69歩目「雪原の黒猫」
完全に日をまたいでしまいました。
木乃美の目撃証言はあっという間に集まった。
理由は簡単だ、目立つからである。
マルスから見て木乃美の外見は、例えるならば黒猫だ。
同じ猫たちの中に居てもそこそこ目立つし、他の駄猫と比べても
器量のいい方だと思っている。
それでも高級な猫に囲まれるとやや目立たなくなる。
マルスにとって木乃美はそんな|猫|《女》だ。
人間の街中では、多少骨が折れるだろうが探せば見つかるだろう。
森の中では難しいかもしれない。
あくまで木乃美に限ったことで、他の人格は分からないが、マルスの知る限り隠密に特化した人格はいない筈だ。
そしてこの聖都では木乃美はとんでもなく目立つ。
聖都には人間は居ないし、木乃美は賢者様と呼ばれていて、その顔は宴会に参加した小鬼ならばみんなが知っている状態だ。
先ほどの例えになぞらえるならば、一面真っ白の雪原に黒猫が一匹いるようなものだ。
隠れようが忍ぼうがどうあがいても目立つ。
「つまり、嬢ちゃんは自分の意志で出て行ったってことか?」
「そういうことだろうな、手紙もあるし部屋が荒らされた形跡も、何かが侵入した形跡もない。そして自分の足で出て行ったことは十数人の小鬼が保証してくれている」
早朝、部屋から出て歩いている木乃美に集会所の歩哨が声をかけている。
その後街中を歩いているのを、通りの肉屋の女将さんが見ている。
さらに聖都の出口へと続く道を警備している小鬼にも声をかけている。
挙句の果てには聖都の扉を警備している小鬼に
「少し外を散歩にし行きたいのだけれど……構わないかな?」
と自ら目隠しをして声を欠けたそうだ。
「そして、この手紙だ」
木乃美の部屋に残されていたのは、昨晩木乃美に届けられていた手紙だ。
ただし一部内容が異なっている。
木乃美が実際の呼び出されたのは谷の南側、谷と谷が交差する場所なのだが、この手紙には生徒の北側の大地に来るように書いてある。
黙って出て行った木乃美が、わざわざ行先の分かるようなものを残していったことにマルスはわずかな違和感のような物を覚えたが、そのことを深く考えるよりも先に、彼女をひっ捕まえることが先決だと気持ちを切り替えた。
「この場所ならばよく知っております、我らも参りましょう。行けばきっと戦いになります」
「いや、そこまでは」
「ぜひ頼む」
完全武装、といっても粗末な毛皮や医師の武器や防具ではあるが、武装した小鬼たちの援軍を断ろうとしたラドリオをマルスは逆にとめる。
「おいおい、こいつらを危険な目に合わせるのか?」
「逆だ、条約のお蔭で王国は連中に手が出せない。一緒にいた方が安全だ」
「……分かった。ただ俺はジェラートで先行するからな?」
事態は王国の思惑通りに進んでいく。
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