32歩目「闘技場」
「時間だ……最後のお祈りはすんだか?」
マルスたちを呼びに来た小鬼が小馬鹿にしたような言い方をし、周囲の小鬼たちもゴブゴブと彼ら特有の笑い方をする。
完全に舐められている所からこれから始まるのが戦いだと思ってもいない。
「おい、さっきの女がいないが?!」
「それが……」
「僕がそうだよ! さっき長老?さんも言っていたでしょ?僕は姿が変わるって」
呼びに来た者は顔をしかめて……恐らく腑に落ちないというような顔をしたのだと思う。
しかし監視の者たちがその通りなのだと頷くと、納得いっていない様な雰囲気を醸し出しながらも案内を始めた。
「両手に盾……武器を持っていないようだが魔法を使うのか?」
「どうかな?試したことはないけど……今回は腕っぷしだけで戦うよ」
「無謀な……我らは勿論オグリアス様は人間よりも……並の大鬼よりもさらに強い力と、何よりあの技がある。本当に勝負にならんなこれは」
「ん? 戦いは蓋を開けてみるまでは分からないよ? 青ちゃん辺りは『戦いは始まる前にほとんど終わっている』って言うかもしれないけどね」
「まあ精々頑張れ……我々も退屈しているんだ」
しばらく案内の小鬼について行くと薄暗かった通路の向こうが明るくなってくる。
出口が直ぐ近くなってくると案内の小鬼は脇へと退き、顎をしゃくって先に進むように指示する。
赤を迎えたのは圧倒的な罵声とブーイングだ。
本来ならば、言葉だけでなく何らかの危害を加えられても可笑しくなかったが、これは『強者の試練』だ。
強者の試練では試練を受ける相手を勝負するもの以外が妨害することを禁止している。
実際に妨害が加えられた場合、妨害を加えられたものが勝利することは勿論のこと、妨害した者は部族を追われる。
それを知っているからこそ、彼らは罵声を浴びせるだけにとどめたのだ。
赤は罵声にあえて笑顔で手を振り答え、マルスは忌々しそうに舌打ちをしラドリオは苦笑いをする。
そんな彼らに対しても罵声は続けられていたが、それは突然途絶えた。
巨大な足音、その一歩一歩から自信が感じられる。
足音に合わせて、周囲の小鬼たちが足を踏み鳴らし始めた。
「オグ!オグ!オグ!オグ!」
初めは小さな叫び声だったその声と足踏みは次第に会場全体へと広がり、そして最終的には会場を一つの生命体のように変える。
「オグ!!オグ!!オグ!!オグ!!」
そしてそれが姿を現した時、それは完成へと変わった。
傷だらけの赤い巨体、本来種族柄あまり賢そうに見えないその瞳からは強い理性の色がみえ、無駄な脂肪はどこにもない。
「……困ったな、敵は予想以上に強そうだ」
全く困っていない様な満面の笑みで赤は戦いの部隊へと飛び乗った。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次から戦う……といいなあ。




