59歩目「同盟締結」
そこからの交渉は驚くほどスムーズに進んだ。
少将に侮るような気持ちが無くなったことと、マルスが持って回るような言い方を止めたことが原因だろう。
最初の帝国主導の実質的な隷属状態ではなく、大使館を置いて交易も、若干帝国有利ではあるがお互いに利益のある取引ができそうである。
帝国には、精霊の石を初め鉱物を、帝国からは魚介類や野菜や果物をが送られてくる予定らしい。
ゴブリースが持ってきていた印を使って、調印を無事に終わった。
「交渉成立だな……画面越しでは握手ができないのが残念ではあるが」
「そうであるな、貴方とは酒を交えて……流石にお酒は無理ですかな」
社交辞令半分本音半分くらいでマルスが笑い合っていると、腹に響く重低音と共にラドリオが木乃美と一緒に帰ってきた。
「おや、やはり女性一人では王国の精鋭英雄部隊の相手は難しかったですかな? それでも調印完了まで時間稼ぎをしただけで十分だと思いますが」
「王国の人たちは撤退しました……私一人だと危なかったですけれど、ラドリオさんが助けに来てくれたのでどうにかなりました」
木乃美の言葉に一瞬逃げ出そうとしていた少将の動きが止まる。
先ほどと同じ観察するような目を向けられ、木乃美はあからさまに視線をそらした。
「いやー俺はてっきり連中にボコボコにされて人には言えない状態になってるかと心配したんだけど、まさか一人で二部隊足止めしてるとは思わなかったよ。確かに膠着状態ではあったけどな」
「……持久戦に持ち込まれた時点では勝ち目はありませんでしたから、あんまり持ち上げないでください」
興奮したラドリオがさらに木乃美を持ち上げ、少将の視線がさらに鋭くなる。
これ以上放置していると、木乃美の特異性……複数の人格とそれに伴った英雄の能力を保有していることを追及されそうなので、マルスは話をそらすことにする。
今彼女の特異性が、帝国や王国に漏れることは得策ではない気がしたのだ。
「少将殿、これで帝国と小鬼の国の同盟は締結されたということでよろしいか?」
「あ? ああ勿論だとも」
「でしたら、そのことを一刻も早く王国に通達していただきたい。王国が、帝国と小鬼が
正式に組んだことを知れば、この辺り一帯にうかつに踏み込んでくるようなことはしないだろう。そうすれば少将殿の活動もやり易くなるのではないか?」
さらに王国がこの周囲から撤退することは、自分たちの追手が撤退することを意味する。
「確かに……一刻も早く帝国の正式な布告として出せるよう努力しよう。今日は良い出会いであったマルス殿……木乃美殿もな」
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