64歩目「宴は続く」
押しの弱い木乃美が主に料理を食べ、その結果を見てラドリオやマルスが料理を摘まむ。
実質毒見役になっている木乃美の恨めしい視線を無視してラドリオが上機嫌に酒を飲み、マルスはフルーツを摘まむ。
騒々しいながらも今までで一番充実した時間を木乃美とマルスは過ごしていた。
桃色の蜂蜜亭では、情報を集めたり悩んだりでここまで穏やかな時間を過ごした記憶はないだろう。
ここまでの道中は、慣れない演技や追手への警戒で心休まる日々ではなかった。
異種族に囲まれ見慣れない料理を前に、亜人たちが騒いでいる。
他の英雄だったら絶対に安心した気持ちで料理を食べることなどできないだろう。
つくづく自分たちは正道から外れているのだなとマルスはあらためて痛感した。
「マルス君……言いたいことがあります」
「言ってみろ聞くだけ聞いてやる」
思考にふけっていたマルスは、珍しく怒ったような声色の木乃美の声で我に返った。
気づけば世話役の小鬼たちも、それぞれ踊りに行ったり料理を追加しに行ったりして周囲には見当たらない。
やっと珍しい料理責めから解放された木乃美がマルスの頬を軽く摘まむ。
「……酷いよ」
「油断するお前が悪い」
木乃美の力加減は本当に軽くだ、文句は言うモノの力に物を言わせるつもりはないのだろう。
「そうかもしれないけど。だからと言って女性に毒見役を押し付けるのはどうかと思う。もし毒が入っていたらどうするの?」
「英雄に毒は効かないだろ? それに小鬼たちは平気で食べているんだ、食えない訳はない」
「毒の程度によっては毒が効くことは知ってるよね? 小鬼さん達は食べられても私たちには毒だって場合もあるかもしれないし」
木乃美の言っていることは最もだが、マルスは聞こえないふりをした。
しばらく彼女にしては珍しいしかめっ面をしていた木乃美だったが、マルスが気にせずフルーツや木乃美が毒見した肉を食べる様子を見て、小さくため息をついてから苦笑した。
「もう……困った魔王様」
「……怒ったり呆れたりできる程度にはリラックスできたみたいだな。偶にはゆっくり休め、部下をねぎらうのも俺の務めだ」
宴も夜に差し掛かったころ……さすがにラドリオは酔いつぶれてオグリアスと重なる様に倒れていびきをかいているし、木乃美は隣ですやすやと寝息を立てている。
マルスは水を酒に見立てて……流石にまだ飲めないのだ……コップを揺らしながら未だ元気に踊っている小鬼たちを眺めていた。
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