したばっかりだよね?なんでこんなに積極的的なのさ。「今日は」ってなんだよいつも見てんのか?まあそれはないな。
「あ、いやあ今日色々とあってねむいからはやくきりあげて来たってだけ 」
お!俺結構自然とじゃべれてるかも。まぁ疲れてねむいのは絶対に紅坂さんのせいだと思うけどそれを言ったらおそらくメドゥーサを思わせるその紅い瞳で凍らされることは目に見えているから言わないでおく。
紅坂さんはまたそうっとだけ言うと本に目を移しどこか真剣な眼差しで見ていた。
*****
俺は残りの二時間を睡魔と仲良くしながら紅坂さんに削られてしまったHPを回復させていた。
俺はずっと寝ぼけていたのであろう目を開けるとクラスには誰もいなく時計の針は四時半を指している。
あ、たぶん寝ぼけてたら帰りのショートホームルームが終わったのにも気づかないで寝過ごしたらしい。我ながら起こしてくれる友達がいないのは少し寂しいな。少しどころじゃないけどね。
俺は何気なくスマホを開くとLINEに珍しい通知が一つあったので開いてみるとそれは太陽からのものだった。
「昼飯の時に言ってたこと思い出したよ!俺最近白いワンピースの女の人を何回か見たんだよね」
俺はその内容をみて背筋に衝撃が走った。太陽もあれを見たことがあるのか。
ちょっと待て、いままで太陽と付き合いで分かったことがある。それは話しかけたこの内容を忘れてそれを思い出した時にそれは俺にとっていつも重要な事になることだ。
いやまさかこれは何らかの偶然だ。でも少し気味が悪いな。はやく学校を出て帰ろう。
俺はその日初めて太陽への返信を忘れた。
*****
人生で初めてかもしれないこんなに帰り道が怖いのは。今日は雨は降っていないものの雨雲のせいで五時前とは思えない暗さだ。俺は太陽からのLINEが少し不気味だったため少し人通りの少ない近道を通ることにした。近道だからといってまわりに家がないとかそういった感じではない。人通りが少ないのを除けば普通の道と変わらない。
まったく何かが出てきてもおかしくないような気すらする。やってられん。
おかしいなまだ体が重い帰りのショートホームルームすらおかまいなしに寝ていたはずなのに。家帰ったらすぐ寝るか。
太陽からあんなこといまれたあとだと後ろたか気になるな。
俺はふっと後ろを振り返る。そして振り返らなければよかったと思った。電柱のうしろに黒い影がスっと隠れ同時にガランと大きな音とともに電柱のうしろにあったであろうゴミ箱がころがる。
気のせいでありますように。もし気のせいじゃなくてもそこら辺の野良猫でありますように。
俺は今日何度目か分からない勇気をだして体の向きを電柱に向けた。そこには妙な緊張感があった。
「おい、誰かいるのか!」
当たりは静かなままだった。俺ははぁーっと胸をなでおろしその妙な緊張感から解放されなかった。この静けさは妙におかしい。流石にここがあまり人通りが少ないからといってこんなに静かなのは何か変だ。そう思ってしまったせいで妙な緊張感が恐怖へと変わり、ふと太陽からのLINEを思い出した。正確には思い出してしまった。
俺に恐怖がのしかかりそこからどうしても足が動かない。静かな道に急にカラスの鳴き声が響きよりいっそうその恐怖は強くなる。そして俺は自然と電柱のほうに目をやるとそこから目を離すことはできなかった。
電柱の後ろから汚れたワンピース姿の女性がでてきた。そいつはこちらに向きをなおしむかって来た。
やばいこれは逃げなきゃ。
そこでやっと俺の体は動けるようになる。そいつに背を向けると大きく足を前に持っていく。
俺は元陸上部だ、まだ多少なら足には自信がある。奴が出てきた瞬間逃げることは決めていた。
俺は素晴らしいスタートダッシュを決めた時に気づいた俺のいまの逃げたいという感情と足が空回りであることに。そして思い出した陸上部だったのは半年前のことで辞めて以来それっきり思いっきり走ったことがないことに。
俺はスタートして数歩走っただけで盛大に転んだ。
「いってぇ」
転ぶときに防ごうとして自然と出てきた右手を抑えながら俺はその場に座り込んでしまう。
「ふふふっ、はははっ」
俺はその笑い声のするほうをみるとショートカットかわいらしい少女がこちらをみて笑っている。
最初はこらえていたっぽいがこらえ切れずに声をだして笑っている。
その少女はさっきの奴だったことに気づき先ほどまで俺を襲っていた恐怖はどっかに行ってしまっていた。
「ふ......き、君おもしろいね」
彼女はそう言うとにっこりとこちらをみた。
いや普通にかわいい。なんかこのショートカットが彼女の子供らしさを出しているような気がする。いや俺は何を考えてんだよ。まったくこういうことにすぐに持っていく思考が好きじゃない。思春期とかそういったもののせいであろう。
「そ、そんなにおもしろいか?」
「そうだよ、すごくおもしろいよ。だって思いっ切り走って行くかと思ったら思いっ切り目の前で転んでいてぇとかいって座っちゃってるんだもんおもしろいじゃん。ぷっぷふふふふ」
彼女はそう言ってまた笑い出した。
彼女にそう言われてか 考えてみればおもしろいのかもな。運動会とかで張り切って走ったお父さんがスタートしてすぐに転んだみたいなものか。
「はははっ、はははっ、はははっ。はぁはぁはぁ」
自分の事なのにあほくさくて笑えて来た。太陽の事もバカにできないな。
急に笑い出した俺に少しびっくりした表情を見せた。
「もう、いつまでそうやって座って笑ってるの。ほら立って」
彼女は左手で髪の毛を耳にかけると右手で手を貸してきた。俺が右手を痛めたのを気にしてなのか。もしそうだったらみための子供ぽさとはうらはらによく考えてるなって思う。もし本当にその事を配慮してのことだったらの話だけど。
彼女の差し出してくれたその手をとった。
「つめたっ」
彼女から手を貸してもらって立たずにそのつめたさの衝撃で俺は立ち上がる。
彼女の手からは人のぬくもりみたいなのが感じられなかった。そしてまた俺を襲うはかりしれない恐怖。
彼女のほうを見ても彼女はどうしたのって感じでこちらをみている。
やっぱこれはやばい奴だ。こいつは人間じゃない。逃げなきゃ。
俺はまたスタートダッシュをした。こんど転んだらもう次はない。今度こそなにかされる。彼女にその意志がなかったとしても何者かも分からない奴といたって仕方がない。
うしろから彼女は大きな声で待ってと叫んでいるそしてそれいがいの言葉も言った気がしたが俺はそこから離れることに精一杯で何を言ったか聞き取ることはできなかった。
「はぁはぁはぁ」
やっとついた。俺は休むことなく走り続けなんとか自分の家に着くことができた。玄関を開けようとするがあかない。
「ちくしょう、夕飯の買い物で鍵しめて行きやがったな。こんな時に。」
慌てて制服のポッケから合鍵を取り出し、彼女が追ってきてないか当たりを確認しながら急いで家の中へと入る。
「助かったのか?」
玄関でさっきまでの恐怖から抜け出すことができ、その脱力感で座り込む。
やっと体に力が入るくらいに落ち着くとそのまま自分の部屋へと向かう。部屋に入り、バックを投げ捨てベットへダイブ。
そして襲い来る睡魔に身をゆだね目を閉じ、「お疲れ様」に「ああめっちゃ疲れた」と返事をしたところで俺の目の前まで来ていた睡魔はどこかに飛んでいった。
目を開けると彼女はにっこりとこちらの顔を伺っていた。
「なんでお前がここにいる!?」
「ん?だって待ってるって言ったじゃん」
思い返せば確かに待ってにまじって待ってるって聞こえたような気もするけど.....。
「待て、家には鍵がかかっていたはずだぞ」
「うん。かかってた」
「うんじゃねえよ」
なんかさっきまでの恐怖とかもうどっかいったわ。
「君も気づいてるかもしれないけど私人間じゃないよ」
「まあ薄々分かってわいたが。てか人間じゃないと思ったから逃げんたんだ。」
「まあそうだよね。てか名前教えてよなんか君っていうのなんかやだ」
名前だと?こいつは俺と何らかの関係を持つつもりなのか?まあ聞かなければ分からないか。
「お前が何者なのか教えてくれたらいいぞ。悪魔とかだと名前教えたら面倒なことになるからな」
「わかった。私はたぶん幽霊ってやつだよ。未練とかなんかが残ってこの世に居座ってる的なやつ」
幽霊か想定内だな。あの肌の温度から生きているものではない事が分かったしな。俺はなんでこいつとこんなにすんなりと会話がでいているんだ?なんか不思議な感じがする。たぶんこいつが俺の持っていた緊張感をほどいたせいだろう。こいつはそういう事ができるみたいだ。でもそれだけじゃない気もするが今の俺には分からない。
「たぶんってお前自分の正体もわからないのか?」
「幽霊は確定かなたぶん。覚えてないもん。なんで死んじゃったのか」
確定のあとにたぶんつけたらどっちか結局わからないじゃないか。まあ死んだことが確かならおそらく幽霊なのだろう。
「てか名前教えてってば。私正体教えたよ」
「まあそうだな。でも常識的に考えてみれば自分から名乗るものだろ」
「それもそうだね。私はね葵っていうの」
彼女は満面の笑みで言った。そこまでの事か?
「あおい?」
俺が名前を聞き返すと彼女の顔は少し残念そうな顔をになった気がする。気がするだけだからおそらく気のせいだ。
人っぽい名前だなまあ幽霊なら死ぬ前は人か。
「やっぱ嘘」
「は?嘘」
「だって覚えてないって言ったじゃん。」
そんな自信満々にそんなことを言われても困る。てか逆ギレ気味にこちらを睨むのはやめていただきたい。
「で?俺はなんて呼べばいいの?」
「そうだなあ。うーん。私幽霊だからそこからとってレイって呼んで」
まんまって言えばまんまだな。なんかこいつガキっぽいな。
「えっと。俺は高松 文也だ。まあ呼びやすいように呼んでくれ」
あれなんか俺も自然と呼んでくれとか関係持つ気まんまんじゃん。絶対にめんどくさい事になるって分かってんのにどうしてだろう。
「じゃあ。文也くんにお願いがあります!」
「は?めんどいからやだ」
よしちゃんと断ったぞこれで面倒事には巻き込まれないはずだ。
「ちょっと待って」
俺は先ほどまでとは違うレイの声のトーンにさっきまでに適当に答えることはできないことを悟る。
「私ねもう死んじゃったの。だから普通の人には絶対に見えないの。でも文也は私が見えてるだからそれはなんかしらの意味があると私は思うの」
レイはさっきまでの笑顔とは違い涙声で訴えてきた。
「そうだな。死んでるから壁とかもすり抜けられる。つまりお前は生きてる時以上に出来ることは多いんじゃないか?」
「そんなの出来ることじゃない!できるようになりたくて出来たんじゃないもん!」
俺の発言は間違いだったか。できることが増えた分俺にお願いすることなんてないと思ったんだがそうでもないらしい。
「私はね。もう絶対に出来ないことがあるの」
「それってなんだ?」
「文也がいま一番嫌いなもの。そしてそれは私にとって一番大事もの。それはね青春だよ。」
確かにな俺は青春なんて嫌いだな。意味無いだろそんなの。でもレイはそうじゃないんだな。でもレイに青春を送らせるなんてこと出来ないぞ。
「そうだな。俺は嫌いだな。で?お前は何をしたいんだ?」
「私はね文也私みたいに青春で後悔して欲しくない。青春ってのは私みたいに途中で離脱してしまう人もいるけどほかの人はだいたい時間とともに青春を卒業するの。だからその大事な青春を無駄にして欲しくない!」
それを頼む相手が俺か。全く運命の神様がもしいたらそいつは太陽以上にアホだな。青春なんてクソ喰らえって思ってる俺の目の前に青春しきれないで後悔している幽霊を連れてくるなんて。まったく。
「なるほどな。でも俺は青春なんてどうでもいい。」
レイはもう泣いていた。必死に我慢している様子だがもう限界であろう。
「でもなお前みたいな奴はちょっとかわいそうだ。俺がどうでもいいのは自分の青春であって他人の青春じゃない。俺も太陽に後悔してもらうのは困るからな。」
「えっ?」
「俺でいいなら手伝うぜ!どうせ帰宅部の俺はめったに忙しいことなんてないからな。」