36歩目「英雄の技術」
「くそっ」
赤が吹き飛ばされたのをみてマルスが思わず腰を浮かす。
今すぐ飛び出そうか迷っているような様子だったが、赤が問題なく着地したのを見てようやく腰を下ろした。
「ありゃどういうことだ? 急にでかぶつの体が光ったと思ったらあいつの拳が止まった」
「ああ、ありゃ気甲拳って言うらしいぜ?」
座って腕を組んだマルスにたいして、ラドリオは少し自慢げに語り出す。
「……ずいぶん詳しいじゃないか」
「さっき負傷兵を送って行ったとき、ちょっとな?」
ラドリオのことだから上手い事煽てて情報を聞き出したのだろう。
商人にとってこういう情報は自身の商売の生命線だ、フリーの運び屋となればその情報を得るためのノウハウも相当の物なのだろう。
「あれは小鬼の英雄、ゴブリアスが伝え広めた『技術』だそうだ」
「技術ってことは能力とは別か」
「俺としてはそれよりも今の並外れたお嬢ちゃんの身体能力について説明してほしいんだけどな?」
英雄には三つの能力が最初に与えられ、これは以後増えることがない。
これはマルスが今まで調べてきた結果だした結論だ。しかもそのうち二つは決まったもので英雄固有のものは一つしかない。
そしてこの能力は継承することができないらしい、らしいというのはマルスが実際に確認したわけではないからだが。
子供を作っても弟子を徹底的に鍛えても、同じ能力を持たせることは出来ないらしい。
では技術とは何か?例えば戦士ならば、元の世界で修めた剣術の類だ。
動きとして似通ったものがあったとしても、その剣術は英雄の世界独自のものだ。
そしてこの剣術は各々弟子や友人に伝授することができる。
王国でいうならばまさに魔法は英雄の技術の類だ、帝国の機械兵関連の技術もそうだろう。
英雄は単独戦力だけでなく、技術の面でも期待されているのだ。
そしてラドリオ曰く気甲拳は小鬼の英雄ゴブリアスが仲間たちに広めた技術なのだという。
自分の体の周囲に気と呼ばれる力(マルスは魔力と同質のものではないかと推測している)を集めることで皮膚の硬度と魔法に対する抵抗力をあげるのだ。
小鬼の皮膚は人間と比べ丈夫でほんの僅かだか魔法に対する抵抗力もある、普段ならば気にならない程度の固さと抵抗力だが、気甲拳を使うことでこれが数十倍に引き上げられるのだ。
手練れの小鬼の気甲拳ならば、機械兵の攻撃を弾き、英雄たちの攻撃や魔法すら防ぐ。
それが小鬼よりも固く、魔法抵抗力をもつ大鬼の手練れならばどうなるか。
「さて、これで一発づつ……お嬢ちゃんは俺の守りを破れるかな?」
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