73歩目「強行偵察」
下から珍妙な物を見る目で見られているとは露知らず、ラドリオはジェラートを操り井戸を上っていく。
「おっけい、ストップだジェラート」
井戸から頭が出る少し手前でジェラートを止め、ラドリオはその背で立ち上がり井戸から頭を出して周囲を確認する。
「本当に誰もいないみたいだな……よしジェラート、上がるぞ」
敵がいないことを確認すると、ラドリオは再びジェラートを『操作』する。
馬のように振る舞い、手綱を引けばついてくる程度のことは出来るが、基本的に『ジェラートは自我をも立たない機械』である。
馬の真似事は『そういう機能』であり、馬にはできないことは全て搭乗者が『操作』する必要がある。
ジェラートの、いや試作型錬金馬車の操縦が難しい最大の要因は、『操作に関する取扱説明書』が存在しないことだ。
何処をどう弄ればいいのか? 何ができるのか、何ができないのか、そしてどこを弄ってはいけないのか? それを知っているのは発明王トーラだけだ。
最低限動かすためのマニュアルはある、トーラが文字と図解で分かりやすく表現したものだ。
それに沿って動かすことすら
「自分は愚か騎乗の天才にだって無理、出来たら変態」
トーラは試作型の評価についてそう言ってのけた。
では馬が壁を上ることは最低限に含まれるのだろうか? 勿論含まれるはずもない。
本当にこの場に王国側の人間が、特にトーラやその弟子たちが居なくてよかった。
もしラドリオが試作型を完璧に扱う姿を見たならば、国の不利を差し置いても捕まえに来たことだろう。
閑話休題として。
ジェラートと共に井戸の外に出たラドリオは、ジェラートを本来の姿、飛行形態へと変形させる。
「おい、外の様子はどうだ!」
「本当に誰もいないみたいだ……マルスの坊や、俺は先に行くから後よろしくな!」
「よろしくってなんだ! おい!」
マルスの声を無視してラドリオはジェラートを発進させる。
本来かかるはずの強烈なGをジェラートの機能で緩和、銃弾のようなスピードで洞窟から空へと飛び出した。
「あんまり速いとお嬢ちゃんを見逃すけど、遅いといい的だしな……高度は高くても低くても駄目。ジェラートに感知能力でもあれば楽なんだけどな」
ジェラートに搭載されている感知器は全てジェラート自身のためのものだ。
それだけ様々な数値を監視していないと安全に飛ぶことができないからこそ、トーラでも扱いきれないのだ。
周囲を見ている余裕など本来はない、そのため何かを探したり察知したりするのは搭乗者の仕事だ。
それゆえに発見が遅れた。
気づけば数本の赤い光がジェラートを追尾してきていた。
光は既にすぐそこまで迫っており、回避する余裕なんてなかった。
「ジェラート、防御を―――」
空に巨大な花火が上がった。
いつもお読み板だありがとうございます。




