39歩目「決着」
オグリアスのカウンターの一撃が赤の横を掠めるように通り過ぎる。
もし今まで通りお腹狙いの一撃だったならば今の一撃で叩き落とされていた。
オグリアスは焦った結果『何故赤がオグリアスをここまで打ち上げたのか?』という疑問が頭から抜けていたのだ。
「せいやあああ!!!」
渾身の叩きつけが、オグリアスの後頭部に叩き込まれる。
気甲拳で防御してもその衝撃は抑えきれない、そして赤の狙いは一撃そのものではなく、この高度そのであった。
後頭部を殴られた結果、オグリアスは頭から地面に叩きつけられる。
自重に加えて、オグリアスの背丈の二倍以上の高さを高速で叩きつけられる。
「うっ!」
余りの衝撃にオグリアスの意識が飛びかける。
いくら頑丈な大鬼といえども気甲拳が無ければ首の骨が折れていただろう。
「とどめっ!」
「ま、まて!!」
さらに空中から追い打ちをかけようとする赤に対して、オグリアスは必死に声を張り上げる。
その声に慌てて制動をかけたのであろう、赤の一撃はオグリアスの頭をかすめる様にして地面に叩きつけられた。
「えっと……なに?」
「降参だ……お嬢ちゃんの勝ちじゃよ」
『強者の試練』は何方かが死ぬか、気絶するか、降参するまで続く。
今ここで降参しなくとも、今の一撃が頭に入れば確実に自分は殺されていたとオグリアスは確信できた。
つまり降参しなくとも彼女の勝ちは揺るがないのだが、問題は自分が殺された後だ。
もし英雄であり、守護神の弟子である自分が殺されたならば周囲の小鬼たちの感情は最悪になるだろう。
良くて強者の試練のやり直し、最悪試練の結果を無視して彼女たちを殺しかねない。
そんなことになれば亜人ではなく、本当に唯の魔物になってしまう。
それに彼女達ならば救えるかもしれないのだ。
人の王国と帝国に挟まれ、今まさに滅びようとしている偉大なる師匠の種族、小鬼たちを。
オグリアスの宣言に、息をのんで試合の様子を見守っていた観客たちは一斉に歓声を上げる。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「赤だけど」
「皆の衆! 勝者にして新チャンピオン、赤じゃ!!」
「あーか! あーか! あーか! あーか!」
オグリアスが登場した時と同じように、小鬼たちが足を踏み鳴らして歓声を送る。
自分が殺されていたらこうはならなかったであろう、オグリアスはほっと胸を撫で下ろした。
「おいおい……なんかすごいことになったな」
今までと一変自分たちにも向けられる歓声に、ラドリオは苦笑いをしながら周囲を見渡す。
そこに先ほどまでの敵に向ける様な厳しい目はない。むしろ勇者を称える様な尊敬のまなざしすらうかがえる。
「当然だろう……俺の配下だぞ?」
「おお……」
マルスの発言に小鬼たちは驚きと畏怖の声を上げる。
「……やればできるじゃないか」
にやりと笑いながらつぶやいたこの一言は、彼らの歓声の中消えていった。
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