勇者の旅立ち(3)
ウルが言った場所は森の近くだった。
「あ、言い忘れてましたけど、何でここに人が全くいない理由は、最近森から魔物が出てくるようになったからなんですよー。」
ねぇ、だから先に言って。俺めっちゃ困るから。どうすんのよ、勢い良く飛び出したはいいけども。
「魔法の使い方は戦いながら教えますね。それと、この剣をあげますので存分に戦って下さい。剣道やってたんですからある程度は扱い方分かりますよね?」
あれ、何でこいつ俺が剣道やってたの知ってるんだ?まぁ、天使って名乗るくらいだから、何でもお見通しなのかね。
「分かった。それで俺が使える魔法は?」
前に友達が言っていたが、こういう異世界転生した奴は特別なスキルがあるらしい。少し、胸が踊る。
「頑張れば誰でも使えるごく平凡的なスキル全部です。」
期待した自分が馬鹿だった。そうだよな、転生しても本質は、俺が『平凡』ということは変わりはしないんだ。俺はそう受け入れた。
「ウル、とにかくあの人達に加勢すればいいんだな?剣は大丈夫だ。ある程度は分かる。」
「では大丈夫ですね。さぁ、行きましょう!」
俺は最後まで下へ駆け下りると、そこにいた人達に声をかけた。
「おい、大丈夫か?加勢する!」
すると、返ってきたのは女の声だった。
「本当ですか⁉︎ありがとうございます、見知らぬ方。では左の魔物をお願いします!」
もう一人、男がいたが防御に集中していたのか、一瞥しただけで何も答えなかった。
「いくぞ、ウル。取り敢えずかかればいいのか?」
「いえいえ、ここで天の知識書
の出番です!私を手に持って『測れ』と魔物の方を向いて下さい!」
「了解。測れ、天の知識書!」
俺が言ったと同時に、天の知識書が開き、目の前に文字が次々と現れた。
「なんだ、これ。まさか!」
現れた文字を読むと、名前・性別・耐性・弱点・攻撃パターン等、あの魔物「フォレストウルフ」についての情報が書いてあった。
・フォレストウルフ:弱点 炎系 斬
耐性 木・水系 衝
「フォレストウルフは火を怖がります。ですから、火属性の魔法で動きを単調にして、剣で叩っ斬りましょう!」
「俺を測れ、天の知識書。」
「…ファッ⁉︎」
違うよウル。先にやるのは自分に何ができて、何ができないか、なんだよ。『平凡』だった俺が、『天才』に勝つ為に見つけた事。
結局、『天才』達には負け、自殺したけど。「転生してからずっと、考えていたんだ。何で俺が転生したんだろうって。こんなどうしようもなく『平凡』で、学ぶしか脳が無い俺。」
答えは出なかった。けれど、代わりに転生前に気付かなかった事に気付いたんだ。
「続けて魔法、この剣を測れ。」
それはーーー
「俺は学ぶのが楽しかったんだ。学んで自分がそれらを身に付けて、誰かに教えたり、それがとてつもなく楽しかった。」
そして、学べなくなったから俺は自殺した。
けど今は、また!
「ウル、こいつを倒したら目的を全て話してくれ。そして目的を達成する為に、俺にもっと学ばせてくれないか?」
取り敢えず、このフォレストウルフを片してしまおうか。そうだなぁ、単純に火でやるのもつまらないし、さっき見て面白そうだなって思ったこれでやるか。
「ファイア・アクア・グラス・シャイン・ダーク。此れなるは魔力の五大元素の始まりの魔法なり。」
フォレストウルフがこっちに攻撃してくるが、全て予測済みだ。さっき学んだからな。
「古きは新しきに追い越される。然し、交わる事で新しきをも超える!」
誰でも使える5つの『平凡』な魔法が交わり一点に集まる。おれと相対していたフォレストウルフだけでなく、あの2人が戦っていたフォレストウルフも森へと逃げている。あの2人は森とは反対の方へ走っている。
「嘘、ですよね?何でついさっき見ただけで魔法の奥義の1つができるんですか?」
よし、今だ。
「ご覧に見せよう!五大魔素複合魔法『エレメンツバースト』!!」
放たれた魔法は巨大な一条の光線となり、見事フォレストウルフを殲滅した。
ただし、森もろとも。
「あっ……」
そして俺は意識を失ってその場に倒れた。