86歩目「決闘」
谷と谷が交わる中心は、他の部分より一段深くなっており小さな橋がかけられている。
橋の下に何やら装置が見えているのだが、黄は見えないふりをしながら橋へと進んでいく。
「……これは笑いが止まらないな」
笑いが止まらないのは見え見えの罠に苦笑しているのか、あるいはこれから始まる戦いを前に興奮しているのか黄自身も良く分からない。
一つ言えることはこの顔は相手から身えば随分生意気に見えるだろうということだ。
現に彼方のガンマンはこめかみをぴくぴくさせている。
「そして手を隠そうともしないな」
その手は既に腰のガンホルスターに伸びている、抜くのを自制しているのは黄が罠に嵌るのを待っているからだろう。
だったらその手自体も自重すればいいのにと黄は笑みを深くする。
ギシギシと嫌な音を立てる橋を渡る、仕掛けの合った場所は目の前だ。
恐怖がない訳ではない、表情は笑みで固まって入るが内心は恐怖と不安でいっぱいだ。
助けはこない、マルスやラドリオ達は恐らく助けに来る前に勝負はついてしまう。
それが向こうの勝ちで終われば、マルスやラドリオも同じ運命を辿るかもしれない。
目の前に待ち構えているのは、プロの軍人……王国の英雄が国の軍人なのかはともかく……それが考えた必勝の手だ。
それも汎用ではなく、二度の戦いから分析された黄専用の必殺の布陣。
内容も分からないそれを黄は正面から突っ込んで突破するしか手はない。
これで恐くないのは本物の狂人だけであろう。
「(だからといって弱っている所、怯えているところを見せる訳にもいかねぇ。いいさ、このまま笑みを浮かべて進んでやる。精々狂人らしく振舞ってやろう、相手は思い通りにならなければ焦る、焦ればミスが生まれる。俺はそのミスから生まれる隙に飛び込むしか勝機はないんだ)」
本当は今すぐ振り返ってマルスたちに助けを求めたい。
分かり切っている罠をすべて破壊してやりたい。
少しでも自分の優位にもっていきたい。
だが黄にそれはできない。
黄が逃げ出せば彼らはそのまま小鬼の元に攻撃を開始するだろう。
罠を破壊したりして優位な状況を作り出せば、相手のガンマンはすぐに撤退することを選ぶだろう。
一度撤退を許してしまえば、相手は今回以上に策を練って、より必殺の布陣を引いて襲い掛かってくるに違いない。
「(ならばこの場で……決着をつけてやる、決闘だ)」
黄は罠を踏むと同時に前に思いっきり踏み出した。
爆発が圧倒的に不利な戦いの合図となる。
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