90歩目「トーラの憂鬱」
『side 王都・勇者連合・発明王の実験室 発明王トーラ』
「悪いニュースとすこぶる悪いニュースがあるんだけど聞きたい?」
「聞きたくはないがどうせ話すんだろ? 相棒」
王都、数ある英雄の頂点の部屋、別名発明王のおもちゃ箱と呼ばれるこの部屋は、中に入れるものが限られている。
至高天の英雄、もしくはその従者、あるいは国王と付き添いのみだ。
そして専ら外から情報を仕入れるのはこの部屋の主、発明王トーラである。
もう一人の至高天、王国英雄の切り札と呼ばれるもう一人の男は、くたびれたジャケットをきてだらしなくソファーに寝そべりながら気のない返事を返した。
「悪いニュース、帝国が小鬼と条約を交わしたってさ。高官連中は野蛮だなんだと散々わめいていたけど、大義名分にリーチをかけられたって分かってないみたい」
「こっちから仕掛ければ、同盟者を守るため。こっちに出てきたハグレ小鬼を狩ったら、同盟者を殺す非道な国を潰す為ってところか……戦争は嫌だねぇ、面倒だから」
そう言いつつも男はにやにや笑いを隠さない。
戦争は面倒だが、王国と帝国の全面戦争となれば帝国の切り札が出てくる可能性がある。
酒をあおりながらニヤニヤ笑う男にトーラは戦闘狂めと小さくつぶやいて話を続ける。
「すこぶる悪いニュースは、バリーの坊やが死んだ」
「……いいやつと有能な奴から死んでいく。変わらねえな」
「だからあんたは死なない訳だ」
ひでえ嬢ちゃんだと笑いながらも、帽子を脱いで男は冥福を祈るような仕草をする。
トーラもそれに倣って目を閉じた。
バリーはトーラの弟子でもあり、男の部下でもあった、少々自分の仕事に夢中になる気質だったが有能な男ではあったのだ。
「ヤッたのはやっぱりあの子か? 何とかの魔女の」
「報告ではね、何でも銃使いの姿を持ってバリーを倒したらしいよ」
「……なるほど、ムキになる訳だ」
そう笑いながら男は部屋を出ていこうとする。
「……ダメだからね?」
「俺が負けると?」
トーラが何かしらのスイッチを押すとドアに金属製のシャッターが落ちる。
王国最強を留めるには力不足だが、足止めにはなるだろう、数分もすれば足止め要因も到着するはずである。
「相手はもう帝国領内……しかも向かった先は旧ホスピア公国領。聖騎士団のおひざ元にアンタが行ったら大変なことになるでしょうが」
「戦争になるってか?」
「戦争以前に住人が何人巻き添えを食うことか。魂の魔女は得体が知れない、今はまだここにいなさい。アンタの好きなボインボインのお姉ちゃんがもうすぐ来るから」
「気が利くねぇ、流石相棒」
シャッターを開けると男は楽しそうにスキップをしながら自室へと戻っていく。
「……いい歳のくせになにやってるんだか。マハリ……アンタの客は厄介な存在になりつつあるよ」
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