67歩目「深夜の密会」
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少女たちが文字通り、円卓会議をしている頃、荒野を一台の馬車が走っていた。
いや正確には馬車ではない、錬金馬車だ。
昼間に英雄部隊が使用していたものではない、彼らが使用していた実戦型輸送モデルは銀色の錬金術で作られた合金が特徴で、車体も並みの馬車よりも大きい。
今暗闇の中を走っているのは、車体の全てを光を反射しない特殊な黒い塗料で覆ったモデルで大きさも途轍もなく小さい、馬車とは比べるまでもなく馬ではなくロバが引くような小さな荷馬車と比べてもさらに小さい。
小柄な馬一頭分程度のサイズの錬金馬車が、馬車よりもはるかに速いスピードで走っているのだ。
その速さの割には音が一切しない。
動力となる錬金コアの駆動音は勿論のこと、足場の悪い荒野を走っているのに車輪が擦れたりぶつかるような音もしない。
さらには馬車には一切の明かりがなく、上がる砂煙ですら僅かな物だ。
この一人乗りの錬金馬車は、実戦型隠密モデル。
わずか一人しか運べない輸送力と乗り手の快適さを犠牲にして、敵や怪物に気付かれることなく進むために作られたモデルだ。
光を吸収する特殊な塗料は、夜間は闇に溶け込み、昼間は周囲の光を取り込み輪郭をあいまいにする。
駆動系と車輪には耐衝撃と静音の魔法がかけられていて、荒野を走る動物よりも静かだ。
御者台……というより運転席には暗闇でも見える暗視の魔法と、煙や空気抵抗を抑える風の魔法がかかっている。
その分車体は狭く、座っている運転者は殆ど身動きが取れないうえに、車体が軽いためスピードを出すと酷く揺れる代物ではあるが。
隠密タイプの馬車を駆るこの人物は、バリー隊長その人である。
彼が深夜に疾走しているのは十字谷から、馬車で南に数時間の辺りだ。
彼の拠点にしている町からもさらに南へ走り、そこから監視網に『あえて』開けてある小さな穴を抜けて帝国側へ。
彼がここに居ることは誰にも知られてはならないことだ、小鬼、街の人間や自分の部下たちそして師匠であっても。
暗闇を走る彼の目に、星が映る。
奇妙な星だ、地上すれすれで光ったり暗くなったりを繰り返している。
その『規則性のある光』を見たバリーはにやりと顔を歪ませながら光の方へと方向を変える。
光の先にいたのはバリーの錬金馬車と同じように黒い塗料に包まれた乗り物だ。
ただしこちらの動力は機械である。
「……こちらの緊急回線に応答していただき感謝する。少将殿」
両手を上げることで敵意がないことを示しながら馬車を降りるバリー
「できればこのような危ない橋はわたりたくないのだがね」
対して車の窓が開き、昼間マルスと話をしていたのと同じ人物が顔をしかめながら現れた。
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