75歩目「ラドリオ物語2」
ラドリオのたどり着いた戦場は『地獄』だった。
新兵器により歩兵、竜騎兵、砲兵、将校や一般兵問わず、あらゆる兵が死と隣合わせの戦場。
地上は死者で、いや死者の残骸で溢れ、空は砲弾と血の雨が降る。
ラドリオが参戦した戦争の中で最も激しく、そして歴代の戦場で最も死者を出した戦場だ。
その戦場を見た、いや体験したものは口をそろえてこう言うそうだ。
「あの戦場は地獄だった、唯の地獄じゃない二種類の地獄が混じっていた。初めは泥沼のような地獄、誰も彼も死と狂気に絡めとられて沈んでいく地獄だ。そして死神の鎌が現れた」
戦場を行くラドリオの顔色は悪い、青を通り越して蒼白と言っていい、時折何度も吐き気をこらえるような仕草をする。
そんな様子を見て小隊長は大きくため息をついた、期待されていた天才児も戦場に出てみれば肝の小さい、死体や血の匂いで吐き気を催す餓鬼かと。
事実は違った、ラドリオはそのような戦場の空気に酔っていたのはない。
彼の耳にはいくつもの悲鳴と断末魔が響き渡っていたのだ。
「(なんだこれは……ドラゴンや馬の……悲鳴? )」
ラドリオは誰よりもドラゴンライダーとして優秀であった、優秀過ぎるが故に一つ危惧されていたことがある。
ドラゴンとライダーは絆を結ぶことでお互いの感情や言いたいことがなんとなくわかるようになる。
優秀ならばより明確に、ラドリオに至っては普通に会話するかの如くドラゴンと心を通させていた。
そして優秀過ぎる物は稀に、絆を結んでいるドラゴン以外の周囲のドラゴンとそのライダーの感情を読むことができるのだ。
ラドリオに聞こえてきたのは、戦場中のドラゴンとライダーの苦痛や悲鳴。
それはドラゴンだけに及ばず、騎馬と乗り手にすら及んだ。
戦場の緊張感が限界以上の力をラドリオにもたらしたのか、多くのドラゴンが集まったことにより絆が混線したのか。
ラドリオの頭の中は段々と、悲鳴と苦痛に支配されていく。
自分の物ではない狂気、流し込まれる苦痛から逃れるすべはない、それでも体と意識は本能的にそこから逃げようとした。
「しっかりしろ、ラドリオ少尉」
最初はだらしない新兵だと叱咤していた上官も、ブツブツ小言をつぶやきながら段々と増していくその狂気の瞳に普段を感じ声をかける。
その時にはすでに手遅れであった。
「……さなくては」
「は?」
「……悲鳴を上げさせる物をすべて潰さなければ」
乗り手の狂気はドラゴンにも伝播していく、上官が止める間もなく、ラドリオ達は敵陣へと飛び込んでいく。
そこから先は戦闘では無かった、虐殺、或いは狩りだ。
ラドリオの圧倒的なライダーとしての能力は余すところなく敵兵を殲滅することに使用された、圧倒的な速度と操作能力で多数のドラゴンを切り裂くその様は、空を舞う死神の鎌に見えたという。
撃墜123、重傷329、不明120。
一人と一匹で500近いドラゴンを戦闘不能にし、のちに南風の死神と呼ばれたラドリオの最初にして最後の戦果であった。
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ラドリオ編が終わったらいよいよクライマックスです。




