50歩目「それぞれの戦い」
ごめんなさい。昨晩は寝落ちしていました。
「残念ですが取引は中止ですね」
「待ってください! これは私たちが意図したものではなく―――」
状況を見てワザとらしく残念そうに首を振る少将にゴブリースが食い下がる。
しかしゴブリースが何かを言い切る前に、少将はゴブリースの言葉を制するように手を前に出した。
「小鬼の言葉に翻訳しなくてもわかる。今回の遭遇はたまたまであり、自分たちは無関係だそう言いたいのだろう?」
「わかっているなら何でだよ」
さらに食って掛かるラドリオを無視して少将はモニターを閉じる。
「それくらいは吾輩にも見抜ける。ただ残念なことにこのマシーンは積載量と機動力重視のモデルでしてね? 野蛮人どもを駆逐するための兵器は搭載していないのだよ。そしてこの機会を敵に鹵獲されるわけにはいかないのだ。たとえパーツ一つでもな。つまり勝てないし負けるわけでもないから逃げるそれだけの話だ」
モニターを閉じていてもスピーカーは機能しているらしく少将の淡々とした声が響く。
さらにエンジン音が鳴り始めたところで、木乃美が車の前に立ちはだかった。
「どきたまえ」
「要するに彼らをどうにかできればいいんですよね?」
エンジン音が小さくなり、相手が木乃美の様子をうかがっているのがわかる。
「待て、お前何をする気だ」
「いいから……私交渉じゃ役に立てないけど……怖いけど足止めならできるから」
止めようとしたマルスに木乃美は首を振って否定を示す。
「……少将殿、場所を変えて交渉再開といこう」
「いいのかね? 彼女も英雄とはいえ王国の精鋭英雄二部隊は荷が重いと思うのだが」
答える代わりにマルスは馬車の後ろに乗り込む。
「自分でできるって言ったんだ。こいつならやってくれるさ」
―――
連勤馬車の上部から一人の男が顔を出す。木乃美にはその顔に見覚えがあった。
「……あの時のガンマンさん」
鉄兜をかぶり、剣士のような恰好をしているが、木乃美は間違えはしなかった。
「黄、よろしくね」
―――
爆発音が遠くのほうから響いてくるがマルスは構わず交渉用のテーブルと椅子を用意して座る。
隣にはチラチラ音のほうを気にするゴブリースが座って補佐の準備をする。
ラドリオは何やら用があるらしく、馬車の真下に入って何かをしているようだ。
「いつ彼女が突破されるかわかりませんから。手早く交渉を済ませましょう……もし今一度吾輩のみが危険にさらされるようなば吾輩は逃げますから。よろしいですね?」
「ああ構わないさ……さあ始めようか?」
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