9歩目「ラドリオ先生の生物の授業」
王国の西には帝国が勢力を広げてきており、街に来る前にマルスが見た通り防衛網に守られている。しかしそれらの国境で起きていることは建前上『勇者組合の英雄と帝国軍の小競り合い』ということになっており、実際に戦争状態になっているドラゴニアに比べればまだマシということをラドリオは言いたいのだろう。実際マルスたちも事前の情報からそのルートを通るのだろうという予測を立てていた。
「しかし大きな街道は検問が厳しくてな、俺は許可証を持っているんだが物品限定で人を運ぶ許可はもらってないし、王国の魔法式審査と帝国の機械式審査を両方掻い潜るのは難しい。そこで俺たちの通るルートはこうだ」
ラドリオがキャニオリアから北西、何やら十字にまじりあう谷を抜ける様なルートを指で描く。大きなの街道からは離れているが、谷を越えた先にはいくつかの小さな町があるし小さい街道もある。谷を抜けるのが面倒そうではあるが理想的なルートにマルスには見えた。
「ただ問題が一つある。ここは亜人族最後の支配領域だ」
「あの、亜人族?キャットさんいえ獣人の町とかがあるんですか?」
「その様子だと怪物の種類も良く分かってないか」
しかしいつも以上に木乃美が積極的に質問しているように見える。マルスにはやや無理して質問をしているように見えることから、同やらマルスに対して失言しまったことを挽回しようとしているようだ。理由は兎も角木乃美の態度はマルスにとっても望ましい物ではあるのだが、どことなくマルスは気に食わない。
「モンスターの定義は難しいな、その種族の英雄だっている。単純に五種類に分けられて、野犬やら狼やら人を襲う獣たちを猛獣種。竜やその眷属たちを竜種。不死の属性を持つ幽霊や化け物たちを不死種。帝国が力を入れて開発してるいる人工生命が多い機械種。そして人に近いが人にあらざる者たち、亜人種だ」
モンスターについては気になることがマルスにはあった。今まで散々モンスターに警戒だの護衛だのという話を聞いてはいたが、実際にマルスたちが襲われたことはない。精々野犬の群れが近くを通った程度だ。
「しかし、猛獣種はともかく他の連中は本当に居るのか?俺たちはあったことがあまりないんだが」
「あーそりゃこれだけ強い英雄がいるんだ。人に被害を与えるような凶悪な奴は殆ど駆逐されて残ってない。それに竜種、不死種、機械種は分布が偏っているからな」
ラドリオによると竜種はドラゴリアができてからは殆どがそこに移り住み、不死種に関しても不死者の国ができてからそこ以外ではほとんど見かけなくなったそうだ。そして最後の亜人種は。
「帝国の拡大に合わせ、人に危害を与える様な種はほぼ絶滅、人に友好的な種は『希少種族保護』の名目で帝国に特別移住区画を作られてそこで住んでいるんだ。まあ保護なんているのは名目で良くて檻に入れられて飼われている獣と大差ない。種族によっては完全に実験動物化しているそうだ」
だから保護区以外で亜人種が見られるのは、その種に近い英雄か未だひっそりと隠れ住んでいる小数の集落か、十字の谷の地域だけなのだそうだ。
明日から脱出作戦開始。の前に食事です。