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2歩目「乗合馬車」

「へえ、国境警備しているお父さんに会いにねぇ」

「うん、お父さんは英雄さんの手伝いくらいしかできないって言ったけど」

「なに、英雄だってそういうサポートがあるから戦えるってもんさ」

 今時わざわざ辺境行きの乗合馬車に乗るものは少ない。辺境の餅と言っても普段の生活に必要な物はそろっている、生活必需品は勿論嗜好品を売る店だってあるから態々外の街に行く必要がないのだ。そんな馬車に乗る人間は、出稼ぎに行く者や大きな町にしか売っていない物を買いに行った町の者が使うくらいが精々だ。行きの馬車も帰りの馬車も運航している御者にとって見慣れない客はそうそういない。そんな中見かけない赤毛の少年少女が乗ってきたならば、気になって話しかけてしまうのは人の性と言うものだ。ほかに客がおらず、後退の御者は休憩中で護衛は話しかけられる範囲にいないとなればなおのことだ。

「お姉さんの方は随分無口だねぇ」

「本を読んでいると夢中になっちゃうんだ、気にしなくていいよ。それとも可愛い女の子じゃないとお喋りは楽しくないの?」

「いやいや坊やとの会話も楽しいさ」

 御者は苦笑いをしながらも姉の方を横目で見る。全体的に地味な服装ではあるが、生地は小奇麗で使い込んだ様子がない。白い手袋といい穏やかな物腰といい一般兵ではなく少し裕福な家の子なのかもしれない。姉の方は出発してからずっと難しそうな本を読んでいる、あいにく題名はカバーのせいで読めないが分厚く重そうな本は大衆文学の類ではなさそうだ。こんな乗合馬車よりも明るいテラスでサマードレスに身を包んで本を読んでいる方が似合いそうだ。

 対して弟の方は随分人懐っこく話し上手の聞き上手だ、普段はお客とこんなに会話したりはしないのだが、彼と話しているとドンドン会話が進んでしまう。彼の年齢がその倍であったならば酒場にでも誘って一緒に飲みたいくらいだ。

「お、キャニオリアの街まであとちょっとだ。そろそろ降りる準備をしておくれよ」

「分かった、ほらお姉ちゃんそろそろ降りるよ」

「うん、マ―――」

 姉が一言何か言いかけた瞬間弟が後ろを向いた。どんな顔をしているのか分からないが一瞬雰囲気が変わった気がしたのは御者の気のせいだろうか。

「マ、ママからのその、パパへのメッセージもちゃんと伝えないとね、うん」

 

 どうにか取り繕う少女の様子に、マルスは御者に気付かれない様にため息をついた。如何にも木乃美はこの手の演技が苦手であり、本を読んでいろ、しゃべるなと言っておいたのだがまさかこんな所でぼろを出しそうになるとは。

 例の人材派遣会社と別れた後、あらかじめ用意しておいた魔法の毛染めでお揃いの髪色と、眼鏡などで変装した二人は乗合馬車で国境沿いを目指していた。迎えに来た彼らの話では、この街にマハリが馴染みの運び屋がいるらしい。

「……ほら、早く荷物をまとめてね」

 まだまだ前途多難な逃亡生活にマルス再びばれないように小さくため息をついた。

近々新キャラ登場の予定です。

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