90歩目「旅は続く」
『Side マルス 馬車の中』
事件から数日後、馬車は一路西を目指して走って行った。
小鬼たちは随分マルスたちが去ることを残念がっていた、特に大鬼のオグリアスは
「せっかくの好敵手が居なくなるのは残念じゃな」
と寂しそうに笑っていた。
木乃美が居なくなった日、小鬼を率いて彼女を探しに行ったマルスは、睨み合う王国軍と帝国軍に挟まれる形になった。
ラドリオが飛び出した後数十分後、思いの外小鬼たちと荷物を井戸から外に出すことに苦労したラドリオ達が洞窟から出ようとした所、すぐ外で二つの軍がにらみ合いをしていたのだ。
うかつに動けばどうなるか分からない状況、マルスたちも思うように動けず半日ほど膠着状態が続いた後、やっと動けると思ったところにラドリオが来て全て終わったことを告げられたのだ。
何もできなかったこと、そして何も頼られなかったこと、怒りや安堵といった様々な感情をどうすればいいか分からずマルスは怒ったような顔をして黙り込んだままだ。
なにせこの数日喋ったのは
「黙れ」「正座」「寝る」の三言だけなのだ。
「あの……」
先ほどその二言目で正座をさせられた木乃美が様子を窺う様にマルスを見つめる。
ラドリオも何か思うところがあるのか、馬車の旅を始めたばかりに比べると別人のようだ。
「……はぁ、このまま黙っていても何も変わらないか。おい木乃美、どうして一人で行った?」
「一人で行かないとダメだって書いてあったから……それに」
「……ああ」
厳密に言えば木乃美は一人であって一人ではない、十分話し合った上の決断だったと言いたいのだろう。
マルスもその判断をするに至った理由は分かるし、同じ状況ならば同じ行動をすると思うのだが、それと納得できるかどうかは話が別だった。
「……だとしても、相談しろ。あいつ等には言葉に出さなくても通じるだろうが、俺たちには通じん」
「うん」
もう足を崩せと手をヒラヒラさせてマルスは座り込む。
「俺たちってことは、俺もお仲間って認めてもらえたってことかな?」
「……そうなるか」
きっかけを探していたのか、ラドリオがからかうように話に加わる。
「じゃあそろそろ教えてくれないか? 嬢ちゃんのアレは一体どういう仕組みなんだ? 本当に魂を飼ってるってわけじゃないよな?」
「そういえば説明してなかったか」
説明しようかと思ったラドリオだが、怒り疲れて来たのでまた後でと言って目を閉じた。
まだまだ旅は長い、これから先説明する機会は幾らでもあるだろう。
次の目的地は、帝国領旧ホスピア公国、宗教と帝国の英雄の御膝元だ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
第二章無事終了です。




