7歩目「運び屋ラドリオ」
「悪いね、三人とも。生憎そのお二人はお楽しみ要員じゃなくて俺の客だ」
救いの手は意外な所から現れた、一番外れの席で一人ニュースの書かれた紙を読んでいたらしい青年だ。さっき一通り見渡した時にマルスが一番脅威度が低いと判断した人物でもある。だぼっとした皮のズボンにシャツとベスト、羽で飾られた独特な帽子をかぶっており武器らしい武器は持っていない。小麦色の肌で体格は小柄だが健康的な青年だ。木乃美も若干不安そうに彼を見ているところ見るにマルスと同じ印象を受けたのだろう。第一印象は『特徴的な変わった格好の頼りない青年』だ。
「ちぇ、なんだよラドリオの客ってことは訳アリか……ってお前さては俺らで様子見しやがったな?」
「悪い悪い、客か俺狙いのお上の人間か区別がつかなくてな。今度帝国の酒をお土産に買ってくるから勘弁してくれ」
ぶつくさ言いながらも散っていく三人の代わりにラドリオと呼ばれた青年がマルスたちの席に着く。先ほどの様子を見るにマルスも彼の評価を改めなければいけない。弱腰ではあるが荒事への対処も慣れているようだし世渡りも上手そうだ。運び屋ということは各地に知り合いがいるだろうし初めての場所で馴染むのも上手いだろう。
「で、あんた達がマハリの姉御が紹介してきた客ってことでいいのかな?女の子と男の子供のコンビで大人し目の美人ちゃんと世渡り上手で生意気なガキって聞いてるけど」
「そんな、美人は大げさです」
「誰が生意気だ、俺は誇り高き……まあいい、俺はマルス・ウル・ゲヘナ。こっちが下僕の木乃美だ」
「下僕……せめて手下とかにしない?」
木乃美の文句を無視しながらマルスは手を伸ばしかけてやめる。握手はマルスの世界でも木乃美の世界でも友好の行動であったが彼やこの世界では同様なのかは分からない。まだまだこの世界について知り尽くせていないことをマルスは痛感した。
「なるほど、おまけに世界に不慣れって所も情報通りだ。握手はこの世界でも友好のしるしだよ、よろしく」
苦笑いしながら好みに握手を求めるラドリオに木乃美がおずおずと握手を返す。ここは自分に握手を求めるべきではなかろうか?と思いつつも余計なおしゃべりをしている暇はないとマルスは改めて話を促す。
「それで、何処まで聞いているんだ?」
「二人が英雄で、早めに王国から離れたいって所かな?これだけなら普通だけど随分多めにお金をもらったから他にも秘密があるんだろ?」
「うん、私たち指名手配されていて、おまけにマルス君は魔王なの」
「おい!?」
だからお前は話すなと言っておいたのにとマルスは頭を抱える。今の二つの事項は恐らく隠しておくべき事項だろう、下手に追手がいることを知らせて相手が尻込みしたり仕事を拒否したらどうするつもりなのだ。
「あーやっぱそんな感じか……ああ俺も英雄だしついでにフリーランスだからあんた達をどこかに突き出そうとも思わないよ。仕事はきっちりこなすから安心してくれ」
新キャラ登場、英雄ラドリオ君はラテン系のイメージです。