89歩目「敵対者」
『side 運び屋 ラドリオ』
爆発後に駆け付けた俺の目に移ったのは血塗れの王国の英雄に銃を突きつける、同じく血塗れの嬢ちゃんだった。
谷の上に布陣していた連中は、俺とジェラートが飛んでくるのを見てあっという間に逃げて行ってしまった。
潔いというべきか薄情というべきか。
まあ俺に気付く前の恐怖でひきつった表情を見ればそれも仕方ないのだろうか?
「……大丈夫か?」
「遅かったな……もう終わるぜ?」
どっちも血塗れで勝ったのか負けたのか、よくわからない状況だったが近づいてみれば傷の違いで一目瞭然だった。
相手の方はズタボロだ、致命傷こそ受けていないがこのまま放置すれば間違いなく失血死するだろう。
嬢ちゃんの方は見た目は派手だが、殆ど軽傷のようだ。
ようだと曖昧なのは、足取りがやけにふらついているためだ、魔法のことは良く分からないが見た目では分からないダメージを負っているのかもしれない。
「さて」
嬢ちゃんが躊躇なく相手の額に銃口を突きつけ、撃鉄をあげる。
「おいまて!?」
慌てて撃鉄ごと銃を掴みあげる、構造上こう掴みあげれば弾は出ない筈だ。
「待て? おい何のマネだカウボーイ。お前はどこの保安官のつもりだ?」
「お嬢ちゃんの言っている意味は良く分からないが……殺す必要はないだろう? こいつはもう動けない、仲間も既に逃げ出した後だ。その上撃ち殺す意味が分からない」
正義を気取っているつもりはない、でもだからと言って奪う必要もない命を奪う必要はないはずだ。
ましてや予防の意味で奪う必要もだ。
俺の答えに嬢ちゃんは小さくため息をつくと、掴まれていない方の銃を引き抜き構える。
俺の額に向けてだ。
「随分お優しいな、このまま失血死するのをみてろと?」
「違う、最低限の治療をしてやって―――」
「―――ラドリオがどんな過去を持っているかは知らねえし、無理に聞く気もねえ……ただ俺の邪魔をしてくれるなよ。これは『決闘』なんだそしてどっちかが死ななきゃ『決闘』は終わらねえ。もし奪う気がないなら決闘までいかないんだ。こいつは俺を撃ち殺そうとしたし、立場が逆なら遠慮なく撃つぞ? それでも俺に慈悲の心を持てと?」
俺は言葉に詰まった。
言い返せることはいっぱいあったはずだ、でも言い返せなかった。
彼女のその声は怒声であるはずなのに、泣き声の様に聞こえた。
「……生き残るっていうことは、敵対者を無くすってことだ。隠れてもいい、逃げてもいい、説得してもいい。できるならな」
まるで自分に言い聞かせるように彼女はそうつぶやいて引き金を引いた。
脳天を撃ち抜かれゆっくりと倒れていく敵を彼女は微動だにせず見つめていた。
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