49歩目「口は禍の元」
「それではさっそく取引を始めましょう。吾輩はローレル少将、帝国東部方面軍の司令官だ」
「俺はマルス・ウル・ゲヘナ。今回帝国との条約を締結するにあたり小鬼の国の代理人だ」
マルスの言葉にローレル少将は僅かに驚いたような表情をする。
明らかに最年少と思しき少年が堂々と自分に意見してきたことに驚いているのだろう。
それでもすぐに表情を元に戻すあたり、こういう交渉には慣れているのだろう。逆にゴブリースはなぜか戸惑ったような顔をしている。
「あの……あちらの方はなんとおっしゃったのですか?」
「ん? お前を聞いていただろう?」
申し訳なさそうにマルスの服を引っ張るゴブリースにマルスが怪訝な顔をする。
そのやり取りを見て少将は納得のいったと言わんばかりに頷いた。
「なるほど、お前は……あるいは三人とも英雄か」
「……まあ隠す理由もない。そうだが?」
「今私は人間の言葉でしゃべったのだ、そちらの亜人殿は人間の言葉が分からないのだろう」
英雄の能力の一つ『言語理解』はどんな言葉でも母国語のように理解させてしまう。
街中ではマルスは気を付けていたのだが、意外に緊張しているのか亜人と人間で言葉が違う可能性を失念していたらしい。
「なぜわざわざ……と聞くまでもないか。差し詰め音声を何らかの方法で保存して、後々帝国の上層部に報告するためだろう? なるほど代理人が必要なわけだ」
「……いやはや人は見かけによらないものだ。マルス君の言う通りだ、この会話は録音させてもらっている。方法は国家機密だがな。さて話し合いを始めるために別の地点についてきてもらいたい」
ちなみに木乃美とラドリオは黙って立っている、交渉が始まる前に木乃美には口を出さない様に、ラドリオには此方が声をかけるまで黙っているようにとマルスから言われていたのだ。
「ん? この場で始めるんじゃないのか?」
「なに、以前彼と取引していたころは安全だったのだが、最近はこの辺りまで王国の野蛮人共が現れるのでな、もう少し西に移動してもらうためだ」
ゴブリースに場所が移動することを告げ分かりやすく広げていた荷物を片付ける。
「王国の連中がこの辺まで来てるのか……と言っても毎日来るわけじゃないだろ? きょうは大丈夫だよな」
荷物を片付けて終えて御者台に座るラドリオに木乃美は小さく首を振った。
「あのね、ラドリオさん。私の世界ではそういうことを言うと本当に王国の追手が来たりするんだよ?」
「お前もだ……と言っても手遅れらしいな」
ため息をつくマルスの視線の先には、砂煙を上げてこちらに近づいてくる二台の錬金馬車の姿があった。
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