65歩目「錯綜の夜」
「申し訳わけありません、我々の都市には人族用の宿泊施設はないもので……このような急増の物になってしまい」
「気にしないでください……お風呂ありがとうございました」
長い宴が終わった後、三人は宿泊のために神殿の奥に通された。
案内の小鬼の言葉通り、聖都に人間用の宿泊施設はないらしく(小鬼用の宿泊施設はそこそこ数がある)木乃美たちが案内されたのは、集会所として使われている神殿の奥の部屋だ。
普段神聖な場所として使われているため、奥の部屋は空き部屋となっている部屋が多く、三人が案内されたのはそんな部屋の一室だ。
宴の最中に急いで掃除をしたらしく部屋は綺麗で、ベッドの代わりに毛皮の絨毯とマントが置かれている。
これも小鬼用の物を改造した物らしく、幾つかのマントが縫い合わされた跡があった。
「お風呂に個室に至れり尽くせりだね、マルス君」
「そうだな……早く寝ろ」
この世界の宿は中堅以上ならば浴場があるのだが、木乃美たちは追われる身だったため、お金を節約するためにここ数日は風呂のない安宿に泊まっていた。
風呂文化の中で過ごしてきた木乃美には、お湯で体を拭くだけの生活が中々苦痛だったらしく、久しぶりのお風呂、しかも小鬼たちのお風呂は天然の温泉であったため、一番長湯をしていた。
人払いもされていたためゆったり浸かることができたのだろう、湯上りの木乃美はどことなく上機嫌だった。
反対にマルスはなぜか不機嫌というか、木乃美の方を見ていなかったが。
「……マルス君お風呂嫌いなんでしょうか?」
「……ある意味大好きだと思うぜ?……お休み嬢ちゃん」
ラドリオが苦笑しながら肩をすくめる。器用に両手いっぱいに酒瓶を抱えながらだ。
「まだ飲むんですか?」
「せっかくのただ酒だからな、浴びるほど飲むぜ」
「ほどほどにしてくださいね?」
苦笑する木乃美をラドリオがじっと見つめる。
「……何か?」
「いや、そろそろ俺にも砕けた感じで話してくれてもいいんじゃないかな? と思ったり思わなかったり?」
「……ラドリオさんは年上だから……善処します」
ラドリオに一礼して木乃美は自分のためにあてがわれた部屋に入る、ドアを閉めたのち……スカートのポケットから一通の手紙を取り出した。
この手紙は風呂上がりに木乃美に届けられたものである。
なんでも宴の最中に聖都の門近くに光と音の魔法を使い目立つように置かれていたそうだ。
差出人はなし、封筒にはただ一言だけ記されていた。
「魂の魔女へ、一人で読むこと」
しばらく夜です。
いつもお読みいただきありがとうございます。




