85歩目「そして一歩目へとつながる」
『Side 黄 十字谷中心より数百メートル』
作戦は決まった、決まっていたといってもいいが。
数百メートル先、十字に交わる谷の中心点の向こうで奴が、あのガンマンが待っている。
相手がすでに立っていてこちらはゆっくり歩いて向かっていると、まるでこっちが遅刻しているような気分になってくる。
時間はまだ指定の時間になっていないはずだが、なぜこっちが後ろめたい気分にならないといけないのか。
悩んでいてもしょうがない、せいぜいゆっくりと歩いて相手を焦らしてやるとしよう。
「……ほう」
顔を動かさずに眼だけで周囲を探る。
うまく隠れているみたいだが、谷の上に結構な数が待ち伏せしている、予想通りとはいえいい気分はしない。
足元にも地面を掘り返した跡がいくつか、地雷かあるいは何かの魔法の仕掛けか、上下左右から徹底的に攻めて来るらしい。
恐らくだが援軍は見込めないだろう。
こっちが一人で来るかどうかは木乃美の胸の内次第なのだが、そんな運と勘任せでこっちを呼び出したりはしないだろう。
帝国も多少は動かしているに違いない、❘小鬼たちは間違いなく彼らを監視するために釘付けになる。
この布陣で一番の問題となるラドリオ……正確には彼のジェラートだが、こいつも奴らに取っては初見ではない。
伊達に大陸の東を収めている大国ではない、確か王国は龍の国と戦争中のはずだ。
この世界の龍がどんな生態系なのかは分からないが、コモドオオドラゴンよろしく地面を這うだけのでかい蜥蜴というわけではないだろう。
高速で飛び回る、あるいは空から炎を吐くような龍が相手ならば高度な対空用魔法か、対空兵器が存在すると思われる。
対ドラゴン対策がジェラートに応用できるのか、優位はどちらに傾くのかは分からないが、こちらの動揺に必殺に近い布陣なのは間違いない。
ジェラートの足は間違いなく速いがそれでもこちらの応援には間に合わないだろう、そのように布陣するに違いない。
「自称ご主人様は……まあ間に合っても役に立たないか」
マルスの『魂砕き』は人に対して一撃必殺の威力を持っているが、集団戦と遠距離戦では役に立たない。
その能力に関係なく相手を理不尽に戦闘不能にする技は凄まじいが、肉体的には年相応か少し上、頭はキレるが戦いでは役に立たない困った魔王だ。
「……それでいて、心配性だからなあいつも」
谷の中央までもう十数歩しかない、あの場についた瞬間に逃げ場のない攻撃が加えられるだろう。
援軍はない。
救援もおそらくない。
それでも俺は死ぬわけにはいかないのだから、進むしかないのだ。
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