3歩目「防衛網」
良ければ兵舎までついて行って取次ぎを手伝おうかというお節介な御者を
「そこまで厚意に甘えちゃうと父に『この人にも仕事があるのに頼り過ぎるんじゃない』と叱られてちゃうから」
と乗り切り、マルスは木乃美を連れてキャニオリアの町を歩く。
キャニオリアは王国の国境……正確には防衛線の直ぐそばに立つ町だ。周囲を城壁に囲まれた城塞都市で人口は地方都市にしてはやや多いらしい。国境が正確ではないのは隣国との間には明確な国境線がない、何故ならこの先は砂漠や荒野、草木の少ない谷などで人間の集落は少なく国境を線引きする必要がなかったらしい。なかったと過去形なのは近年地下に含まれる金属類を求めて帝国が進行してきているからだ。 そのため王国の西端であるこの町に防衛線が引かれることになったらしい。
「(問題は、その防衛線が行くのも戻るのも監視しているってところか)」
マルスが馬車から眺めた街道沿いには、ほのかに光る四角柱の柱が立ち並んでいた。恐らくあれが魔法による防衛網だろう。お互いをほのかな光の線で囲んでおり、それ自体は触っても害はないらしいが近づいた途端に近くの警備兵が駆けつけてくる仕組みだそうだ。
「さて……肝心の鳥さんにはどこへ行けば会えるんだっけか」
マルスはカバンの中をまさぐる、たしか落ち合う場所や方法などを書いたメモを受け取っていたはずだ。
「町の中央通りにある宿屋『モグラの谷』の一階のレストランで、今日のオススメを注文した後にお菓子の買える店を聞く。だったと思う、その後話しかけられたら兎型のお菓子を探しているって答えるんじゃなかったかな」
「お前……それ聞いたの数日前だろ。よく覚えてるな」
木乃美のすらすらと言った方法にはマルスにも聞き覚えがあった、念のため後で確認する必要があるが恐らく間違いないだろう。
町の中央通りは、王都の歓楽街や商店街には及ばないが様々な店が軒を連ねている。知らない街並みというのは人の心をくすぐるものだ。それが自分に縁もない土地や世界ならなおの事だろう。はっきり言ってマルスも木乃美も油断していたのだ。
「おいそこの二人とまれ」
「はい」
「……」
内心無意識に浮かれていた自分をマルスは殴りたくなった。見知らぬ町とはいえ警戒を怠るとは、自分たちが曲がりなりにもお尋ね者であるという認識が足りなかった。明らかにお上りさんな見慣れない二人組を不審に思ったのだろう、見回りと思われる兵士の一団が二人を呼び止めたのだ。
「見慣れない顔だが、こんな辺境の町まで観光かね?特に見る物もない町だとは思うのだが」
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