69歩目「マルスの朝」
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目覚めは最悪だったと言っていい。
のどがカラカラに渇き、嫌な汗が全身をじっとりと湿らせている。
枕元に置かれていた、机……いやそんな上等なものではない、岩だ……そこに置かれている水差しのつもりの壺から水を飲む。
一息ついてからマルスは零す様に悪態をついた。
「くそ、最悪の目覚めだ」
今までは状況は兎も角、眠る時には近くに人がいた。
村にいた頃は監視のつもりなのか村長の娘が一人傍に控えていた。
奴隷商人、いや職業斡旋業の連中に捕まった時は近くに連中がいた。
桃の色の蜂蜜亭にいた時は木乃美が同室であったし、ここまで逃げてくる時も旅費を節約するため二人部屋を選択していた。
久しぶりに一人で床に就いたからだろうか? マルスは久しぶりに昔の夢を、悪夢を見た。
燃える屋敷、泣き崩れる女、そして血まみれで倒れるメイド。
この国、いや世界にいた時の話ではない、マルスの世界にいた時の話だ。
それも記憶も曖昧な小さなころの記憶、滅多に思い出すことはなかったのだが……
「……寂しかったっていうのか? 俺が?」
自嘲気味に苦笑してから、マルスは耳を澄ませる。
周囲は活気づいているようで、睡眠時間だけはしっかりと取れたようだ。
「……時計が欲しい所だな。今は一体何時なのか」
この世界にも時計があることはマルスは確認している、そして自分の世界同様にそれが高いこともだ。
ちなみに一拍が1セク、60セクで1ミニ、60ミニで1アウ、24アウで一日が過ぎる。
読み方は違えど、マルスの世界と同じである。木乃美にも確認したが、彼女の世界も同じ時間配分だそうだ。
「……神様はよほどこの割合がお気に入りか」
ドアの外にいた小鬼にお湯とタオルを要求して持ってきてもらう。
こんなべとべとした体では外に出たくはないし、何より気持ちをスッキリさせたかった。
「……あの女中……似ていたな」
夢の中のメイドが木乃美に似ていたため、何となく心の中がもやもやしていたのだ。
「……木乃美、いや賢者殿の部屋はどこか?」
体をお湯で清めたマルスは、小鬼に彼女の居場所を尋ねる。
夢のお告げだとか、虫の知らせみたいなことを気にしている訳ではない。
気にしている訳ではないのだが、何となく今日は傍にいて……違う、傍に置いておきたかった。
「奴はまだ寝ているのか?」
「はい、恐らく……我々も先ほど来たのではっきりとは言えませんが
「おい、従者が主人より寝坊助とはどういうつもりだ!?」
部屋の前にいた小鬼に聞くと、彼女はまだ寝ているという。
マルスが心配……ではなく気にかけて来たというのに何たることだという気持ちでマルスはドアを蹴り開ける。
「ん?」
一瞬ノックすべきだったか? とも思ったが遅い、そこには衣類を脱ぎ捨て着替え中の木乃美が。
というようなトラブルもなく、そもそも部屋には誰も居なかった。
あるのは一枚の手紙だけだった。
「……夢に続いて嫌な予感がするな」
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